79.ルントの冒険者の実力
私のことなんて一切無視して、刃はクリスタに向けられた。しかも、予期しない形で。
なのに、クリスタの対応は極めて冷静だった。
地面と天井の両方から土の槍が突出し、さらに正面には氷の壁が立ちはだかる。空中にいる人形に避ける術などないはずだ。でも、人形は避けた。腹から出た腕で壁を押し、無理矢理方向転換する。土の槍も氷の壁も人形にあたることはなかった。
そして、着地した先にはモネスがいた。唐突な目標変更にモネスは戸惑いながらも応戦を試みる。首筋を狙うナイフを左腕で受け止め、右でカウンターを決めようとする。
その右の拳が人形に届くことはなかった。モネスの攻撃は完全に見切られていた。すれすれで回避されたどころか、代わりに防いだはずのナイフをもつ手から小さな針が飛び出し、モネスの首に命中する。
「は?やば……」
「毒だ!早く抜け!」
「わかってるって!」
クリスタの警告に言い返すモネス。
モネスをサポートするようにクリスタが人形とモネスの間に氷の壁を築き上げる。人形が後ろに飛ぶ瞬間、モネスが針を飛ばした人形の腕を引っ掴み、腕が氷の壁に巻き込まれた。
人形の判断は早かった。早々に巻き込まれた腕を切断し、距離を取る。腕がそのままだったら私とクリスタの斬撃を浴びることになってた。でも、どのみち距離を取った先には私がいた。
袈裟に下ろした魔剣は見事に人形の肩口を捉え、人形を真っ二つにした。
「狭い空間だったからなんとかなったな」
うるさいな、こいつ。
ヘクターの余計な一言に聞き流しながら、機能を停止させた人形を見下ろす。不気味な仮面で隠された顔はリーゼロッテのものだった。まじでホラーすぎてもう二度と相手にしたくない敵だ。でも、これボスでもいるんだよね。想像するだけで気が遠くなりそうだ。
「まじ死にかけたよ……」
自分の治療よりも優先して人形の腕を掴みにいったモネスの判断はなかなかできるものじゃない。自分の耐久力と治癒能力に自信がないとできないことでもあった。実際、モネスの首に刺さった針はすでに抜かれていて、毒の治療もすでに完了していた。
ちなみに、今になって私が『シーカー』のスキルで毒の効果を鑑定してみると、致死性の毒らしく、針に刺された程度でもものの数分で全身が麻痺してその後死に至るらしい。
どんな高額な報酬であってもこのダンジョンの第四階層で狩りはしたくないなと思ってしまった。逆にこの毒を求めて第四階層に挑む人間もいたかもしれない。第三階層の魔物が所持してる武器にも毒は塗ってあるけど、ここまで即効性のあるものじゃないし、殺意もそんなに高くない。治療しなかったらじわじわ死に近づく程度のものだ。
「ちなみに、中途半端な回復魔法だとその毒は治癒できなかった。持ち帰った際に拠点で確認済みだ」
「あ、あああの毒ってこいつの毒だったの!?それ早く言ってよ、まじビビったじゃんか!」
「おまえなら状態異常を解除できるって知ってたからな。特に問題はない」
いや、問題大ありだろ。報連相ちゃんとしろよ。一人で完結してるからモネスも若干キレてるじゃん。それでも、ヘクターに惚れてるんだからモネスという女性は相当辛抱強いのかもしれない。
ネーヴのほうを見ると、まだ敵は残ってたけど、手を貸すまでもなさそうだった。適時ビビアナが雷撃で遠くの魔物を倒してるので、ネーヴとスレイで処理しきれないということはなかった。終わってみれば拍子抜けな状況だ。そんな中、平然としてるヘクターに妙にイラついた。
クリスタ、ここ突っかかるとこだぞ。おまえのクレーマー気質の出番だ。ほら、早くヘクターの顔面をマッシュポテトにするんだ。
「第四階層のこの敵の出現頻度はどのぐらいいる?」
「そんなにいない。出てきたとしても一体ずつだ。リーゼロッテが動かす前提だからな。こいつ自体に意思はない。問題があるとすりゃ、第四階層にはこいつが至る所に転がってることだ」
「そうかい。じゃあ、面倒だが一体ずつ片付けていかないといけないね」
おいいいい、特に感想なしかよおおおお。普通に会話続けちゃってるし!どうしちゃったんだよ、クリスタァ!おまえの触れたら刺されるどころかメッタ刺しにされる尖りまくった棘はどこいったんだ!
なんてことは言えるわけでもなく、視線を合わせたら何か言われそうなので私は無関心を装うことにした。
とにかくここで戦闘が起こったことは今後のことを考えたら、良かったことかもしれない。スレイ、モネス、ビビアナの大体の実力はわかった。侮ってたわけじゃないけど、申し分のない三人だ。スレイは前衛としてかなり頼りになるし、モネスの治癒能力はこの先欠かせないものになる。自分自身がやられたとしてもリカバリーできるのが頼もしい。
そして、一番驚かされたのはビビアナだ。魔術の素養だけならクリスタを遥かに上回る。たった一回の先頭でそう思わせる実力を彼女は持っていた。




