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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
魔族の私とドラゴンの相棒
14/102

14.ダンジョン調査に向かおう

 なんてバカなことをしたんだ、と一瞬で後悔した。

 『シーカー』スキルを頭に使用した途端、大量の知らない情報がなだれ込んできて張り裂けそうになる。並行感覚がなくなって前後不覚になる。喉から込み上げてくるものがあったのでたぶん吐いてしまった。


「なにしたんだ!」


 ネーヴの声も遠い。

 怒ってるような焦ってるような心配してるような、そんな感じのおおごえだ。激しい頭痛と吐き気と全身の筋肉の痙攣が理性を掻きむしる。正気をたもとうとがまんする。


「とりあえず横になって!」


 ひっしになってネーヴがわたしをあおむけに寝かせようとする。

 だめだ……あおむけはまずい。


「ネーヴ、うつ伏せ。はきやすいように」


 あと吐いたモノを受け止める桶かなにか欲しい。そのぐらいのことを考えられるぐらいには意識が戻ってきた。まだ激痛が襲ってきてるままだけど、短い言葉なら口にできた。

 なにも言わずにネーヴが背中をさすってくれる。非常に助かる。少しだけ呼吸がしやすくなった。


「ごめんね……」


 こんなはずじゃなかった。情けなさで涙がでてくる。戦い以外全然だめだあ。なんでこんな脳筋に育ったんだ私。私のせいだけどさ。なんであの時積極的に物事に取り組まなかったのかな。

 マイナス思考が加速していく。独りでいた頃はこんなことなかったのに。強烈な寂しさを覚えることはあっても、時間が経てば落ち着いた。ようは慣れだ。でも、この不甲斐なさに慣れたくはなかった。


「オズ、ゆっくりでいいんだ。一緒に旅をしてくれるだけで私は嬉しい。でも、せっかくだからお互いを高め合うことが出来たらもっと楽しいんじゃないかって思っただけなんだ。それでオズに無理をさせたなら……」

「やめて。無茶なんてしてない。私がしたいと思ったからやったの。確かに今のは失敗したけど、私がネーヴのためにしたかったことを否定しないで」


 ぐるぐる回ってふわふわになった意識をかろうじて支えて、心配するネーヴに少しだけ怒った。

 もちろん、ネーヴはなにも悪くない。私の身勝手な主張だ。こんなにも優しく大切に扱われてるのに不満なんてない。少しでもネーヴと肩を並べたくて背伸びしてるんだ。


「ああ、でも、やばい。色んな情報が頭に入ってきたけど何一つ思い出せない……」

「その口振りからして『シーカー』を自分の頭に使ったわけだ。雑多な情報が少しも整理されてない状態で押し込まれたんじゃないかな。そのスキル、想像よりも奥が深いね」

「そうかも……」

「とにかく今は休もう。見張りは私がやっとくよ」

「うぅ、ありがとう」


 楽になってきたから徐々に仰向けになっていこう。体調はしばらく悪いままだろうし、もう日も落ちかけてる。何をするにしても明日になるからゆっくりしよう。

 見張りをやっとくと言いながらずっと私の手を握って看病してくれるネーヴに若干の恥ずかしさを覚える反面、これはこれで悪くないと満たされる感覚を味わいながら、私はいつの間にか眠ってた。




 肌寒さが残る早朝に自然と目覚める。空は少しまだ暗い。あんだけ響いた頭痛も消えて晴れ晴れとした気分だ。なにより起きた時、隣にいてくれる人がいると安心する。


「起こしちゃった?」


 ネーヴはどこから持ってきたのか本を読んでた。パラパラとめくれる音に心地よさを感じる。だから、本を閉じたことを名残惜しんだ。


「なに読んでたの?」

「人間社会でうまくやってく方法さ。私は耳がいいからよく盗み聞きするけど、やっぱそれだと知識に偏りができるから。こうしてたまには別の角度から取り入れないとね」

「ふーん?」


 私もそうしたほうがいいのかな。でも、正直文字は自信がない。勉強はしたけどもう10年も経ってるし、習ってるときも怪しいところは多々あった。

 いや、これに関しては何度もアストリッドに叱りつけられた。上位の冒険者になるほど舐められないように教養を身につけるんだ。

 やるしかないかあ……。


「私にも見せてくれる?」

「いいよ、はい」


 手に取ってみるとかなり分厚い。なんか難しそうなタイトルと表紙にある写実的なイラストに私は苦い顔をした。

 ぐぇー!医学書じゃん、これ。どこからこんなもん掘り出してきたんだ。ハードル高すぎ、むりむり。


「ちなみに、どこまで読んだの?」

「半分少し過ぎたあたりかな」


 ええええ、こんな難解な本、私じゃ最初のページが限界だ。行けて目次と前書きだな。


「まあ……気が向いたら貸してもらおうかな」

「その日を楽しみにしてる」


 なんでそんな慈しむような微笑みを向けるんだ!

