第八話 ~この話は必要だったんだ~
俺達は何故か戻っていったクソガミと別れてからエレナに町を案内してもらっている。
「この町は交易の拠点として発展してきた町で、大きな建物は多くが宿泊施設になっています」
エレナはそう言いながら町のある一角を示す。その示す方には確かに遠くから見ても大きな建物が多くあった。
「ちなみに、今回私たちが使っているのも宿泊施設の一つです。あれは団体がひとまとまりになって泊まれるようにした施設ですね」
「へぇ~」
叶は感心したように話を聞いているけど、どこまで理解しているのかはわからない。まぁ確かに理解したところでこの先役立ちそうにない話ではあるけれど。
「他にも世界各地の珍しいものが集まってくるので、商店も色々あります。見ていきますか?」
「うんうん!」
叶はむしろそれがメインだったのだろう。嬉しそうに案内するエレナについていく。
エレナは何かを見つけるたびに細かく叶や俺に説明してくれる。エレナはゲームでいうところの説明役なのだろうか。
そんな風に町を三人で巡っていて気づいたことがある。それは、エレナ以外の人が何を言っているのかわかないことだ。俺の知っているどの国の言語にも似ていないそれは、俺には理解できないけど、エレナにはわかるようで、通訳のようなことをしてくれている。どうもエレナは両方の言語を操れるようだ。この世界、設定が本当に細かい。
叶は会話を早々に諦めてジェスチャーで伝える試みをしていた。そしてそれだけで本当になんとなく伝わっているから不思議だ。その切り替えの早さと行動力は叶の長所だ。
「これ、見たことないけど美味しいね」
叶は先ほどの店でエレナに買ってもらった、見た目はりんごに似た、中身は桃に似た何かを手で皮をむいて食べていた。見れば見るほど謎の果物だ。
それを叶は五つも買ってもらって、かごに入れて持ち歩いていた。ゲームだから持って帰れないけど、全部食べるつもりだろうか。
もしくは忘れている? その可能性が高そうだ。
「気に入ってもらえたようで何よりです」
「あの、お金良かったんですか?」
俺達はこの世界のお金を持っていない。それなのに叶が食べたいと駄々をこねるので、エレナが見かねて買ってくれたのだ。
「はい、問題ありません。郁乃様からしっかりもらっていますから」
いつの間に渡していたのだろうか。いや、もしかしたら乾先輩はエレナに預けているのかもしれない。
「お、やっと見つけた」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには駆け寄ってくるクソガミの姿があった。
「話し合いは終わったのか?」
「あぁ。たぶん今なら帰してもらえるぞ」
それならばと俺達は先ほどの建物に戻っていく。
「竜登君、これ食べてみて? おいしいよ?」
クソガミは叶の持つかごの中から例の謎の果物を受け取り、言われたとおりに皮をむき、皮はポケットにしまった。制服が汚れるのにもかかわらず、その辺りに捨てないあたりが律儀だ。
「お、本当にうまい。だが、例えようのない味だな」
「でしょ?」
そんなことをしているうちに先ほどの建物まで戻ってきた。そもそも町をめぐり終わって戻る途中だったので、思いのほか早く着いた。
「ただ今戻りました」
エレナは先に声をかけ、それに返事があると扉を開けた。
そして先ほどまでのように俺達は椅子に座り、エレナはカティナの傍に控えた。
「この街はどうでしたか?」
カティナさんは先程までの笑みとは違い、何かいたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべた。
しかし、その笑みの意味が分からず、気にしないことにした。
「はい。何言ってるのかわからないですけど、活気はあるなぁと思いました」
「食べ物もおいしいしね」
「そうですか。それは良かったです」
いたずらを思いついた子供のような笑みはなくなり、本当に嬉しそうな笑みをうかべる。この街に何か思い入れでもあるのだろうか。
「自分の作った町が褒められて嬉しいのか?」
乾先輩はにやりと口を歪め、楽しそうに指摘する。
「町を作った?」
思わず俺はカティナさんをじっと見る。するとカティナさんは胸を張った。
たわわに実った胸が揺れる。うん、この中では一番だ。最下位はもちろん乾先輩。
「いっ!」
いつの間にか顕現したリベリオンで思いっきり脇腹を突かれ、俺は脇腹を押さえて蹲った。
何故邪なことを考えたのがばれたんだろう。
「表情に出てるぞ、愚か者」
なるほど。
エレナは俺の様子を見ておろおろしているが、カティナさんはそんな俺の様子を楽しそうに眺め、胸を強調しようとしているのか、腕を組んだ。
「話を戻しますが、この街は確かに私が作ったのです。と言っても、発案者が私であり、作ったのは別の方ですが」
「一応言っておくが、こいつは一国の女王だから、態度には気を付けろ。下手をすると首をはねられるぞ?」
乾先輩の態度は無礼じゃないのかとつっこみを入れるのも忘れ、茫然とカティナさんを見る。
流石にここまで現実と遜色ない世界だと、いくら作り物とはいえ、委縮してしまう。
「私はそんなことはしません。エレナは知りませんが」
「え? え?」
いきなり話を振られ、エレナが困ったようにカティナと乾先輩を交互に見ている。
「エレナも女王の護衛も兼ねているからな。ありえるかもしれん」
「し……しませんよそんなこと!」
からかっているのだろうということは、俺にもわかった。確かにエレナの反応を見ていると、からかいたくなる反応をしている。
そう思って俺は笑ってしまう。叶も俺と一緒に笑っていた。クソガミは口元に笑みを浮かべ、乾先輩もカティナも笑っている。エレナだけはからかわれたとわかったのか、不満顔だ。
俺達はひとしきり笑うと、乾先輩が口を開く。
「さぁ、では戻るか」
「お帰りですか。私はしばらくここにいるので、またいらしてください」
俺たちは軽くあいさつを交わすと、目を閉じ、目を開くといつもの部屋に戻ってきていた。
「今日は解散しよう。明日の放課後から訓練だからな? これからは毎日あると思え」
「うん」
「わかりました」
叶と俺の返事はあったが、一向にクソガミの声が聞こえない。乾先輩は気にしていないようだけど、クソガミにしては人を無視するなんて珍しい。
どうしたのかと見てみると、一点を見つめたまま固まっていた。そこに何かあるのかと思ったけど、そこには壁しかない。
「クソガミ、どうかしたのか?」
「え……あ……あぁ、何でもない」
明らかに何でもないようには見えなかったが、よくわからず、そのままあやふやになった。
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