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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
魔族間紛争
101/102

101.魔王

「あのダンジョンで反乱因子どもの策を潰したまではよかった。あの時には手遅れだったことを除けばね。戦闘要員の補充は阻止できた。ただそれだけだ。大元の計画は実行されてしまったよ。というより、それがあいつらの狙いだったというべきか」

「というと?」


 勝手にエドが解説を始めたので私たちはそのへんの椅子に腰かけた。


「なんつー順応力よ……遠慮がないというかなんというか」


 後ろでモネスが何か言ってる。私は気にしないでおくことにした。


「王座が空席になったのを見計らって反乱は実行された。俺が帰還した時にはもう王都は占拠されてたってわけ」


 エドは軽い調子で言ったけど事態は結構深刻だ。まあ、だからこそゲラートが私たちに頼ったんだろうけどね。


「その時ゲラートは何してたの?」

「おまえらと一緒にいたよ」

「いや……エドのところに一体配置してたんじゃないの?」

「そいつは城が占領された時に真っ先に潰された」


 なるほど。ゲラートの傀儡は情報の流出を防ぐために迅速に排除されたわけだ。相手は何の考えもなしにクーデターを起こしたわけじゃない。魔王の手勢をちゃんと把握したうえでリスクを最小限にしてる。

 吸血鬼は高慢で自尊心が高いだけの種族じゃないみたいだ。思えば、エドも吸血鬼だから全員が全員そういうものじゃないのは分かり切ったことだった。

 というか、辻褄があった感じだ。

 ゲラートがレオのダンジョンをクリアしたあとに離脱したのは魔族の地にいる個体が壊されたからだ。


「エドは魔族の中で一番強いんでしょ?一番強いやつが魔王になるって聞いたんだけど」


 そうネーヴが尋ねる。


「単一種族ならそれでまかりとおったよ。どうしても種族間の格差はなくせない。そこにテコ入れしようとして反発をくらったんだ。俺は弱い者いじめが嫌いなんだ。同胞は俺を変わり者と呼ぶよ。魔王になってからは素性を隠してるからほとんど顔も合わせてないが」


 迫害を推奨してる反乱側よりよっぽど好感がもてる。魔族と一括りにしてるけど、種族が違えばコミニュティが偏ってくる。別の種族に友好的だったり、温情を示したりしたら変わり者として除け者扱い。

 ほんとに素敵な場所だね、魔族の地って。人間はゴミだけど、魔族はクズだな。まあ、そう言ってる私も褒められた性格じゃないんだけどね。


「それで私たちにどうしてほしいって?」


 若干会話に飽きてきた私は話題を本題に移した。

 エドの視線は私に固定されたままだ。嫌な予感しかしない。


「五万人の兵を相手に一切休むことなく全員を殺し尽くした冒険者がいるらしい」

「誰だそんな頭おかしいやつは」


 しらばっくれることにした。


「いや、無理があるだろ」


 クリスタに突っ込まれた。

 言わないでくれ。無理があるのは私が一番わかってる。でも、関わりたくないのは同じ気持ちだろ?


「もしかして敵を根こそぎ葬ってほしいって言ってんの?わざわざ呼び寄せてそんな無茶難題ふっかけてくるって正気なの?」


 事情を察したモネスが私の代わりに苦言を呈してくれた。もっと言ってやってくれ。明らかな重労働だ。私はストライキする覚悟がある。ネーヴにお願いされないかぎり私は協力しないからな!


「エドの言い分を聞くかぎりだと正義は魔王様の側にありそうだね。微力ながら私は手伝わせてもらうよ。でも、手伝うのは私だけだ。自分の意思で戦うことを決めないといけない。私たちは巻き込まれた側なんだから」

「それはもちろんそのとおりだ。ここまで来てもらったのは俺のワガママだ。本来なら俺がそちらに足を運ぶべきだった。この地から離れるわけにはいかなくてね。そこは申し訳なく思ってる。無事勝利を収めることができたなら、俺が出来る範囲の最大限のことを君たちに尽くそう。だから、お願いだ。俺に力を貸してくれないか?」


 エドはそう言って頭を深々と下げた。

 ネーヴは私だけ戦うと言った。ほんの少しだけ突き放されたのかと暗い気分になったけど、この戦いに参加するということは魔族の戦争に加担するということに他ならない。酒場の喧嘩とは訳が違う。だからこそ、ネーヴは私の意思に委ねたんだ。

 でも、逆にそれが腹立たしくもあった。

 私が仲間を見捨てられない性格なのは理解してるはずだ。私は地獄だろうが戦場だろうが、ネーヴのいる場所についていく。それを分かっていてくれてないことに怒りを覚えた。

 そして、何よりエドにむかついた。エドの目的はあくまで私だ。ネーヴもクリスタもモネスもついでにすぎないんだ。それを黙ってたゲラートにもむかついたし、ネーヴがいなかったら私は絶対にこの話に乗らなかった。そんでもって、エドはゲラートが忠誠を誓った魔王だ。つまり、私の大切なモノを奪った首謀者であるということだ。

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