第六話 ~イマジナルの能力の説明するよ~
空間の穴の先は町のようだった。木でできたログハウスのような家が何件も建っており、ちらほらと人も見かけることが出来る。道端で露店を開いている人がいたり、荷馬車が通り過ぎたりとたくさんの人で賑わい、なかなか大きな町のようだ。
エレナの案内で町の中をどんどん進んでいく。そして一軒の家の中に通された。そこも丸太で出来ていたが、他の建物に比べ少し大きく見える。
「カティナ様、郁乃様とお連れの方をお連れしました」
エレナは入り、そう声をかけた。
「来たようですね」
建物の中は円卓が一つと椅子が五脚用意されていて、そのうちの一つに女性が座っていた。
それは妙齢の女性だった。目が鋭く、見た目は全く似ていないが、雰囲気は乾先輩に似ているような気がする。なんとなくわかる。この人も乾先輩と同じ人種だ。
「カティナ、待たせたようだな」
「それなりには。暇だったので椅子を用意しておきました」
『とりあえず適当に座ろうか』という乾先輩の声に促され、俺達は思い思いの席に座った。
「おそらく皆さんは郁乃になにも説明もなく連れてこられたことでしょう」
前置きにこう言われるということは、乾先輩はそういう人なのだろう。確かに今までも説明をあまりしてこなかったような気がする。
「まずはわらわから名乗りましょう。名を拠点のカティナと言います。そして彼女が神速のエレナ。エレナに関してはもう紹介はありましたか?」
わかっていたことだけど一人称がわらわ…… この世界を作ったのが中二病の乾先輩だから――――いや、何もう言うまい。
「うん」
カティナの質問に叶が代表するように大きく頷く。なぜ叶が代表?
「では、そちらの紹介をお願いできますか?」
エレナにしたように俺達はそれぞれ名乗る。そして俺は先ほどから気になっていたことを聞いた。
「あの、さっきから“神速の”や“拠点の”って一体何なんですか?」
「そのことですか。それは確か……そう、二つ名というのでしたか。わらわ達の世界ではイマジナルの能力を発現させると、その能力に応じた二つ名が与えられます」
中二病だなぁと改めて思ってしまう。
「詳しい話はあとでいい。こちらは暇なお前と違って時間が少ないんだ。無駄話は要件をすましてからにしてもらおうか」
「相変わらず余裕のない人ですね。要望のあった人はこちらに移動中です。明日には到着すると思います。ですから今日は情報交換の日とした方が賢明ですよ。それに、事を急くのは郁乃、貴女の悪い癖ですよ」
「移動中? そんなものお前の能力で――――いや、そうだな。今日のところは情報交換といこうか」
聞きたいことはたくさんある。そういってくれるのは正直ありがたかった。今何か解決策を言おうとしたようだが、もしかして乾先輩は俺たちに気を使ってくれたのだろうか。
「はいはーい。じゃあ、私から質問」
最初に名乗りを上げたのは叶だった。こういう時空気を読まずに行動してくれる人は正直ありがたい。
「さっきエレナちゃんがやってた移動、どうやってやるの?」
「移動?」
「なんかビュー、ズザザーって現れたやつだよ」
叶は身振り手振りを交えて説明する。
「あ、あれのことですか」
エレナは本当に何の事だかわからなかったようだけど、叶の説明でわかったようだ。擬音ばかりの説明でよくわかったものだ。
「あれはわたしのイマジナルの能力です」
エレナは丁寧に説明を始めてくれる。
「そもそもイマジナルには能力が必ず存在します。わたしのカリブルヌスの能力は力の制御。あ、ここでいう力というのは物体を変化させるものという意味の力です」
「うんうん」
叶は相槌を打っているけど、あの反応は既に置いていかれている。絶対にわかっていない。そんなことがわからないエレナは話を続けた。
「ですが、制御とはいっても複雑な制御は不可能な上に、このカリブルヌスで触れているかその極近い周辺くらいの範囲くらいですけど。それにわたしに出来るのはせいぜい一定方向に力を出力することだけです」
