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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
魔族の私とドラゴンの相棒
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4.便利すぎるスキル

「忘れ物はない?食料はもった?着替えはちゃんとある?」

「お母さんかなにか?」


 いざ出立の時、シュネーヴは心配そうに持ち物チェックをしてきた。といっても、大したものはないし、私には『空間収納』という便利なスキルがある。

 魔術師を志す者なら大抵所有しているスキルだけどなかなか奥が深い。まず人によってサイズが異なるし、中に入れたモノの劣化速度も違う。

 私は比較的大きいほうだ。まあ、比較対象が指で数えられるほどしかいないから本当のところは怪しい。


「街に着いたらまずは服をなんとかしないとね」


 私のツギハギだらけの汚れた服のことだ。



「シュネーヴの服はそれどうなってるの?」

「魂の一部だから破れても勝手に復元されるよ」

「そいや、魂剥き出しの状態だよね。そんなんでまともに旅できるの?」


 シュネーヴの提案を聞いた時は驚いた。

 魂を切り離してドラゴンの肉体をこの樹海に置いていくというのだ。なんでも、人間の視点で物事を見聞きしたいからだと。奇特このうえない。私だったらドラゴンの肉体で人間を威圧しまくるのに。


「ステラもスキルを持ってるよね?」

「……まあね」


 魔術の才や運動能力以外でも、個人の実力を測る目安となるものがある。それがスキルだ。

 私の魔鉄を生成できる能力もスキルに含まれる。といっても、これはかなり特殊なケースだ。『空間収納』のように一般的なものもあるし、魔術や剣術をサポートするものや、日常生活で役に立つ程度のものまで、その数は多種多様だ。


「『竜体化』。必要な栄養素さえまかなえば、魂のみの状態でも肉体を造り出すことができる。自分の望む竜の形にね。それが人間の姿だったとしても、竜は竜だ。だから、最悪あの肉体は捨てても問題ない」

「は?ある意味不老不死ってこと?」

「そこまで生きたことがないから分からないな。まあ、ステラの心配してることは起こらないってことさ」

「でも、あんなに……」


 綺麗で美しいのにもったいない、と言いかけてやめた。

 シュネーヴがニヤニヤと詰めてくる様子が想像ついたからだ。こいつの身体なんだからこいつの好きにさせよう。願えるなら、もう一度でいいから背に乗って飛んでみたかったけど。


「名残惜しまなくてもいいよ。定期的に帰ってくればいいんだし。そのためにステラに結界はってもらったんだから。帰ってきた時に一緒に空飛ぼ?」

「そうだね」


 筒抜けだったみたい。冷やかされなくてよかった。恥ずかしさを隠すために素っ気なく答えた。


「それにドラゴンの身体って意外と日持ちするからね」

「日持ちってなんかやだな」

「あ、そうだ。二人とも同じ白い髪に赤い目だと目立つよね。旅立ちに合わせてイメチェンしとこっかな」

「服どころか身体の色まで自在なんだね」


 すごい。私が喋らなくても延々と喋り続けるんじゃないかってぐらい話がころころ変わる。聞いてるだけでも楽しいから別にこのままでもいいかもしれない。

 シュネーヴの瞳が赤から青に変化した。髪は白から黒に。


「ステラと対極的な色合いにしてみたけどどう?」

「せっかくお揃いだったのに」

「えっ、そこ気にするの!?まいったなあ。じゃあ、こうしよう」


 なんともお手軽なことだ。今度はシュネーヴの髪が金色になった。


「不要な争いは避けたいからこれで勘弁してくれる?」


 そうは言うが、シュネーヴの容姿は端麗そのものだ。美人すぎて別の争いを生みそうである。ていうか、なんで元はドラゴンなのにそんな胸あるの。


「まあ、なんでもいいけど」


 色んなことを飲み込んでそう返した。

 愛想がないうえにどの目線で物を言ってるんだ、と自分でもつっこみたくなる態度だ。それでも、シュネーヴは上機嫌に私の頭を撫でた。


「なに?」

「かわいいなと思ってさ」


 私はすぐさま撫でてる手を振り払った。私は子供じゃないんだ。撫でられて嬉しいわけがない。久しぶりの外の世界でそわそわしてるだけだ。緑はもう見飽きた。


「ステラの髪って真っ白ってわけじゃないんだ。少し色がついてる」

「……人づてで聞いた話だと、私の種族は魔鉄をつくればつくるほど銀色に近づくらしい。眉唾だったけど信憑性がでてきた」

「つまり、誰とも接点がないから今の今までで変化に気づかなかったわけだ」


 痛いとこを突くな、こいつ。

 確かに自分の髪は白いままだと思い込んでたし、視界に入る髪の色を特に気にしたこともなかった。これ以上無頓着なことを露見しないためにも話題を変えねばならない。


「さっさと森を抜け出そう!日中の魔物より夜の魔物のほうが狡猾だし、倒してもあんまりおいしくないし」

「食べる前提なんだ」

「血は重要な栄養源だから」

「肉じゃなくて血なのか……さすが吸血鬼だ」


 ああ言えばこう言うなので私は喋るのをやめた。初日から私を怒らせるなんてやるじゃんこいつ。でも、不思議と不快感はない。なんだかシュネーヴとならうまくやっていけそうだ。


「ところで、行く宛はあるのか?いくら世界中を旅すると言っても計画性は大事だと思う」

「そこなんだが、生憎ヴォルフガング以外の国に行ったことがない」

「私とおんなじじゃん!いやいや、よくよく考えたら私ローニアに行ったことある!私の勝ちだね!」

「あぁー、城の前に生首置いていったアレね」

「置いてねー!濡れ衣だ!私はいたって健全な存在だ。城の前に首置いてくやつはどうかしてる。私にだって分かる!」


 とんだ風評被害だ。こんな誤解が世間一般の認識として浸透しているとしたら大変なことだ。でも、暴れ回ったのは事実なので反論できる部分のほうが少ないのも確かだ。

 もっとスマートに暴れればよかった。


「しばらくお世話になった町が近くにあるからそこで一泊するつもりだよ。ステラの服も見繕わないとね」

「ぬぅ……」


 私のことは気にしなくていい。

 と言いたいところだが、身だしなみは結構大事だ。第一印象をよくすることは、仲間であるシュネーヴが甘く見られないようにする効果もある。そもそも仲間が浮浪者みたいな格好してたらそりゃ誰だって思うところはある。

 一緒に旅にでると決めた以上、そのへんは弁えるべきだ。だから、私はそのことについて大人しく従うつもりでいた。


「ステラってさ。好きなデザインってある?」

「ある程度の水準を満たせてたら特にこだわりはないね」

「でたでたでた。せっかくの素材をドブに捨ててるやつー!」

「な、なになになに!?」

「服屋についたら有無を言わさず着せ替え人形にしてやるからなああああああ!」

「え、なんかやだ。やだやだ!」


 目をギンギンにさせて肉迫してくるシュネーヴに身の危険を感じた。

 そんなに私で遊びたいのか!

 可愛くしてくれるならまあ私もやぶさかではないんだけど、よだれがでそうな顔で鼻の下を伸ばされたらさすがに気持ち悪い。こいつに頼んだら地獄を見るんじゃないか、とさえ錯覚する。

 私は抱きついてこようとするシュネーヴを全力で阻止しつつ久しぶりの外の世界に思いを馳せた。

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