29.馬車の中で
季節は冬だ。でも、このへん一帯は雪があまり降らない地域である。雨も滅多に降らないので私としては大変助かってるけど、農作業をする人間からしてみれば祈りを捧げる日々だという。ここより西に向かえばうんざりするほど雨が続く土地があって、南西に向かえば夏はカラッとしていて冬場に雨量の多い地域がある。
全部アストリッドからの受け売りだ。オズワルドはそういうウンチクを苦手そうにしていたけど、アストリッドはどんなにくだらない知識であろうと知識欲を満たすために行動した。だから、よく御伽噺の代わりに聞かされたもんだ。半分以上理解できなかったのはきっと子供だったからだろうね。
「それで……いつものメンツってことで」
「嬉しくなさそうだね。あたしは嬉しいよ」
「嬉しくない」
乗り心地の悪い馬車の上で揺られながら目的地を目指す。隣にはネーヴ、対面にはクリスタが座ってる。ゲラートはそのへんの床で吐きそうになるのを堪えてた。
「もう3年の付き合いになるのに全然なついてくれないねえ。そんなに負けたのが悔しかったのかい?」
「そのことは言うな」
3年前のこといつまで引きずってんだ、こいつは。
ダンジョン攻略に挑む際のメンバーで現地調査に向かってる。クリスタがいなくても私は全然構わないんだけど、私もネーヴもゴリゴリの近接タイプなので遠距離にも対応できるクリスタはかなり重宝された。今までソロだったのかと疑いたくなるぐらい私たちに配慮した立ち回りを披露して、ストレスフリーなことに私は逆に対抗心が芽生えてしまった。
だから、ことあるごとに私はクリスタにつっかかった。そして、突っかからなくてもクリスタのほうから煽ってくることもあった。どうやら私とクリスタは水と油のようだ。もう一回どっかで喧嘩して分からせてやらないといけないようだな。
「大体なんで人攫いの事件の調査を冒険者がやるんだよ。普通そういうのって騎士の役割じゃん」
「さてはオズ、話を半分ぐらいしか聞いてなかったな」
大正解である。あとでネーヴに聞けばいいかって真面目に聞いてなかった。私のもつ『シーカー』のスキルが必要なことだけは理解してる。
「騎士の方々じゃ痕跡を追うこともできなかったのさ。でも、別に責めるもんでもない。相手は存在こそ知られてるものの未知の種族だ。従来の捜査方法では嗅ぎつけられないこともある。冒険者ギルドと合同捜査をすること自体あちらさんからしたら屈辱の極みだっただろうに。唯一の手掛かりは冒険者ギルドの手柄だ。現地についたら楽しみにしてるといい。嫌がらせの一つや二つあるかもよ?」
「えっ、現地に騎士いるの?」
「どうやら事前の打ち合わせが必要みたいだよ。ゆっくり話せるようどこかで一度休憩を挟もうか」
クリスタにすら呆れられた。むかつくけど反論はできない。私が悪いことはわかってるからだ。
「それにしても、最初に見た時は浮浪者みたいな恰好をしてたのに今は随分可愛らしいじゃないか。マゴにも衣装だね」
「うるさい」
クリスタの皮肉っぽい誉め言葉に条件反射で言い返す。
そう、私の服はもうツギハギだらけのズタボロの服じゃないんだ。ネーヴが私のために選んでくれた20着ぐらいある服の特にお気に入りを着ている。黒を基調にしているデザインなんだけど、ジャケットの胸元が大きく空いていて内側のフリフリの白い服が黒と調和を生み出していてすごく可愛い。腕に白いななめのラインが入ってるのもいい。さすがネーヴだ。私じゃ絶対こんなイケイケな服選ばない。全身黒ずくめになってること間違いない。
さすがにダンジョンに潜る際に着てはいけないので、こういう時にしか着れないから思い切って着用してきたんだ。だから、なんと言われようが知ったことではない。でも、クリスタは冷たい態度を取って壁を作っても頭をぐりぐり捻じ込んで無理矢理こじ開けてくる。
「ねえ、ネーヴ。今度あたしにも服選んでよ」
「別に構わないよ」
「え!?それはダメ!」
クリスタはなんてことを言うんだ。ネーヴに服を選んでもらえるというご褒美をもらえるのは私だけだ。そこは譲れない。ネーヴも安請け合いするんじゃないよ。私とクリスタどっちが大事なんだ。
私の心の中は口に出すとネーヴを困らせる言葉のオンパレードになったので、頭の整理が追い付かなくなった。
「なんで?」
クリスタがニヤニヤしながら尋ねてくる。
あ、こいつ分かってて言ってるな。私がダメって言ってくることを見越してそんなことを言ったんだな。やっぱこいつ嫌いだ!
「ダメなものはダメ!」
「でも、それを決めるのはネーヴだよね?」
おおおお、クリスタァ!私がキレる前にその口を噤むんだな!




