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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
吸血鬼の影『彷徨う死のダンジョン』
50/64

50.闇魔法2

 私たちの渾身の一撃はレオに間違いなく届いた。

 私の魔剣は右腕を金属板ごと切断した。クリスタの細剣は兜の隙間を縫うように眼孔を突き刺し、エドの短槍は鎧などあってないようなものとして脇腹を貫いた。

 でも、私たちはその後驚愕させられることになる。

 闇の霧がレオから噴き出すと同時に、私たちは大きく吹き飛ばされた。その勢いは最初にネーヴが壁に叩きつけられたものよりも強く、そして、膨大な魔力を放出させている。普通の人間なら触れた時点で死んでた。魔力が体を侵食していくのが分かる。これが『闇魔法』というのならこの世でもっとも悍ましいスキルの一つだ。


「オーステア、落ち着け!自分の魔力を体中に循環させるんだ。頭の先から爪の先まで全部だ!」


 クリスタの声がする。その声でようやく私が自分の考えてるよりもひどく汚染されてることに気付く。体中を魔力が全速力で駆け巡る。それが唯一生き残る道だと本能で理解した。

 とてつもない激痛が走った。自分の体じゃないみたいだ。侵食されてる箇所を洗い流すように丁寧に魔力を循環させる。そして、その魔力を徐々に体外に放出させていった。どれほどの熟練者でも動揺すれば魔力をうまく扱うことができない。本当はサボりたかった魔術の基礎練習をクリスタにくどくど言われ、ネーヴに宥められながら続けてよかったと痛感する。

 練習で出来ないことが本番で出来るわけないじゃん。

 まさにその通りだ。私はひねくれてるから言われれば言われるほど頑なにやりたがらなかった。だから、その言葉がまじでぶっ刺さった。今だけはクリスタに感謝しないといけないね。


「その剣、初めて見るぞ。今まで見たどの武器よりも魔力を内包させておる。それが……斬られるまで気付かなんだ。本来なら俺のスキルでガードできたはずだ。だからこそ、面白い!これだからこそ、戦いはやめられんのだ!」


 そう、私は手にもってた魔剣には魔力を注がず、予め備えておいた『空間収納』スキルの中にあった魔剣をレオにお見舞いした。一か八かの賭けだった。レオが繰り出す『闇魔法』の9本の触手は魔力がより多いほうに攻撃を仕掛ける。クリスタが設置した魔力の爆発を完全に上回る魔力を内包した魔剣がレオに到達する前に迎撃されていたら、私は他のみんなにさすがに申し訳が立たなかった。でも、その目論見はうまくいったわけだ。


「どういう原理か興味ある?」

「ある!」


 溌溂とした返事が返ってくる。ほぼ致命傷の攻撃を2か所に受け、挙句に右腕の肘から下をなくしてるのに、レオの声にあったのは純粋な好奇心と戦いへの渇望だった。


「だったら、教えてくれない?私、別のとこで『闇魔法』を使ってる女の人を見たことあるんだけど、レオと関係のある人なの?」

「一体なんのことかさっぱりである。だがしかし、貴殿には何か懐かしい気配を感じるな。我が仕えた主と……ああ、なんだこれは……急に思考が霞む……まあ、いい。まどろっこしいことはよいのだ!今は全身全霊をもっておぬしらを打ち倒すのみだ!」


 会話になりそうだったのにあと少しのところでダメになる。まるでレオの思考に何者かによってフィルターがかけられてるような不自然な思考誘導が起きてる気がしてならなかった。でも、ほんの少しだけ引き出せた。まったく参考にならない情報がね。

 

「もう利き腕は使えないのに、どう戦うっていうのさ?」

「言ったであろう?全身全霊をもってして打ち倒すと。先程までの戦いは児戯に等しい。眼球がえぐられようとも、腕が犠牲になろうとも、心の臓が潰されようとも、何ら支障はない。我はただ眼前の敵を屠るのみである」


 そう言い放ったレオの体を再び闇が取り巻いた。切断された腕の切断面から切断面へと伸び、地面に転がった腕がさも当然のように引き寄せられ、くっついた。それどころか、指先の一つ一つを動かし、動作を確認したのち、まるで最初から斬られてなどいないというように剣を握った。


「あれさ、吸血鬼よりタチ悪くない?」


 クリスタの意見はごもっともである。

 エドも同感なのか乾いた笑い声を発してる。言葉もなく、ただ短槍を握り直す。ネーヴも同様に黙したまま棍棒を強く握る。

 私は正直どうしたらいいか分からなかった。魔剣は魔力を込めないとただの剣より少し切れ味がいいだけの剣だ。そして、それは封じられてるといっても過言じゃない。『空間収納』スキルの中にあと一本、隠し玉として魔剣が収納されてる。でも、さっきの必殺の一撃は水泡に帰した。このままじゃまた同じ結果になるのは目に見えてる。

 それだけで絶望的なのに、『闇魔法』には次の段階があった。

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