38.突入前
このダンジョンは不気味だ。どのダンジョンでも魔物はいる。だけど、どれだけ歩こうが魔物が動いた形跡すらない。でも、魔物が出現することは確実だ。それは『シーカー』のスキルで確認済みだから。なにか条件があるとしたら、もっと深く探らないとその解答を得ることができないんだろう。
私なりに考えをまとめていると、目標の建物の前に到着した。
「見たところ神殿か。このダンジョンで一番大きな建物だ。領主の館よりもね。どちらかというとこの町の権威は宗教に寄ってるようだ。昔だとそれもあり得るか?このダンジョンが昔のものとは限らないが」
「そうなの?てっきり私は昔のものだと思ってた」
入口に飾られたネズミか、はたまたライオンか、とにかく耳のでかい動物が仰々しく並んでた。おそらく神格化されたものなんだ。彫刻の質が私たちの世界よりも悪いため、それが何の動物なのか憶測でしか語れない。
この建物は他の建物より前に造られたのは積み上げられた石壁の劣化具合で見て取れた。そして、ダンジョンの入り口から俯瞰した時、この建築物が前と後ろで若干様式が異なってることを確認している。つまり、改築されてるわけだ。
「色んな説があるさ。ダンジョンにすら入ったことのない学者連中がのたまってるだけの説もある。ダンジョンは並行世界の一部で、今とはズレた現実からやってきたとか。ちなみに、その説だとあっちの世界にも私たちの世界の一部がダンジョンとして出現してるらしい」
「並行世界?」
そのワードにネーヴが興味津々になる。
「あー、あたしも学者じゃないから詳しくは説明できないよ。簡単にいうと、私たちの世界と似てるけど違う世界が可能性の分だけ枝分かれして存在してるって話だ。もしかしたらこういう選択をしたかもしれない。その可能性の分だけ並行世界があるってことだ」
「途方もない話だね」
「よくわからない……」
ほんとにそんな世界があるならどこかにオズワルドもアストリッドも生きてる世界はあるんだろうか。それを考えたらむかついてきた。その並行世界とやらに関して考えるのはやめとこう。
「まあ、説の一つだ。そんなに気にしなくていい。あとは、異世界から召喚されてきたって説もある。私たちの世界をダンジョンを通して侵略してきてるわけさ。他にもまだまだ説だけなら豊富だ。でも、誰も真実なんて知らない。だから知りたいのさ。なあ、ゲラートくん?」
「俺に振るなよぉ」
クリスタが何を言おうとしてるのかはわかる。私の『シーカー』のスキルのことだ。このスキルはダンジョンのボスが所持していて、アストリッドに受け継がれたものだ。いわば、ダンジョン攻略の報酬である。脳のキャパシティーに限度がなければ無限に知識を授けてくれるユニークスキル。
正直なところ、もてあましてるといっても過言じゃない。私なんかよりもよっぽど有用に使える存在はいくらでもいる。でも、私はそいつらに譲る気はない。アストリッドが最期にくれた唯一の形見なんだから。だけど、このスキルを求めて今後争いが起きることは否めない。3年何もなかったからといって、これからも何もないことはないんだ。ゲラートだって契約魔術が解除されれば有無を言わさずまた襲ってくるに違いない。今はまだみんなの協力を得てうまく隠せてるに過ぎない。
「さて、無駄話はここまでだ。屋内は危険だ」
「そうだね。吸血鬼は日光に弱いらしいから本当に警戒しないといけないのはここからだ。ダンジョンが生み出す日光で同じことが言えるか不安だったけど、ここまで敵と遭遇してないところを見ると有効なんじゃないかな。それについてゲラートはどう?彼らに私たちよりも詳しいでしょう?」
「魔族は互いの種族に干渉しあわねえ。分かってることと言えば……そうだな、やつらは夜に活動するってのは事実だ。好戦的で、知性が比較的高い。戦闘能力もそれなり高いから魔族の中でもギリギリ支配階級にいる連中だ。魔王様がいなきゃそのへんの弱い種族は滅ぼされてたぐらいには傲慢だ。ああ、そうだ。大事なことを一つ言わせてもらうが」
ゲラートは一呼吸おいて続けた。
「ヴィクトールにも話したとおり、やつらは子供を産めない。代わりに、他種族のやつに自分たちの血を分けて眷属化させる。元ドラゴンは眷属化できるかわからんが、人間は確実に眷属になる」
「なにそれ。戦力の増強を狙ってるんじゃないかって聞いてたけど、奴隷として連れて行ったわけじゃないんだ?吸血鬼の血が体内に入るとその人は吸血鬼になるってこと?」
聞いてた話と違うんだが?想像してたよりやばい奴らなのかも。
「そうだ。やつらはプライドが高いから滅多に数を増やすことはしねえ。気に入ったやつだけを眷属にする。だから、攫った人間を食料にしてるって線もまだあるにはある。まあ、つまり……何が言いたいかっていうと、攫われた人間を見つけてもすぐには近づくなってことだ。油断して噛まれたら厄介だぞ」
「その忠告はもっと早く言って欲しかったなあ。カタリナには君のほうから伝えてもらえる?知り合いが敵になるのは笑えないぞ」
口調はなるべく柔らかに、でも顔はかなり深刻そうにネーヴは言った。
「あー……そうだな。うっかりしてた」
「勘弁してくれよ。吸血鬼と組んでるなんてあらぬ疑いをかけてしまうところだよ」
今の情報を伝えてなくてカタリナたちが命を落としてしまう、もしくは吸血鬼化してしまったら本当に笑えない。そうなると、ゲラートが裏で手引きしたと勘繰っても仕方ない展開だ。今から踏み込むというのに、不安を抱かせるとはゲラートには後でお灸が必要だな。




