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人間嫌いの魔族ステラの旅  作者: かに
魔族の私とドラゴンの相棒
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1.白き竜との出会い

 人間なんて嫌いだ。あいつらと関わるとロクなことが起きない。すぐ裏切るし、嘘も平気でつく。私利私欲のために他人の尊厳を踏みにじることだって厭わない。

 ここは森の奥深く、人が踏み入らない領域だ。かれこれもう十年もここで暮らしている。人間社会に身を置いていた頃のような暮らしは見込めないけど、この不便さを天秤にかけても人間とは関わりたくない。


「君が『深き森の精霊』?にしてはみすぼらしい……というか、浮浪者だね」


 急に空から降ってきたかと思えば不躾なことを言い放つ。

 救いがあるとすればこいつが人間じゃなくて赤眼の白竜だということか。私と同じ目の色だ。だから、目が合った時親近感を抱いたのに台無しだ。


「喧嘩売ってる?」


 十年も言葉を発してないのに、するりと発することができた。呂律が回ってなかったら舐められてたところだ。私は自分の口を誉めた。すばらしい。

 確かに人里を離れてからはカバンに押し込んでた服だけで生活してきたから生地はほつれ、つぎはぎだらけで見栄えは相当よくない。二年ぐらい前から縫い針も錆びついて使い物にならなくなったから尚更ひどい状態だ。

 正直、衣服住の衣に関しては限界を感じてる。


「喧嘩か!それも楽しそうだ。でも、今日会いにきたのはそれが理由じゃない」

「まるでまた来るかのような言い草だけど二度と来ないでほしい」

「まだ会って間もないのにつれないねえ!」

「迷惑だし、うるさいから早く帰ってほしい」

「こりゃ筋金入りだ」

「なにが?」

「そのへんの冒険者が噂しててね。森の奥深くにいる世捨て人の話さ。遠目に見かけてもそそくさとどっか行っちまうってな。そいつはフードを被ってるが、辛うじて見えた白い髪と真っ赤な瞳が印象的だったと。さて、どんな人物なのか……気になって気になって仕方がない。だから、こうして御尊顔を拝みにきたって寸法だ」

「はあ……」


 何度か冒険者らしき人間と遭遇しかけたことはある。相手より早く気配を察知し、その場から去ることで事なきを得ていたつもりだった。だが、現実はそう甘くない。

 それよりも気になることがあった。


「ドラゴンが人間と世間話したの?」

「私は人間が好きだからな」


 聞きたいことはそういうことではない。もしかしてこいつ話が通じないタイプのドラゴンか?てか、そもそもドラゴンって討伐対象だし、最高ランクの冒険者でも倒せるかわからないモンスターだし。


「私は人間が嫌い」

「だろうね」

「そりが合わないし、帰ったら?」

「いやあ、どうかな。同じアルビノだし、他人な気がしないなー。もしかしたら血を分けた姉妹かも?」

「あなた、ドラゴンじゃん。てか、メスなの?」


 帰らせようとしても無駄なようだ。このドラゴン、私に興味津々だ。こんなつまらない女を相手して何になるというのだ。ほっといてほしい。

 散々鬱陶しがった後に、どうでもいい情報を気にしてしまう自分に呆れてしまう。


「生物学的にはそうだね」

「生物学的に」


 ドラゴンの口から耳にするとは思ってもみなかった。

 人語を解するドラゴンはドラゴンの中でも相当高位の存在だ。でも、こんなに理知的なドラゴンは初めてだ。

 基本的にあいつらは人間を馬鹿にする時しか口を開かない。対話の余地がないのだ。命乞いを聞くために言葉を理解しているのではないかと疑われているぐらいだ。

 だから、この白いドラゴンは相当の変わり者だ。


「まあ、いいや。その図体でどうやって冒険者と話したの?むしろ殺し合いになるんじゃ?」

「私は人間が好きだからな」

「会話する気ある?」


 同じこと2回も言わんでいいわ!

 どうやらこのドラゴン本当に人間が好きみたいだ。あんな醜い生物のどこが好きになれるというのか。


「心外だ!会話する気満々だよ!要領が得ない返答をしてすまなかった。私は人間が好きすぎるあまり人間の肉体を手にいれる魔法を会得したのさ!」

「聞いたことがない」


 眉唾物だ。そんな話聞いたこともない。いや、目の前のドラゴンそのものが人間界で共通するドラゴンのビジョンからかけ離れてるわけだが。


「あれ?信じてくれないの?」

「実際にやってみせてくれたら信じるかな。そのでかい図体をどうやって人間のような矮小な肉体に変化させるか」

「もうやってるよ」


 不意に後ろから声がした。ドラゴンと同じ声だ。

 振り返ると、そこには冒険者のいでたちをさたアルビノの女性がいた。背は私より頭一個分高くて凛とした顔立ちがとても魅力的な美少女だ。

 さすがの私も唖然とした。そして、処理しきれなくなった情報を急ピッチで噛み砕けるように整理する。


「どう?どうどうどう?」

「……てっきり肉体を変化させるかと思ってたら、魂を飛ばして可視化させたわけね?そうか、呪術の延長線上で考えれば出来ないことはないか。でも。人間がそれやるとただの生き霊になるか、そのまま死んでしまうかするね……」

「そう!私が天才だから出来たの!」


 確かに天才だけど、なんか認めるのムカつくな。

 それで……本体のほうは……眠っているようだ。眠っているというか意識がないというか。これ、かなり危ない状態なのでは?


「これ、かなり無防備すぎない?」

「ふっふっふっ……そう思うでしょ?そう思ったよね?実はね……その通りなんだよなあ!」


 こいつしばいたろうか。

 久しぶりの会話ってだけでも疲れるのに、さらに精神をすり減らされる。人間じゃないだけマシだけど。


「じゃこれで」

「待って、待って。まだ5分も経ってない」

「充分でしょ」

「なんでえ!?もっとトークようよ!女子トーク!」


 必死に私の右腕にしがみつく。なんか自分の子供の頃思い出して嫌だな。でも、振り払ったら可哀想だし。

 というか、今までの会話で女子らしいとこあった?


「じゃあ、5分経ったら帰っていいってこと?」

「は?バカじゃないの?だからぼっちなんだよ」

「急に強い言葉使われて、私今すっごくびっくりしてる」


 事実なんだけどさ。自分で言うのと他から言われるのって違うよね。それにさ、好きでぼっちやってるんだからよくない?


「それにさ、興味湧かない?人間になれるドラゴンが目の前にいるんだよ?知的好奇心くすぐられない?」

「……興味ないと言えば嘘になる」

「でしょ!?立ち話もなんだ。家はどこ?」

「うちにくるの!?」

「毒を食わらば皿までってね!」

「意味わかって使ってる?」


 私は深いため息をつく。なんてやつに絡まれてしまったんだ。完全に信用したわけじゃないけど、こいつからは聞かなきゃいけないことが多々ある。


「ところで『深き森の精霊』って何?」

「そういう噂話だよ。ボロ布纏った神出鬼没の小人はきっと精霊に違いないってね」

「身長のこと私が気にしてないと思ったか?」

「遠目だから余計に小さく見えたんだね。そんなに小さくないよ」

「そんなにってなんだ!そんなにって!何のフォローにもないってない!」


 やはり人間は嫌いだ。そんな噂流したやつ呪われればいいのに。私は顔も見たくないが。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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