52.レオの弱点2
私はレオを鑑定してたわけだからがっつり目が合ってしまった。兜の隙間から見える眼がギラギラと光って見えた。レオはさっきまで攻防を繰り広げてたネーヴを歯牙にもかけず、一目散に私のほうへと向かってきた。
あ、やばいかも。死んだかも。
『シーカー』のスキルで自ら身動きを封じてる私にはレオの突進を避けることはできない。そして、クリスタも自分への攻撃に対処できてもレオの本体の攻撃から私を守る術はない。
「オズ!」
ネーヴの私を呼ぶ声がする。そんなに離れてないのにめちゃくちゃ遠く聞こえる。
あ、これが死ぬ前の感覚なのかー。もうちょっとで走馬灯見えるのかな?なんか逆に冷静になってきた。今までは追い込まれても逆転の算段があったから足掻けたんだよなー。でも、目の前にあるのは純粋で圧倒的なパワーじゃん。避けなければ死ぬし、私には避ける手段がない。詰みじゃん。誰だよ、『シーカー』のスキル使えって言ったやつ。いや、使わないと攻略の糸口すら掴めないからね。正しい判断だよ。アストリッドも言ってたな。死ぬときは死ぬって。私の元パーティーメンバーは骨の髄まで冒険者だったなあ。私はそうはなれなかったよ。まだ生きたいけど、これどうやったらいいんだ。
「むっ!?」
そう驚愕の声を上げるレオの顔面に斜めに入るように短槍が突き刺さった。間違いなく致命傷の一撃だ。でも、レオは足を緩め、よろめいただけだ。そうなることは短槍の主も予想していたことだった。
「俺のとっておきだ」
レオの分身を相手にしながらも私を守るように槍を投げたエドの次の一手は彼の切り札だ。目の前の敵に背を向け、二撃目を放つ。
その一撃は顔面に直撃させた一投目とは異なり、振りかぶって投げるものじゃなかった。
穂の先をレオに向けるように手から落とし、柄頭をつま先で蹴る。接触の瞬間、圧縮された魔力が弾け、短槍に爆発的な推進力を与えた。闇の触手が反応するよりも早く、その一連の動作を行う。エドのとっておきは、その自信を裏付ける結果を残した。
レオの右膝を貫通した槍はレオのバランスを大きく崩し、完全に足を止めることに成功した。でも、それは一時のことだ。レオはすぐに千切れかけた足を元通りにさせ、私を殺しにやってくる。それまでに、レオの弱点を見つけなければいけない。
「やりおるわ!」
どれほどダメージを与えてもレオには痛覚がないのか楽しそうに笑うだけで、その様子がより私たちに絶望を与えた。
レオの分身から背を向けたエドは分身の攻撃に対して回避するだけの充分な余力が残ってなかった。彼の左腕は大剣によって切断され、触手によって右肩と脇腹、そして左のふとももが強く打たれ、皮膚が引き裂かれた。そして、容赦ない蹴りの追撃で壁に激突する。
私たちにはエドの生死を確認する余裕はなかった。今度は対峙していた相手がいなくなった分身が私に大剣を向けたからだ。
「どこを見てるんだ?おまえの相手は私だ!」
ネーヴの強烈な突きが分身の鎧に命中する。渾身の力を込めたその突きを無視できないように何度も何度も繰り出す。レオの分身は応戦を強いられた。唯一、ネーヴには触手が反応しない。ネーヴが魔力を必要とした術を使わないからだ。だから、多少の無理はきく。でも、それも体力が続くまでだ。
のっそりと体を起こし、破壊された足が鎧ごと元通りになってく様子をただ見ていることしかできない。時間はいくばくもない。あともう少しだ。それは感覚でわかる。でも、間に合わない。クリスタが再生を阻止しようと土の魔術でトゲを地面から突き上げる。それも少しの時間稼ぎにしかならない。
レオが完全に立ち上がったのを見て、奇跡が起こることを祈った。
「あんたがこんなとこで死んじまったらなあ。『シーカー』のスキルはまたダンジョンの奥深くに眠っちまうことになる。そんなこと俺が許すと思うのかよ?」
その声の主は、私たちの中で一番頼りにしてなかったやつだった。
ゲラートは屋根上でただ見ていることしかできない使えないやつだと思ってた。それについてはゲラートのせいじゃない。無駄に死ぬよりかは何か役にたつべきだし、犬死なんて私が許さない。だから、何もできないなら何もしなくていい。その程度の認識だった。
「なんだこれは……?まさか俺の……我の精神を乗っ取るつもりか!?」
レオの様子がおかしくなる。頭を右手で押さえ、膝をつく。
私はそのスキルを知ってる。ゲラートのスキルだ。他人の精神に干渉して傀儡にする邪悪なスキル。生命に対する冒涜だ。ゲラートはずっと準備してたんだ、この瞬間のために。でも、そのスキルは対象が衰弱した状態じゃないと成功の望みは薄いはずだ。そして、失敗したら逆にゲラートの意識が霧散して消えてしまう。乗っ取れる見込みなんてないのに。
つまり、ゲラートは死ぬ気で私たちが勝つことに賭けた。
「弱点が分かったよ!」
さあ、反撃だ。