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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
吸血鬼の影『彷徨う死のダンジョン』
54/108

54.スキルの進化

 エドは騎士の顔まで見たと言った。でも、今そこに転がっているのは紛れもなく鎧の残骸で、人の形があるものは一つとしてなかった。ただ兜だけが原型を留めていた。


「はっはっはっ!やりおるわ!」


 頭だけになったのにレオは喋った。ていうか、核を破壊したのに生きてる。なんて往生際の悪さだ。でも、さっきまでひしひしと感じてた魔力の圧はなくなってる。レオを無力化したと判断してもいい。


「せっかく多彩な魔法を覚えたのに、馴染みの魔法ばかりを使う要領の悪さ。リーゼロッテには何度も馬鹿にされとったなあ……懐かしいのう」

「あんた……記憶が戻ったのか?」


 クリスタがレオに尋ねた。

 

「いんや、なにも思い出せん。ただその記憶だけがふと蘇ってな。仲間の名前を思い出せただけでも僥倖というものよ。心細くならずに済む。冥土の土産としては最高の品物である」


 私は急いで『シーカー』でリーゼロッテにまつわる記憶を検索した。でも、何も出なかった。本当にぽつんとその記憶だけがあり、その前後は全くの空白だった。

 ただ、リーゼロッテの容姿だけは知り得た。

 かなりの軽装に身を包んだ少女だった。手持ち無沙汰に短剣をくるくると回転させ、生意気なツラでこちらを煽ってきてた。クリスタがもっとガキならきっとこんな感じだ。レオの仲間ということはこいつもいずれどこかで出会う可能性があるってことだ。でも、肝心のレオからは情報を引き出せない。

 最後に一つだけレオに聞かなければいけないことがある。


「アストレア女王陛下」


 私のその一言で、レオは感嘆の息を漏らした。


「おお、我が主の名だ。ならば、俺のスキルの弱点を突いたのは『探求者』のスキルか。合点がいった。あの方以外に見破られたことは一度たりともなかったのでな」

「探求者?『シーカー』じゃなくて?」

「む、まだ進化してないのか。よいか、そのスキルは全てを束ねることが出来るまさに頂点のスキルだ。極めればこの世全てのスキルを会得できると言っても過言ではない。だが、唯一ユニークスキルだけは相手に心から認められる必要がある。ユニークスキルは体の構造を根本から塗り替えてしまうものが多い。そのせいかもしれぬな」


 スキルが進化なんて初耳だ。スキルは進化しない。いや、進化するスキルを見たことがない。『シーカー』のスキルがもしそうであるなら、いよいよゲラートの言葉が現実味を帯びてくる。このスキルは、争いの種になる。私には母親の形見に過ぎないスキルなのに。

 その時、地面が揺らいだ。ダンジョンが解放される予兆だ。もうすぐこのダンジョンは世界から消えてなくなる。


「待って!まだ聞きたいことが」

「はっはっは!我も語れることがあれば存分に語りたいところだが、核を失ってしまった今、あとは朽ちて死ぬのみ。まことよき戦いであった」


 言葉が思い浮かばなかった。この短い時間でもう聞き出せることはない。むしろ、スキルの進化のこととリーゼロッテという仲間がいることを聞き出せたことだけでも大きな成果だ。

 レオという存在を形成する鎧が少しずつ粒子となって消滅する。これもまたダンジョンでよくある光景だ。ダンジョンのボスを倒したらダンジョンが生み出した存在は全て消滅する。そして、冒険者はダンジョンの入り口に送還される。


「良い戦いだった。今まで戦った誰よりも強かったよ」


 ネーヴの言葉が聞こえたかはわからない。ただ最後にレオは豪快な笑い声を上げ、そしてあたりに静寂が訪れた。


「協力に感謝するよ、君たちは勝利の女神だ」


 エドがまたくさいセリフを吐いた。呆れながらも私たちはエドのほうに視線を移した。すると、私たちは驚きの表情を余儀なくされた。エドの切断された左腕が見事にくっついていた。吸血鬼の能力かと一瞬思ったけど違う。なぜなら、エドの手にはレオが纏っていた霧状の闇が漂っていたからだ。

 『闇魔法』をエドは獲得したんだ。


「ダンジョンの報酬はどうやら俺のものらしい。悪いね。また出会えるようなことがあれば君たちに協力は惜しまないよ。それぐらいのことを君たちはしてくれた」


 そう言って手をひらひらさせるエドに小言の一つでも言ってやろうかと口を開きかけた途端、視界が真っ白になる。次に目を開いた時に目の前にいたのはエドじゃなくカタリナだった。振り返ると、もうそこにはダンジョンの入り口はなくなっていた。

 そう、私たちは外の世界に帰ってきたのだ。

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