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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
吸血鬼の影『彷徨う死のダンジョン』
48/108

48.騎士レオ

 レオは防御など度外視したまるで猛獣のような突進で大剣を振り下ろす。

 その先にいたのはネーヴだ。クリスタなら軽やかに躱すだろう。私も辛うじて回避できる。でも、ネーヴはそこに留まった。力試しだ。ネーヴの力が勝つか、レオが勝つか。大剣を前にしたらそれなりに太い棍棒も貧弱に見えた。

 大剣が棍棒に接触する。

 今まで聞いたこともないような打撃音が響く。まるで雷でも落ちたかのよう音が肌を震わせた。


「ぬっ!ダハハハ!初めてであるぞ、この一撃を真正面から受けた者は!貴殿をオナゴと侮ったことを詫びよう。おぬしはまことの敵である!」

「光栄だね……!」


 拮抗状態はすぐに解けた。先に動いたのはレオだ。その巨体からは想像もできない速さの蹴りがネーヴの腹部に直撃する。後方に大きく飛んだネーヴは壁に激突する。畳みかけるようにレオが迫る。

 させるかよ!

 私とクリスタがレオの側面を挟み込んで攻撃を仕掛けた。私が魔剣で斬り込み、クリスタは氷の矢を複数放つ。でも、レオはまったく見えていないはずなのにぐるりと体を回転させてクリスタの魔術を打ち落とし、私の魔剣の腹を蹴って体勢を崩させた。


「あ、やば……」


 明らかに隙だらけの私の前に大剣を振り上げるレオがいる。完全に油断した。ネーヴの窮地を救うために動いたのに、今まさに死に瀕してるのは私だ。なんて間抜け。

 でも、結末はそうならなかった。

 エドの短槍がレオの手首めがけて投げられたからだ。死角だったはずなのに、その槍すらもレオは大剣から手を放すことで回避する。そのちょっとした時間が私を死から遠ざけた。

 一定の距離を取り、警戒する私たち4人と一匹。

 ゲラートは戦力外ではあるけど、屋根の上にのぼり、戦況の把握につとめてる。ネーヴの耳に私の『シーカー』、ゲラートの偵察にクリスタの冒険者としての熟練の勘。お互いがお互いをフォローしあうことで、私たちはダンジョン内で不意打ちにあうことは一切なかった。


「見事な連携である!さすがにおぬしらとやり合うのに全力を出し切らぬわけにはいかんな」


 楽しそうに言うレオの右の太ももから出血していた。クリスタが放った氷の矢は目くらましだったんだ。本命は地面から生えた土のトゲ。それはネーヴを守るための攻撃ではなく、レオが攻撃対象を変えることを踏んで発動をずらした攻めの一手だった。

 私はクリスタのこういうところが嫌いだ。リアリストで自信に満ち溢れてる。要するに、あの一瞬で私を餌にする判断をしたんだ。結果、全員が生き延び、敵にダメージを与えることに成功した。かっこいいということを認めたくなかった。


「あんた本当に何も覚えてないの?」

「くどいぞ。我に残るは闘争のみ。語らう術はもはや剣を交える他ならぬ」


 一縷の望みをかけてクリスタが問いかけるけど、レオの望みは戦うことだけだ。この状況はまさにデジャヴだった。アストリッドもまたあのダンジョンにいたボスに説得を試みて失敗した。それが彼らの望みなのか、それともそれを強いられているのか、どちらにせよ戦う他ない。

 そして、レオの全力が私たちの前に姿を現した。


「なんて禍々しい……」


 エドは顔を顰めて呟いた。

 レオの体に纏わりつくように蠢くオーラは漆黒の鎧をさらに黒くさせた。もはや輝きすらもなく命を吸われるじゃないかと錯覚するほどの闇が取り巻く。クリスタの言っていた『闇魔法』だ。そして、私はそれに見覚えがある。厄災のダンジョンでも同じものを見たんだ。

 だとしたら、あの日私たちが倒したのは……。


「我自身このスキルを忌み嫌っていた。だが……思い出せない。そうだ、この『闇魔法』スキルを嫌な顔一つせず笑いかけてくれた人がおった。ああ、だが……思い出せぬ。我は戦わなければならん。それが我の望みだ。死力を尽くし、守らねばならん。さあ、いざ尋常に!」


 『闇魔法』のスキルを使用した瞬間、レオは支離滅裂な言動を口にした。獣のような唸り声をあげ、いよいよ自我が失われていく。


「ねえ、クリスタ。『闇魔法』の対策ってなんかある?」

「あったら先に言ってるよ」


 ですよね。あんだけ打ち合わせしたもんね。


「レオに死角はないと考えたほうがいい。大事なのは力を合わせることだ。レオ以上の猛撃で彼を圧倒するしかない」


 ネーヴがそう言った。

 短い攻守ではあったけど、ネーヴの言いたいことは痛いほどわかった。レオの攻撃を防ぎきることは不可能だ。あの破壊力にあの速度。そして、直線的じゃない動き。こちらの攻撃にすぐ対応してくる。

 だったら、怯んでる間はない。

 

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