75.英雄パーティーのステラ
ヘクターが私たちを攻略パーティーに加えた理由はもはや明白だった。私がいるからだ。他はプラスアルファにすぎない。
それを踏まえて考えると、ヘクターは何も考えてないように見えて非常に思慮深い人物だと言える。
クリスタ相手に起こした決闘騒動も何重の意味が含まれてる。クリスタの力量を測り、カタリナに場の収拾をつけさせ、戦い方で自分が操られてないことを証明しようとした。それでいて本命は私なんだ。狙いが私であること撹乱していたとも捉えられる。
「私をどうするつもりだ?もしかしてダンジョンのボスに差し出すのか?」
「別に……どうもしない。連れてこいと言われたから連れてきただけだ」
人がせっかく心の中で褒めたっていうのになんだその間抜け面は!
そんなこと言われるのは心外だとばかりにヘクターは目をまんまるにさせて唇を突き出してる。ばかにされてる気分だ。明らかに計算されてる行動なのに、本人はそうであることを顔にも口にも出さない。
「話が見えないんだけど……?」
モネスを筆頭にビビアナとスレイが訳がわからないと首を傾げてる。その様子からもヘクターの独断であることが窺い知れる。
「私はオーステアだ。それ以上でもそれ以下でもなし!もし何か聞きたいことがあるんだったらそこの昼行燈に聞いてよ」
実は私英雄パーティーのステラなんだよねードヤァって自己紹介するの恥ずかしすぎるわ。自分一人でいた頃も使ってなかったから、まともに名乗らなくなってからもうかれこれ15年近くなる。オーステアと呼ばれたほうが馴染みがあるぐらいだ。ステラという名前は胸に秘めた思い出とともにある。勝手に呼んでも構わないけど私のいないところでやってくれ。いや、やっぱ私のいないところで呼ぶな。
なんてことを頭の中でぐるぐる考えながらムスっとした表情で黙りこくった。
「彼女の本当の名前はステラだ。英雄パーティーのステラ」
「うそ……あの伝説の?『ヴォルフガングの赤き眼光の死神』って元ローニアの冒険者が言ってたあの……?」
モネスが口に手をあててめっちゃキラキラした瞳で私を直視した。
それより、なんだその恥ずかしい二つ名は。しかも初耳だぞ!ん……?そういえばゲラートと初めて会った時、死神って言われた気がする。あれ省略されてたのか。黒歴史すぎない?いい加減そこから発想を転換してもらえないかなあ。
隣でネーヴが唇を震わせてる。絶対こいつ笑い堪えてるだろ。あーあー、見損なったよ、ネーヴさんよぉ。いや、最初から私の二つ名に関しては茶化されてた気がするな……今更か。ちくしょう、『深き森の精霊』とか『赤き眼光の死神』とか、人をなんだと思ってんだ。本人は望んでないけどどっちも同一人物だよ!
「かっこいいじゃん。いいなあ、私も二つ名ほしい」
「うるさい」
せめてフォローしてくれ!フォローになってない!
この件に関してはネーヴをあてにできない。面白がってる、失礼なやつめ。
静観を決め込んでたクリスタもさすがに笑いを堪えられなかったのか、いつものムカつくニヤニヤ顔を私に向けてた。ここはダンジョンの中で、私たちはダンジョンの攻略中だ。まじめにやってほしい。その顔面に潰した芋塗りたくってやろうか。
「きゃー!めっちゃファンなんです!あとでサインもらえます?」
「おい、ここはダンジョンだ。そういうのは攻略してからにしろよ」
舞い上がったモネスにヘクターが釘をさす。
「わかってるわよ!でも、まさか一緒にダンジョンに潜れるなんて最高だわ。私匂ってない?大丈夫?」
「いつも通りだ」
はしゃぐモネスに呆れるようにスレイは言った。ヘクターに諫められるまでガンガンに距離を詰めてこようときてたから一応節度は保ったみたいだけど、どうやら私の熱烈なファンであることは間違いないようだ。
私自身はあのダンジョンでそう大したことをやってない。まったくとは言わないけど、アストリッドとオズワルドの活躍がほとんどだったし、私の力なんて微々たるものだ。だからということもあって、憧れを抱かれることに抵抗がある。
「ヘクターはなんでオズの正体がわかったの?魔術師の恰好をして容姿を隠してはいるけど当時のことを知ってる人間なら思い当たることもあるかもしれない。でも、ヘクターはここでオズと合流する前から正体を掴んでたってことだよね?どこぞの馬の骨かもわからない他国の冒険者を消息を絶った生死不明の英雄と目星をつけるなんてよっぽどの根拠がないとおかしいなあと思うんだよね」
ネーヴの鋭い質問に再びヘクターに注目が集まる。
そうだ。このダンジョン攻略に私を連れて行くのが必須だったとはいえ、どうして会ったこともない冒険者が英雄パーティーのメンバーだったと結びつけることができたのか。この合同攻略の根幹ともいえる。それこそ、ヘクターは私がいなかったら絶望していたのだから。




