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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
吸血鬼の影『彷徨う死のダンジョン』
45/108

45.とある国の滅亡

「人型?それはゴブリンとかオークとかそのへんも含めて言ってんのか?」


 クリスタは結論を間違えないように慎重に一つ一つ情報を精査していった。最初に出会った時からクリスタはダンジョンに並々ならぬ情熱を語っていた。エドの明かすダンジョンの主の実態がクリスタのご期待に添えるようなら、彼女は何が何でも目的を達成する覚悟で挑むだろうな。かつての私の仲間と同じように。


「いや、きわめて人間に近いよ。二回りほど体格はでかいけどね。最初はスケルトンを疑ったんだ。仲間の一人がそいつのヘルムの顔面を剥がして、それが誤りだったと気づいた。そいつは……人間だった。しかも、意思のある人間だった」

「ちょっと待ってくれ。会話が成り立つってことかい?」

「そうだよ。随分好戦的な人だったから戦う一辺倒で会話にならなかったけどね」


 好戦的と言われる吸血鬼に好戦的と言われる人間って相当戦いが好きなんだと思う。オズとアストリッドと攻略したあのダンジョンの主も喋っていた。でも、肝心なことは何一つ話さずにすぐに戦闘が始まった。当時は何も気にしなかったけど、今になって疑問が浮かび上がってくる。

 彼女は一体何者だったのだろうか。

 『シーカー』のスキルを使えば使うほど、彼女のぼやけた輪郭がはっきりとしてくる感覚がある。このスキルの元の持ち主……そういう見方もできる。だとしたら、もっと深くこのスキルに干渉できたら彼女の真実に辿り着くことができるんだろうか。


「オーステア、聞いてる?」


 三角帽子に隠れた私の顔をクリスタがのぞき込む。意識がどこか遠くに飛んで行ってしまってたようだ。柄にもなく考え込んでしまった。ネーヴがいればそれでいいはずなのに。


「な、なに?」

「元英雄パーティーのあんたに聞かなきゃいけないことを今聞こうとしただけさ。昔のことを聞くのを嫌がるから喋ってくれるまで待つつもりだったけど、そうもいかない事情ができた」


 どおりで聞いてこなかったわけだ。私が英雄パーティーのステラだと知った時点で根掘り葉掘り聞いてくるのかと警戒してたけど一向にその様子はなかった。私も聞いてこないならいっかとそのままにしてた。その代わり、クリスタとの揚げ足取りと冷やかし合戦が繰り広げられたわけだけどね。

 

「おおむね考えてるとおりなんじゃないかな。あのダンジョンにいた主は人間だったし、このダンジョンの主と一緒で意思の疎通ができたよ。でも、平和的解決は見込めないかも。少しやり取りしたらすぐに戦いになったし」

「外見は?そっちも全身鎧の騎士だった?」

「いやー、違ったよ。かなり古風なドレスを身に纏ってた。とても戦えるような出で立ちじゃなかったけどかなり強かった。一番驚いたのは火を吐いてきたことかな。あとは光魔法と闇魔法、両方使ってきた」


 クリスタは手を額に押し付けて深く溜息をついた。


「もっと早く聞いときゃよかったよ」

「え?なにが?」

「ちなみになんだが、そいつは花をモチーフにした冠を付けてなかったか?アマリリスの花だ」

「なんで知ってるの?」


 花の種類は知らなかったけど、なんで名前まで断言できるんだ。まるで見てきたかのようだ。


「エド、あんたが戦った騎士、どこかに鳥をかたどった紋章が刻まれてなかった?」

「マントにあったよ」

「はい、確定」


 なんか私が情報を出した瞬間、クリスタの中でパズルのピースがかみ合ってしまったみたいだ。今の会話だけでどこにそんな盛り上がれる要素があるんだろうか。クリスタは今にでも踊り出すんじゃないかというぐらい興奮してた。


「申し訳ないけど分かるように説明してくれないか?」


 クリスタの自分だけ分かって要領の得ない進行に、さすがのネーヴもじれったくなったようだ。クリスタも舞い上がってしまった自覚があるようで大人しく椅子に座って背筋を正した。


「正直それがどんな意味を持つのかはまだ分からない。だが、ダンジョンに文明の痕跡がある理由は判明したといっていい。あたしは元ローニアの貴族だ。歴史を重んじる家系だったから太古の昔の話も書物としてしっかり残されてた。とりわけある日突然滅亡した超大国なんてロマン溢れる文献には目がなくてね。遅くまで読みふけったもんさ」


 クリスタは続けた。


「その国の女王は闇魔術と聖なる力の両方を身に宿し、剣の腕も一流だった。女王の力の根源は仕える8人の騎士のものだ。女王には力を継承するという特異な力があった。つまり、闇魔法も光魔法もその火を吐く力も8人の騎士の誰かが持ってる力だってことだ。その力をもってして、彼女は比類なき繁栄をもたらした。なのに、突然その国は亡びた。原因は諸説ある。病気が蔓延したって説もあるし、呪いだって説もある。だが、誰も本当の原因なんか知らない。そもそも存在してたかも疑わしい話だった。今の今までな」

 

 貴族の書棚に保管された歴史の文献は庶民の目に届くことはない。だから、今聞いた話を冒険者は誰一人として知らないだろう。元貴族の、しかも、歴史にロマンを見いだしたクリスタだからこそ結びついた結論だといえる。


「つまり、ダンジョンが平行世界の可能性は潰えたということか……」

「え、そここだわるの?」


 ネーヴの残念そうな表情で本気度合いが窺えた。

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