65.どうしたら恋愛話になるっていうんだ
しばらくするとカタリナが戻ってきた。
ヘクターとの打ち合わせが終わったあとだから疲労困憊してるだろうと思ったのに、彼女の表情には翳りがなかった。というより、ヘクターと揉めた時よりも気が引き締まってるように見えた。ようやく自分の仕事に専念できると安堵したかのような晴れやかな表情とも言える。
間違いなくヴォルフガングの冒険者代表が問題ばかり起こすので気苦労が絶えないからだ。心なしかクリスタのほうを見ようとしてない気がする。失望したとかじゃなく、今は関わりたくないといった感じだ。
「お疲れ様。どうだった?」
ネーヴがねぎらいを込めて飲み物をカタリナに渡した。中身は当然温かい薬草茶である。雨は相変わらず降ってるし、そうでなくてもこの時期は地味に体が冷える。すでに拠点の中じゃお酒を飲んでる人もいるけど、大事な話し合いがあるのに飲もうとする人はいないようだ。さすがに他国の冒険者がいる中じゃはっちゃけられないのかな。
冒険者なんて大雑把なもので、酒を飲みかわしながらサイコロを振るように明日の命運を決めるなんてこともザラにある。死と隣り合わせの職業だから感覚が麻痺してるとしか思えない。クリスタは気質こそ冒険者だけど酒に溺れるような真似はしないから非常に助かってる。ただでさえ通常時ですら振り回されてるのに、酒で気分が高揚した状態だと何をされるか分かったもんじゃない。
「任務のことだけで言えば彼は非常に優秀な指揮官だ。ほとんど根回しは済んでて顔合わせがメインだった。今回の私の役割は君たちの攻略を支援するものだ。他のAランクと上級の冒険者もな。君たちのことを認めてる冒険者もいるが、中には不満に思ってる輩もいる。一度顔を見せて回ったほうがいいだろう」
「わかってるさ。変なやつのせいで順序がばらばらになっちまっただけだ」
クリスタはカタリナの顔を見ずに不貞腐れたような顔で言う。
「本当のところ、いきなり現場の指揮を任されて不安に感じてるのだ。出来るのならば、連携をとるための演習をしたいところだが、そうもいかない状況だ。正直、私の気持ちも考えてほしい」
「だああ!わかったよ。もう一回話し合えばいいんだろ。ちくちくちくちくとまったくよぉ」
クリスタが折れた珍しい瞬間だった。カタリナのことを尊敬してしまいそうだ。冒険者に理解がある騎士ぐらいにしか見てなかったけどクリスタの手綱をとれる貴重な逸材かもしれない。そして、なかなかの苦労人だ。
勢いのままクリスタはテントから出て行った。見送ったカタリナは深くため息をつく。
「迷惑をかけてすまないね」
「いや……実際にダンジョンに挑むのは貴方たちだ。むしろ申し訳なく思っているのはこちらのほうだ。自分の弱さに歯痒さを覚えるよ。だからこそ貴方たちには万全の状態で明日を迎えるサポートをしたい」
「そうだね。あの二人おもしろいよなあ」
「面白い?」
ネーヴの言葉にカタリナは首を傾げた。
「お互い実力を認めてるのに素直になれないとことか、そっくりだし。ヘクターはリスペクトを持ってるからこそそれに見合った要求をしてるけど、私とオズには一言も触れてないし。なんかあからさまだなーって思いながら見てたよ」
「それは……つまり……あー、ヘクターがクリスタに気があるってことか?」
「いや、さすがにそれは突飛すぎるでしょ」
あまりに脈絡がなさすぎて突っ込みを入れる。カタリナもしっくりきてないようで、釈然としない面持ちで何もない場所に視線を移し考え込んだ。どうみても犬猿の仲だった二人が仲良くなるところなんて想像できないし、それだと攻略に支障が出るからコミュニケーションを円滑にするためにクリスタは嫌々ヘクターのところに向かったんだ。明日目が覚めて二人が肩を組んで歩いてるようなことがあったら、私はショックで嘔吐する自信がある。
「じゃあ、オズ。賭けをしようか。このダンジョンを無事に攻略して、ヴォルフガングに帰るときまでに二人がキスすることに私は賭ける。オズが負けたら私が選んだすっごいフリルがついた真っ白な服を着て一日デートしてもらうから。オズが絶対着ないようなやつ」
「なんでそうなるんだよ」
「え、賭けないの?オズは私にしてほしいことないってこと?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
ネーヴの言ってる服ってこの前私に着せようとした子供でも着ないような職人泣かせのこってこてなデザインの服だ。あまりにも恥ずかしすぎて着ることを拒否した。それを負けたら着ろと言ってるわけだ。そんな賭けに乗れるわけがない。
それなのに、ネーヴの誘導の仕方がズルい。ネーヴにしてほしいこと?そんなの星の数ほどあるに決まってるでしょうが!
私は散々悩んだ挙句、あの三度の飯よりダンジョンが好きな根っからの冒険者気質のクリスタが、恋愛にうつつを抜かすわけがないと高を括って賭けに応じることにした。




