36.未確認のダンジョンへ
「なんでこんなところにダンジョンが?しかも、未発見の」
「おそらく、さっきの結界魔術で巧妙に隠されてたみたいだね。でも、術者である吸血鬼が死んだ。騎士たちが調査した時には見つからなかったわけだ。それに、村からそんなに離れた距離にあるわけじゃない。あの村にいた人たちはただ捕食されたんじゃなく、邪魔だから消されたんだ」
私の問いにネーヴが答える。
「それにしたってなんでこのダンジョンを隠す必要があるのかねえ?吸血鬼どもが発見していたってのも解せない。ここは王都から離れてるっていってもヴォルフガングの領内だ。明らかにリスクのほうがでかい」
「そうするだけのリターンがあるってだけさ」
「何か思い当たる節があるのかい?」
クリスタがネーヴに尋ねた。
「あくまで推測だけどね。大厄災を引き起こしたダンジョンがどういう特徴をもったダンジョンだったかオズは覚えてる?」
「え?すごく広かった。敵も強かったし、あと色んなエリアがあった……あー……」
思いつく限りのことを口にして、オズワルドが言ってた言葉を思い出した。父親代わりだった彼はダンジョンのことに関してはものすごく少年の心をもった人物で、簡単に言えばダンジョンマニアだった。ダンジョンに関する知識だけはアストリッドに引けをとらないと自他ともに認めるほどだ。だから、オズワルドと話す時はもっぱらダンジョンの話だった。
その中で一つ今の状況に噛み合う話があった。
「複数の入り口があった」
「そう、それだ。魔族の地と隔てる山脈が北にあるこの領地でなぜ吸血鬼が活動してるのか。そして、その吸血鬼がなんでダンジョンの入り口を隠したがるのか。もっともらしい答えをこじつけるなら実に的確じゃないか?」
ネーヴの洞察力が凄すぎて、私のほうがスキルでの情報収集能力は上のはずなのにネーヴに負けてる気がする。これだけの判断材料しかないのに一瞬でその結論に辿り着くって私には無理だ。今に始まったことじゃないからもう慣れたけどね。
「つまり、このダンジョンは魔族領と繋がってるって?」
クリスタがゲラートに視線を移した。私も魔族だけど、魔族の地のことはまったく知らない流れ者だ。打って変わって、ゲラートは分身ともいえる存在が今も魔族の地に配置してあるぐらいどっぷり魔族をしてる。ネコだけど。
「俺も知らん。もしもそれが事実なら吸血鬼どもは間違いなく反逆を企ててるといっていい」
「ちょっと!魔族同士の諍いに巻き込まないでよ」
「俺がやったことじゃねえ!俺だって今驚いてるとこだ!」
まあ、そうだよね。うん、わかってた。とりあえず言いたくなる時ってあるよね。
「で、どうする?このままにはしとけないよな?」
今にもダンジョンに突撃しそうな勢いでクリスタは言う。
「カタリナには報告しないといけないね。今言ったことは単なる憶測でしかない。この先何があるかも不明だ。だけど、早急に対処しなきゃいけないことでもある」
ネーヴは慎重だ。
「報告は俺に任せてくれ。セルマが控えてるからよ。若干怪しまれるだろうが、そこはなんとかする。そんなことより俺ぁ吸血鬼どもの企てを明らかにしたい」
「急かすな、ゲラート。この3年大人しくしてたから自由にさせてるが、主導権はこちらにあることを忘れちゃいけないよ」
「うぐ……そ、それはそうだが」
主人は私だから私が言わなきゃいけないセリフなんだけどなぜかクリスタが言ってる。まあ、何こいつしゃしゃり出てんのって感想しかなかったから、天地がひっくり返ってもクリスタのような言葉は出てこなかっただろうね。
「とはいえ、あんたも気が気でないか。本当のご主人様に危害が及ぶ可能性だってあるんだ。そのへんの意図は汲んでやるよ。というわけで、あたしはいつだっていいよ。どうせやる時はこの三人なんだ」
やる気満々に会話のボールをパスしてくるクリスタはすでに手に剣を握っている。
本当のご主人様か。そんなことすっかり忘れてた。契約魔術で縛ってはいるけど、ゲラートは魔王に仕えてるんだった。
正直なところ、私もここで引き下がる理由は何一つない。ネーヴのように周りに気を配れる性格もしてないからカタリナがどうとかも言われた後に気付いたぐらいだ。
「私はネーヴがいいっていうならいいよ」
「そうだね。行こうか。最初に遭遇するのは魔物か吸血鬼か。もしかしたら攫われた人間かもしれない。何にせよ、油断しないようにしよう」
かくして私たちはダンジョンに足を踏み入れた。




