37.ダンジョンの謎の文明
これは当然のことなんだけど、ダンジョンごとにダンジョンの中身は違う。これは構造という意味じゃなく、ダンジョンによっては屋内だったり、開けた草原だったり、文明が色濃く出てるダンジョンから別世界に迷い込んでしまったかのような空が広がってるダンジョンまで、多種多様なダンジョンが存在する。
とりわけ今回のダンジョンは異常だった。
「これはいよいよ深淵を覗きにいかないとねえ?」
笑ってるクリスタの目は真剣そのものだった。
青い空、浮かぶ雲、それだけならそう珍しくないダンジョンの光景だ。だけど、小高い丘の下に広がる景色は冒険者の常識を否定していた。
六角形を形作るような街並みは規則正しく等間隔に建てられていた。まばらにある大きな建物と様式こそ異なるけど教会らしき建物が妙に営みを感じさせた。そう、ダンジョンの中に町があるんだ。それもかなり大きな町が。
三年前にクリスタは言っていた。ダンジョンの謎を解き明かさないといけないって。
「遠くで見ているだけでわかる。あれはローニアともヴォルフガングとも似ても似つかぬ文明の建築物だ。なにより、あきらかに古い。いにしえの文明だ。素材はレンガだろうね。他のダンジョンとの共通点がいくつかある。今まで断片的だった文明の痕跡が今ここに集約されてるんだ」
興奮した足取りでクリスタは丘を下っていく。隣を見るとネーヴも同じぐらいそわそわしてた。なんだったらクリスタと同じぐらいのペースで小走りに進んでく。途中で気づいて私のほうを振り返ったけど、足を止める様子はなかった。二人の様子に呆れ返りながら後についていくことにした。
警戒を怠るなと注意喚起したネーヴが私よりも集中力を散漫にしてるってことはよっぽどのことだ。
「すまない、オズ!埋め合わせは今度するから!」
何の埋め合わせだ。別にそこまで置き去りにされかけたことを根にもつわけじゃない。ただ、生粋の冒険者というのはみんなああなのかと昔を思い出してただけだ。
オズワルドもアストリッドも興味の対象に遭遇すると見境がなくなってたからね。
町の中に入るとここがダンジョンなのだと実感させられる。その寂寞がまるで私の心をはぎ取ろうとしているかのように纏わりつく。文明が存在しているのにひたすらにここは無だった。
どすどすと無遠慮にドアをこじあけて屋内に侵入するクリスタを見て、むしろ私が罪悪感を覚えるぐらい生活感があった。この町だけ世界に取り残されたように、もしくはダンジョンに取り込まれたかのように生々しかった。テーブルの上に置かれた食器とパン、そして野菜くずのスープ。まるでついさっきまで人がいたかのようだ。
探索すればするほど疑問が膨れ上がる。ダンジョンとは一体なんなのか。三人の中で一番興味が薄かった私でさえこの有り様に答えを求めた。
「すごいぞ、これ。パンがカラカラになってない。スープも温かい。ちょっと飲んでみる」
「待て待て!さすがに飲むのは不味いでしょ!」
クリスタの好奇心が恐ろしい。さすがに冗談だったみたいでスプーンを置いた。
「じゃあ、私が飲んでみる」
「ちょっと!」
今度はネーヴが名乗り出てきた。
「大丈夫、胃袋は私が一番頑丈だからね。それにダンジョン産の食べ物なんて腐るほど世に出回ってるよ」
ドヤ顔でなんか言ってるわ。
ネーヴの腕を掴んで無言の圧を加えるとさすがにネーヴも諦めた。
「『シーカー』で確かめたら?」
「あ、その手があったか」
クリスタの提案を早速実行する。
パンに対して『シーカー』のスキルを発動すると、えぐい事実が判明した。
「見た目には変化ないけど、どうも腐ってるみたい。ていうか、このダンジョンがどういうダンジョンなのか分かった」
「というと?」
「魔物の種類はおそらくゾンビとかグールとかなんかそのへんのやつだ」
「抽象的だけど何が言いたいか存分に伝わったよ」
伝わってくれて何よりだ。ネーヴは察しがよくて助かるね。
「それが本当なら、パンとスープの様子を見るに生前の姿そのままで襲ってくる可能性も捨てられないね。吸血鬼どもに攫われた人を探すのはちと難航するな。ぱっと見分けがつく方法があればそれに越したことはないな。オーステアの『シーカー』で判別するよりも早い方法がね」
「家を一つ一つ隈なく見て回るわけにもいかないね。やはり追うのは吸血鬼のほうだ。彼らの拠点さえ割り出せれば問題はあらかた片付く。攫われた人間の安否とともにね。オズ、ダンジョンの中でもまだ匂いは辿れる?」
「問題ないよ」
方針は決まったようだ。当初の予定どおり吸血鬼を追う。ダンジョンに想いを馳せるのはその後にしようってことだ。
この町に入ってから吸血鬼の匂いは段々濃くなってきた。彼らの位置は近い。廃村にいた吸血鬼のように楽に済めばいいな。舐めてたらまたネーヴに諫められてしまうから口には出さないでおこう。




