102.襲撃と予感
「私の種族は弱い。弱いから人間の地に追いやられて、そこでも安住の地を見つけられなかった。そんな私に助けを求めるなんてどうかしてる。吸血鬼に比べたら私の種族はそのへんに生えた雑草と変わんないじゃん。もっとひどいかも?」
「そんなことはないよ。君は俺にとっての戦少女だ。無理にとは言わない。だが、君に頼らざるをえないのも事実だ。恥ずかしながらね」
エドは甘ったるい表情を取り繕ってるけど、疲労と焦燥の色が滲み出ていた。その声色一つとっても魔王に残された時間はわずかしかない。それはゲラートの挙動を見ても明らかだった。
私は彼らにとってまさに兵器である。戦況を一変させるほどの。相手にクリスタほど機転のきく戦闘をする者がいないなら私の独壇場であることは間違いない。うってつけだ。見境なく殺すだけなら三日三晩寝ずに事を起こせる。そして、私にとって命の価値はそれほどない。魔族だって人間だって同じだ。やるかやらないかの二択でしかないんだ。
正直言って面倒だ。魔族の地の覇権争いなんて勝手にしてくれって思う。でも、ネーヴは協力するっていう。あーもう、なんでこういうことに首を突っ込むのかなぁ……そういうところも含めてネーヴなんだけども。
なんて言い淀んでいたら唐突に家が爆発した。
爆発元は玄関とは逆の壁だ。石の壁がバラバラになり、凶器となって迫る。私たちはそれに防御することでしか対応できなった。
粉塵が舞い、家は半壊状態になっていた。何の気配もなかったのにそれは起こったんだ。
「ネーヴ!無事なの!?」
返事はない。
聞こえるのはモネスの咳き込みとクリスタの悪態のみ。
「ゲラート!てめえ居場所バレてんじゃねえかよ!」
「はしたないよ、その言葉遣い。ほんと野蛮なんだから……」
キレてるクリスタに苦言を呈するモネス。そんなのんきなことを言ってる場合じゃない。それに、肝心のゲラートからの返事がない。それどころか、エドたちの姿も見えない。いや、争う音が外から聞こえる。すでに戦闘が始まってるんだ。だったら、そこにネーヴがいる。
私は瓦礫をどかして外に飛び出した。
そこにいたのは、鬱陶しいほどの陽気には似つかわしくない黒いマントを羽織った集団だった。みな素性を隠しているというよりは日光に弱いせいだろう。なぜなら、彼らの手にはエドがもってるような杭のような武器が握られていた。こいつらは吸血鬼だ。そして、エドを取り囲んでいる。
エドは日差しを直に浴びているのに平然としていた。彼も吸血鬼のはずなのに。
その理由はすぐに理解できた。エドが纏ってる黒いオーラには見覚えがあった。ダンジョンボスであるレオが纏っていた『闇魔法』だ。
そこまで考えて自分の前提が間違ってることに気づいた。
吸血鬼は太陽の光に弱い。それは間違ってない。実際にエドと対峙してる吸血鬼らしき集団は日光に当たらないように肉体の隅々まで服で覆ってる。何らかの魔術的保護がされてるんだろう。ただ覆ってるだけじゃ完全には防げないし。
そもそもエドは『闇魔法』を習得する前から肌を露出させていた。今考えるとそれはありえないことだ。ダンジョン内には擬似的ではあるけど、太陽が昇っていたにもかかわらずエドは平気でいたんだ。
「ネーヴ!」
次に私の視界に入ったのは、敵の吸血鬼に担がれた気絶しているネーヴの姿だった。