 その眼差し知ってるぞ。アストリッドが私に結構頻繁に向けてたやつと一緒だ。子供扱いすんな。牢屋に長い間いたから正確な年齢はわからないけど、二十歳は超えてるはずだ。

 私の膨れっ面を見て、ネーヴが頭を撫でてくる。


「そんなつもりはなかったんだけどオズが可愛くてね。ごめん」

「謝罪になってなーい!」


 身支度を整えた……といっても基本的に私もネーヴも携帯してる物がほとんどないけど、私たちは軽く朝食をとって宿をでた。

 クリスタとの待ち合わせ場所までさほど離れてない。まあ、冒険者ギルドだけどね。

早起きしたつもりだったけど、クリスタはすでに待機していた。知らない女性とともに。


「調査員か」


 ネーヴはすぐに彼女の正体を見抜いた。

 服装こそ冒険者だけど、装備が微妙に違う。調査員は戦闘に参加しない代わりに、記録のためのアイテム一式をバックパックに備えてる。なんのための記録かというと、率直に言えばダンジョンだ。


「新しく出来たダンジョンの調査依頼だ。どうやら一癖ある場所にあるみたいでな。その分報酬がいい。あんたら運がいいな。なかなかこういう依頼はねえもんさ」


 クリスタは続けた。


「紹介するよ。こいつはセルマ。今回の探索に随伴することになった調査員だ。何度か手合わせしたことがあるから保証するよ。足手纏いにはならない」

「セルマです。よろしくお願いします」


 青髪青眼のボブカットの小さな女性だ。ちなみに、私より背は高い、僅差でね。


「いやいや、私たちまだクラスタの実際戦うとこ見てないから保証と言われてもねえ」

「そりゃそうか。まあ、いいだろ?」


 元貴族か何だか知らないけど、らしからぬ雑さだ。


「他に人間がくるなんて聞いてない……」


 極力人間と関わらないようにしてるのにどんどん人が増えてく。いや、お金を稼ぐってそういうことだって理解してるよ?でも、やっぱストレスじゃん?

 ネーヴを困らせたくないのでこれ以上とやかく言わないようにしよう。


「シュネーヴだ。こっちがオーステア。私たちの話はどこまで聞いてる?」

「無理のない範囲で聞いてます」

「このギルド支部の連中はギルドマスターに恩義を感じてるらしい。ギルドマスターに都合の悪いことは起こんないってわけだ」

「相変わらず絡みづらいド直球な発言ですね」


 私もそう思う。セルマに賛同だ。クリスタは歯に衣着せぬ物言いが過ぎて敵が多そうである。そういう意味でもソロだったのかな。


「なんだい、私なりに濁してはいるだろ」

「はあ、なぜあなたのことをギルドマスターが信頼してるのか永遠の謎です」

「同じ余所者だからじゃない?」


 この人はいちいち含みがある言い方をしないといけない縛りでもあるのか。

 セルマの表情が段々険しくなるのがヒヤヒヤものだ。ただでさえコミュニケーション能力に難があるのに、こんな微妙な空気を作られると息が詰まって過呼吸になりそうだ。


「仲間割れはよしてくれないか?あんまりひどいようなら抜けさせてもらうよ」


 ネーヴが私を抱き寄せてきっぱり言い放った。こいつ私の心読んでるんじゃないか。私への配慮が厚すぎる。


「失礼しました」

「挨拶みたいなもんだ。まあ……そうだな。こっちのノリを押し付けて悪かった。これからの計画を話し合うことで口直ししよう」

「よろしくお願いするよ」


 クリスタはバツが悪そうに少しだけ眉根を上げた。ネーヴの無言の圧が強くて怯んだんだろう。私も今の間は少し怖かった。


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