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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
合同ダンジョン攻略『暗殺者のダンジョン』
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62.暗殺者のダンジョン

 ヘクターは数枚ある地図の一つをテーブルの中心に滑らせた。見たことのないほど精巧に作られた地図だった。他の地図もちらっと確認してみると、ここまできっちり作成された地図はこの一枚だけだった。ダンジョンは深くに潜れば潜るほど危険が増すから地図を作成する技師がそこまで行けないのが原因かもしれない。それにしたって、ルントの地図作成の技術は侮れなかった。

 だって、これを見ただけでどんなダンジョンなのか一目でわかったから。


「第一階層は巨大なスラム街だ。かなり不潔で、敵もどす黒いスライムや毛並みがくたびれた野犬、小さいのだとダンジョン特有のでかい虫がいる。俺たちなら危険度は低いが、全体的に不衛生で休息をとれる場所はないと考えていい」

「その言い方だとスライムもかなりでかいってことね?」


 ネーヴの問いにヘクターは頷いた。


「人間の子供を飲み込めるぐらいのサイズだ。動きは緩慢で下位の冒険者でも我慢すれば難なく倒すことができる。ただ、実入りはないと言っても遜色ねえな。というか、第一階層じゃ魔物を倒すメリットはほぼない」

「じゃあ、このダンジョンが繁盛してる理由はなんだい?それにこの地図、実入りがない割には丁寧に作られてる。隅々まで探索しないとこうはならないね」


 クリスタの疑問はもっともだ。実入りがないならさっさと次の階層に進むはずだ。地図だって次の階層への道筋だけ記せば問題ない。つまり、魔物以外でこのスラム街を見立てた第一階層は何かしらの資源があるということだ。


「もっともな疑問だな。このダンジョンは食料がないに等しい。代わりにあるのは、金属と薬だ。鉄に銀、鉛に水銀もある。薬は主に毒を中和するものを中心に様々な種類を採取できる」

「それって……」

「その採取物の内容からこのダンジョンは『暗殺者のダンジョン』と呼ばれてる」


 私の頭にある一つの可能性がよぎった。

 ダンジョンの主であるレオを倒した時、彼の記憶を『シーカー』で探った。その時、唯一映像として私の脳裏に焼き付いた女の子。彼女がレオと同じ立場の人間であるなら……つまり、クリスタのいう古代の八騎士の一人であるということなら、このダンジョンには彼女が関わってる気がしてならなかった。


「その調子だと、第二階層からは一筋縄じゃいかなそうね」

「シュネーヴ、その通りだ。このダンジョンは観測できてる限りで第四階層まである。さらに下がある可能性は充分にある。俺がソロでいけたのはそこまでだってことだ」

「つまり、あなた以外は第四階層にすらいけてない?」

「いいね、察しがよくて。だが、対策は徐々にとられつつある。俺が先陣を切って情報を収集することで、他の冒険者も最下層を目指しやすくした。なぜかって?俺一人じゃこのダンジョンの主を倒すことができない可能性があるからだ。身の程は弁えてる。そして、俺が死んじまったら攻略は停滞する。だからこそ、牛歩だろうがこの方法で攻略を推し進めてきた。ところが、それがそうもいかなくなった」


 ヘクターは続けた。


「最近になって、魔物の活動が活発になった。第一階層での負傷者が急増してる。魔物の数も日に日に増えつつある。今の時点で通常時の三倍に膨れ上がってる」

「なるほど、決壊寸前だね。たしか厄災のダンジョンだと報告では5倍ほどまで増えてたみたいだし」


 ネーヴの言うとおりだ。

 あの時はまだみんな豊作だ、ぐらいにしか考えてなかった。元々の魔物の数も少なかっただけに取り合いになってたこともあるぐらいだった。数が増えたことをむしろ喜んでた。現地にいなかった私にもその噂が流れてきたほどには話題性のある出来事ではあった。


「そうだ。俺の見立てじゃもってあと一か月だ」

「そんなに急務ならルント中の冒険者をかき集めて挑めばよかったじゃないのさ?ヴォルフガングの協力を仰ぐよりよっぽど簡単で借りも作らなくて済む」


 ヘクターはクリスタの問いに両手を広げてとぼけた顔をした。


「もうやったさ。結果は見事惨敗。第四階層手前で撤退だ。最下層に挑むのに必要なのは実力者の数じゃない。適切な対処ができる最低限の人数に、少数精鋭でも問題なく活動できる最高の人材だ。この攻略の最前線を支えるのはモネスだ。モネスがフォローできるギリギリの数で編成してる。外で控えてる冒険者たちは第二階層までを体力の消耗なしで攻略するため、そして、いざというとき魔物の流出を抑えるための人員だ」

「それで、抜擢されたのが私たち?」

「悪いが、あんたらのことは事前に調べさせてもらった。そのうえで、実力を試した。はっきり言わせてもらう。俺はあんたらが嫌いだ。俺に匹敵するようなAランク冒険者を超える実力を持ちながら中級冒険者として活動してる。能力のある者の責務を放棄して自分に得がある選択だけを取り続ける。それをあんたらより上の立場の人間が許してるのも気にいらない。だが、そんなことは今回の攻略でまったく関係のないことだ。あんたらにはあんたらの事情がある。そこのオーステアってやつも魔術師の恰好をしてるが俺は見たことがある。だが、深くは詮索しない。今回の合同攻略に参加してくれて感謝してる。どうもありがとう!」


 ヘクターは一体どんな感情で今の発言をしたのか。私たちを責め立てたあとに感謝の意を表明した。しかも、私の正体をなんとなく理解したうえでだ。終始真顔だったのも怖い。色々な感情をぐちゃぐちゃに混ぜ込んで爆発させたはいいけど直前で理性が働いて一瞬で下火になったような感じだった。

 横を見ると、クリスタも真顔だった。

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