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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
吸血鬼の影『彷徨う死のダンジョン』
34/64

34.吸血鬼との対面

 違和感を覚えたのは獣道に入ってからしばらくしてのことだった。

 魔力に包まれる感覚とともに来た道が微妙に違ったものに置き換わる。掻き分けたはずの道は途絶え、方向感覚が狂った。人を遠ざけようと張った結界に見えたのに、いざ入ってみると今度は人を惑わせるための結界になる。人が扱う魔術にこんなものは聞いたことがない。

 

「ゲラート、これを解くための鍵はなんだ?」

「人除けの魔術とは違って、結界内に術者がいないと発動しねえ。おそらく円形状になってる結界の中心だ。直進すりゃ辿り着くが問題がある。方向感覚がおかしくなってるせいで直進したつもりでも直進できてないってことだ」

「オズ、『シーカー』で特定できそう?」

「魔力が充満しすぎて鼻がきかない。ちょっと時間かかるかも」


 ネーヴの声は聞こえるのに姿が見えない。この結界に入る前、ゲラートに嫉妬してネーヴと手を繋いだ。繋いでいるはずなのにその感触がない。


「すでにカタリナと他の騎士とははぐれた。クリスタの気配もしない。私たちも直に言葉を交わせなくなる。オズに頼り切りになるのは申し訳ないけど、どうやら対抗できるのはオズだけだ」

「一応、セルマが外で結界の解析をしてるが、かなり時間がかかる。その間に結界の中にいる人間がどうなるかは保障できねえな。これほど強力なものは予想外だ。普通の結界じゃこうはならねえ。吸血鬼どもめ、こんなとこでこそこそ隠れてなにしてやがんだ」


 ゲラートの焦りが伝わってくる。あいつにとって由々しき事態のようだ。なら、私も早めに手を打たなきゃいけない。頭が痛くなって吐きそうになるけど、四の五の言ってられない。


「特定するための媒体ってないの?」

「あるわけねえだろ!」


 ですよね。ちょっとでも楽しようと思ったのに。

 そんなこと言ってる間にも心なしかゲラートの声が遠くなった気がするし、これは本格的に不味いかもしれない。


「やるしかないかぁ……」


 私は『シーカー』のスキルを発動させた。

 ただ術者の位置を特定するだけだというのに、膨大な情報が私の頭を駆け巡り、突き抜ける。私の嫌いな感覚だ。もたらされる情報の波の中で必要な情報だけは掴み取る。最初は流し込まれるだけで整理できなくて全部忘れてしまっていたけど、だんだん慣れてきてちゃんとスキルを使えるようになってきた。それでも、この痛みだけは慣れない。

 よし、これで術者の匂いは把握した。あれ、そういえば私はネーヴの匂い覚えてるから追跡すれば合流できんじゃね?いや……でも、さすがにその前に術者を叩かないとダメだよね。せっかく合流できてもまたはぐれたら元も子もないし。


「じゃあ、さくっと殺すか」


 魔力が充満してるこの空間でもなんとか匂いを嗅ぎ分けることができた。近づけば近づくほど濃くなる薄汚い匂いに対して、私は『空間収納』スキルから魔剣を取り出した。走っても走っても代わり映えしない景色には惑わされない。

 駆け抜けた先にあったのは廃村だった。その村の中心部にそいつはいた。

 分厚い天幕で日光を遮るその顔は病的なまでに青白く、眼は私と同じく赤い目をしていた。そして、おぞましいことに髪も私と似た白い色をしてる。冒険者の間で話題には上がってたがこんな見た目をしていたのか。私の劣化パクリじゃん。だって、私銀髪だし。

 謎に勝ち誇りながら私は驚いて声を上げる吸血鬼の首を一瞬で刈り取った。そして、噂どおり心臓を貫かないと死なないと困るから首のない吸血鬼の体に『空間収納』に保管してあった適当な剣をぶっ刺した。


「あ、解けた」


 結界による魔力の圧が消えるのが分かった。幻覚が消失し、廃村の様相さえも変わる。どうやら廃村は崖際にあって、唯一登ってこられる入口には木製の門が建てられていた。崖に関しては魔物なら登れないけど、私は足だけで問題なく登れた。門以外のところに壁は見当たらない。ということは、この村は魔物対策はしてあるけど、盗賊対策はほとんどしてない村だということだ。つまり、吸血鬼にとっては襲いやすい村であるということである。

 一通り村を見て回ってから吸血鬼の死体がある場所に戻った。さすがに復活はしないみたいだ。


「お、おい、殺したのか?」


 第一村人発見かと思ったらゲラートだった。

 結界が解けたから様子を見に来たんだろう。ゲラートの後ろにはネーヴが立ってた。


「まあ、殺さず生かせとはお願いしてなかったからね。結界をどうにか出来ただけ充分だよ」


 そのネーヴの発言を聞いてやっとゲラートの言葉の意味を理解した。確かに生かしておいたほうが色々情報を引き出せた。完全に私がやらかしたわけである。

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