67.スレイのスキル
「第一印象は最悪だったけどクリスタは別にヘクターのことを嫌ってないよ。クリスタは本当に嫌ってたら会話は最低限で済ませるし、煽られても微動だにしない。顔には常に笑顔を貼りつけてる。たとえ相手が正論パンチでボコボコにしてきたとしてもね」
ネーヴの解釈を耳にして、言われてみればそうかもしれないと妙に納得してしまった。
クリスタは自分のやりたいこと以外のことについて関心が向かない。逆に、自分のやりたいことに少しでも関係するなら真摯に対応する。例外があるとすれば、程度の低い連中に絡まれた時だ。つまり、クリスタは足を引っ張る連中に容赦がない。でも、ヘクターは足を引っ張るようなことをやりまくってるのに、その程度の低い連中にする対応をクリスタはしなかった。
クリスタは相手をしないだけだけど私が絡まれたら咽び泣くまでイジメるけどね。なんて考えてたら、昔ゲラートが敵だった時に私以上にゲラートを言葉で追い詰めてたクリスタを思い出した。
「では、明日のダンジョン攻略には支障はないと見ていいんだな?」
「心配ないさ。そんなことよりもいいの?私たちは君たちのことを知らないし、君たちだって私たちのことを知らない。攻略の最前線は一つのミスが命取りだ。即席パーティーで攻略したこともあるけど、あんなことは滅多にやるもんじゃない」
それは私も気になってたことだ。ヘクターからはダンジョンに関する情報を私たちに伝えたけど、パーティーの連携の話はしなかった。これから一緒に潜る相手のことを知らないのにヘクターはどう進行しようというのか謎だった。
「信じてもらえないだろうが、それについては問題ない。なんだったら俺たちも交流はあれどヘクターと組むのは初めてだ。なんというか、ヘクターは人を使うのがうまい。ヴォルフガングの冒険者の情報は全てあいつの元に送られた。上級冒険者のモノだけな。カタリナ殿の推薦がなければおまえら三人は見落とされてたところだった」
なるほど、そこだけ聞くとヘクターが怒ってる理由もなんとなく分かる気がする。提供されたデータ上に存在しない上級冒険者以上の実力者ってなんの冗談だって話だ。私のことじゃなかったら私だってふざけてるって愚痴ってる。
「じゃあ、ヘクターが私たちを選んだってこと?」
私の問いにスレイは深く頷いた。
「もちろん、確定ではなかった。だからこそ、ヘクターは一芝居うった。結果は合格で間違いない。でなければ、喧嘩を売る意味もないからな」
「たしかに」
そこに来て初めてビビアナが私の淹れた茶に手をつけた。やっと心が落ち着いてきたんだろうな。彼女は間に挟まれた被害者だ。なんだか不憫だ。口に運ぶのにも悪戦苦闘してる。
「それでも、まったく俺たちの能力を知らないのも不安なのは察する。代わりといってはなんだが、俺たちの戦い方をちゃんと話しておこう。さすがにこの場にいない二人のことは言えないが」
「そういうところは律儀なんだね。顔合わせの時は喋らなかったのに」
ネーヴの言葉にバツが悪そうに頭を掻くスレイ。見た目はいかついゴリゴリ系なのに今回のパーティーメンバーの中でモネスと同じぐらい気を配ってる。
「俺は……口下手なんだ。ああいう場だと特に言葉に詰まってしまってな。なるべく喋らないようにしてる」
「へえ、ごめんね。含むような言い方をして。深い意味はないんだ。私も冒険者らしいやり取りをしたいと思ってついやっちゃっただけだから」
えっ、そのためだけにあんな圧だしてたの?やばくない?
カタリナのほうをちらりと見たけど、目をひん剥くどころか何かを諦めたような達観した表情をして何もないところを眺めていた。彼女なりの現実逃避なんだろうね。残念ながら私は彼女に寄り添うことが出来ない。たとえネーヴに非があろうとも私はネーヴの味方だからだ。
「それで……?」
話が脱線してしまったのでやむを得ず私が続きを促した。
「ああ、俺の武器は槍と盾だ。狭いところではモーニングスターを使ってる。『空間収納』スキルを持ってる。ビビアナは持ってない。スキルは『不動』と『剛腕』を所有してる。敵が突進してこようが大抵は一歩も動かずに防げる。『剛腕』のおかげで片手でもかなりの破壊力のある打撃を繰り出せる」
ご丁寧にスキルまで明かしてくれるようだ。だけど、どうしたもんか。ネーヴの『竜体化』も私の『シーカー』もレアなスキルで口外を憚れる代物だ。特に、私の『シーカー』は知られれば争いの火種になる。隠したほうが賢明である。『魔鉄錬成』のほうだけ伝えたほうがいい。
「奇遇だね。私も『剛腕』持ちだ」
ネーヴはしれっと嘘をついた。なるほど、そういう方針か。多少の罪悪感はあるけど仕方ないことだ。
そういえば、クリスタってどんなスキルを持ってるんだ?聞くと絶対茶化されるからムキになって聞かないでおいたけど、今になって無性に気になってしまった。




