70.暗殺者のダンジョン攻略開始
結局その後私たちは解散してそれぞれのテントに戻った。あっちが主導権を握ってるから従ってるけど、正直なところ情報の共有が充分とは言えない。
モネスが最後に言ってた言葉が本当なら、彼はとんでもない努力家だ。
「ヘクターは何一つスキルを持ってないの。魔力もからっきしで何の才能もないはずだった。それなのに、ルントの冒険者の頂点に登り詰めた。かといって他人を見下すわけじゃなく、新入りの冒険者にも気さくに話しかけて悩みを聞いてあげたり、危険を顧みず人を助けにいったり、情に厚いのよ。なのに、孤高のAランク冒険者ってかっこよすぎじゃん!?」
モネスのヘクター像は私が受けてる印象とは乖離があった。
ヘクターの人格はちぐはぐに思えた。私から見たら杜撰な管理体制と情報共有の怠慢を招いてる諸悪の根源だ。大言壮語を吐いてそれをはぐらかしてる無能とも表現できる。でも、ルント側からしたらヘクターは任せておけば戦況を覆す切り札であり、仲間を決して見捨てたりはしないヒーローだ。まったく彼を知らない私たちからしたら疑念を払拭できないのも無理はない。
「クリスタ戻ってこなかったね」
「ヘクターと何話してんだろ」
拠点にはもう日の光が差し込んでいた。出陣の時だ。集合場所はダンジョンの入り口前。カタリナはすでに指揮を執るために現場に向かった。今はネーヴと私だけだ。
「なんか今までとは違う気分だなあ。ヘクターがどこまで信じられるか……最悪私たちが独自の判断を下さないといけない時がくるかもしれないね。でも、正直なところ不安は感じてないんだ。確かにヘクターにはお粗末な部分が多々ある。それなのに、やけに自信満々だ。根拠はないはずなのに、妙に納得してしまう」
「……それ私に言ってる?」
「オズが不安そうにしてるから私の所感を述べたのさ。そんなに不安なら『シーカー』のスキルでヘクターを見てみるといいよ」
たぶん無理をすればヘクターの根拠を『シーカー』で見ることができると思う。昨日も見ようと思ってやめたし。人物名やスキルを覗き見るのは容易い。ヘクターはスキルを所持してないみたいだから意味ないけどね。でも、その人物の思考となると付随する情報量が多すぎて私の頭がパンクしてしまう。それを覚悟でやるのもいいけど極力それは避けたかった。
『シーカー』は汎用性のあるスキルだけど燃費という点においては最悪と言っていいレベルだ。私の精神がすりへるという意味でね。
「……やっぱやめとく」
色々な考えを巡らせて私はそう言った。私の考えてることなんてネーヴの考えてることに比べたらゴミみたいなもんだけど。
「オズには申し訳なく思ってる」
「なに急に」
「冒険者はお金を稼ぐ方法でしかなかったはずなのに、こうして連れまわしてしまってる。本当は色んな国を旅する予定だったのにね」
「最初はね。もういいよ。別に気にしてないし。ていうか、今更じゃん。私はネーヴと一緒にいられればいい。ただそれだけだよ」
本当に今更だ。振り回されるのは今に始まったことじゃない。もう4年近い付き合いになるんだ。謝るなら最初だけにしてもらいたい。ネーヴは強情なところがある。それは旅にでた初日で理解できた。だから、もう諦めてる。私の人生は人間よりも長い。それはドラゴンであるネーヴも同じことだ。
「じゃあさ。落ち着いたら改めて旅にでようか。しばらくダンジョンのことを考えるのはやめて。ずっとは無理だけど、そういう時間があってもいいと思う」
「どうしたの、ほんと急に」
私は大歓迎だけど。小うるさいクリスタは除いて二人で行きたいな。でも、あとで散々愚痴を言われるのもめんどくさいな。あいつはさっぱりした性格をしてるくせに私のことに関してはねちっこいんだよなあ。
「最近働きづめだったしなー」
なんて言ってネーヴは笑った。
それはほんとにそう。そろそろ休ませてほしい。何度八つ当たりでヴィクトールを殴ってやろうと思ったことか。
なんて話をしてたら、もうダンジョン前に到着してしまった。なんだか気持ちが軽くなった気がする。ネーヴのおかげだ。こんなダンジョンさっさと攻略して帰ろう。
「さてと、気を引き締めるとしようか。オズ、さっき私不安はないって言ったけどね。たぶん私たちが一緒に挑むダンジョンの中で一番過酷な攻略になるよ。それぐらいこのダンジョンの難易度は高い」
どういうこと?
私はネーヴに聞き返そうとした。でも、それより先にヘクターの声が耳に届いた。
「おーし、全員揃ったな!ちゃんと全員休めたか?休めてないやつがいたらそいつの顔面に水をぶっかけてやれ。俺たちは必ずこのダンジョンを攻略する。だから、最後の最後まで信じて戦ってくれ。だが、誰一人として死ぬことは許さんからな!気張っていけよ!」
ルントの冒険者たちが雄たけびをあげる。ヘクターのカリスマ性が窺える光景だった。たまに聞こえる罵声も親愛の証なんだろう。
ダンジョンの入り口は巨大な洞穴になっている。薄暗く先は見えない。そこを抜けたら第一階層はスラム街だ。
「行こう、オズ」
私と繋いでる手を引っ張ってネーヴは足を進めた。出かかった言葉を飲み込んで、私も歩き出した。




