42.第二階層の風景
降りた先の階層はまたもや私たちの度肝を抜かした。
そんなことがあるのかと私は後ろを振り向き、ちゃんと自分たちが階層を降りたことを確認した。でも、そんなことは分かり切ったことだ。私たちは間違いなくダンジョンの第二階層に降り立っている。目の前にあるのが第一階層と同じ景色だったとしても。
ただ少し違う点を挙げるとすれば、ここは赤い月じゃなくて普通の月が昇ってて夜空を星がびっしり彩っていた。月光だけが頼りで、赤い月とは違いって町を優しく照らしている。
「私たちループしてるのかな?」
誰に聞くでもなく独り言のように私は言った。
「いんや……そうじゃないね。少しだけ変わってる。ほら、あそこの建物を見ろ。新しい建物だ。さっきの階層にはなかった。それに、崩れかけてる建物もある。というより、撤去してるって表現が正しいな」
「……もしかして全部覚えてる?」
「知らなかったかい?私は記憶力抜群なのさ。オーステアの裸を一瞬でも見られるならホクロの位置までしっかり記憶できる自信あるよ」
「いや、ヘンタイオヤジかよ!」
例えがひどすぎる。急にぶっこんでくんなよ。自分でさえ確認したこともないホクロの位置を他人が知ってたら怖いだろ!
「でも、ネーヴが見せてって言ってきたら見せるんでしょ?」
「それは……」
痛いとこを突いてくる。否定できないとこがムカつく。っていうか、なんでダンジョンの道中でそんな話しなきゃいけないんだ。
「まあ、つまりだ。この階層の町は前の階層の町とは違う。おそらくさっきの町より未来だ。どういうわけか階を隔てるごとに少しずつ未来が進んでいくらしい」
「なるほど……進めば進むほどこのダンジョンの特異性が際立ってくるね。他のダンジョンとは明らかに違う。そうなると、一つ憂慮すべき点が浮き彫りになる」
「あたしたちだけでこのダンジョンが果たしてクリアできるのか……ってことか?」
大厄災を引き起こしたダンジョンと酷似してるわけじゃない。だけど、共通点はいくつもある。まだ立証はできてないけど、複数の入り口がある可能性がある点。広大なダンジョン内の地形。そして、他のダンジョンに比べて異様であること。まるで何かを訴えかけてるようだった。
「とにかく今は目の前のことを順番にやるしかない。引き返そうにも退路は絶たれてるわけだしね」
「まあ、そりゃそうだな」
結構重要なことだけど、クリスタはあっけらかんとしていた。私はというと、この先どんなことを想定しなきゃいけないとか全然イメージできなかったのでただ呆然と聞いてるしかなかった。
ただ一つ言えるのは、この階層に吸血鬼たちはいるということだ。
「ただ、私たちにとって僥倖なことが一つある」
「というと?」
「上の階層のように数の暴力で押し切られることはないってこと」
ネーヴの言葉は正しかった。
小高い丘を降りて町に入った私たちを迎えた敵は鎧をまとった骸骨だった。続々と湧き出るわけでもなく町を徘徊する骸骨は群れを成してるわけでもなかった。さすがに個々の強さは骸骨のほうが圧倒的に上だ。でも、私たちからしてみればこっちのほうが気楽だった。
「普通はこの骸骨でも手こずると思うがねえ……」
ゲラートがボソッと呟いたのは、クリスタが楽しそうに骸骨をしばいてるからだ。水をえた魚とはこのことだな。枯渇寸前の魔力なしでも難なく倒せてるんだから呆れもする。
「あそこだ」
「またあの建物か。やっぱり何か意味がありそうだな」
吸血鬼たちがいる建物はこの階層の入り口になってた建物と一緒のものだった。扉は固く閉ざされてる。内側から塞がれてるんだ。
「ぶっ壊す?」
「いや、気持ちは分かるけどなるべく最初は穏便にいこう」
自分でも短絡的だと思う提案はやんわりと断られ、ネーヴが扉の前に立った。
「ちょっといいかい?お互い事情があるんだ。なるべく争いは避けたい。君たちに少しでもその気があるならこの扉を開けてほしい。こちらもゆっくりはしてられないのは分かるよね?じゃないと無理矢理突入することになる」
しばらくの沈黙が続いた。
こんなんで扉開けてくれるのか不安になった。私の頭の中じゃ吸血鬼たちは未だ誘拐犯だ。疚しいことしかない犯罪者だ。話し合う余地なんてない。
なんて考えてたら扉が開いた。
「開くんかーい!」
思わず叫んでしまった。