それでも十分に脅威だ。つまり、あの槍に触れれば即アウト。触れた瞬間力の制御で吹き飛ばされるか破壊されるか。あの槍が切れる形状をしていなかったのは必要がなかったからだったのかもしれない。
「そしてわたしのこの能力を使えば永続的に推進力を得られるので、乗り物としても利用したりするんです。それが皆さんの見た高速移動の正体です」
「なるほどなるほど。乗り物としても使えるなんて便利だね」
叶は理解できなかっただろうが、最後の説明だけ理解できたようだ。正直俺も大半理解できなかったけど、その能力の凄まじさだけはなんとなくわかった。そして同時に、乾先輩の説明の適当さがわかった。
「イマジナル能力には、必ず能力が付随します」
カティナが唐突に説明を始める。
「そしてその能力はレベルに左右されます。いくら強力な能力でもレベルが低ければ出力が足らずに大した現象は起こせず、逆に大した能力でなくてもレベルさえあれば応用のきく現象を起こせます。要は使いようということです」
そのレベルってもしかして俺達の中二病分類のレベルを言っているのだろうか。そういうところの設定細かいなぁ。
「それじゃあ、乾先輩がさっきこの町に移動してきた時にやったことって……」
「それが私の能力だ。リベリオンの能力は空間。行ったことのある空間ならどこでも繋げられる能力だ。見えていようとなかろうと関係ない」
この人の能力もなかなかに凄い。ただ、移動以外で使いどころがわからない能力だ。
「ところで皆さんの能力はもうわかっていますか? わかっていないなら今の内に能力の推測をしてみるのも一興ですよ? 形状から能力を推察出来たりもしますから」
「あたしの能力もわかるのかな。おいで、マルチタスク」
俺は能力以前にイマジナルがわからないとは言えないよなぁ。
「その武器があなたのイマジナルなのですね。形状から察するに銃でしょうか?」
よくこの形状で銃と分かったものだ。もしかしてこの世界の銃はこういう形状なのか?
「そうそう。でも、弾を撃つ以外何もできないの」
そう言って叶は自分のイマジナルをカティナに差し出す。カティナはいじりまわしながら色々な部位を確認していく。
「これはどう見てもこの絵柄の描かれたつまみが何かの能力の発現につながると思うのですけど……」
「それは俺も考えたんだ。だが、つまみを回すことすらできない」
まぁ、これだけあからさまなのだから誰でも考えるだろう。しかし、俺もクソガミも、叶でさえもあのつまみは回すことさえできなかった。なので結局当時は飾りだって結論になったんだ。
「恐らくそれは叶が能力を望まないからでしょう」
「望む?」
「イマジナル能力は思いの力。思い込めば込むほど強力になる。レベルの高さは同時に思い込みの強さと言ってもいいのです」
「つまり、叶は自分の能力を信じ切れていない?」
「もしくはわかっていないのかもしれんな。その絵から正しくイメージできないのかもしれない」
クソガミの意見より乾先輩の言い分の方が正しいと俺は思う。思い込みの強さは今でも自分を守ってくれる人を待ち続けているのだから折り紙付きだ。
「そのための訓練ですから、その時に練習すれば良いでしょう。他の二人は――――」
俺はカティナから目を逸らす。何故かクソガミも目を逸らしていた。
「どうやら何かあるようなので、今日はここまでにしておきましょう。エレナ、三人に町を案内してあげて。郁乃は今後の話し合いをしましょう」
「わかりました。聖夜様、竜登様、叶様、参りましょう」
乾先輩を残し、俺達はその建物を後にする。二人で話をするって、この世界を作ったのが乾先輩なのだから、ほとんど独り言だよなと思う。
「それで皆さんどうしますか?」
「はいはい! 町を見て回りたい! 特に食べ物屋さん」
叶が即手を挙げてそう主張する。食い意地だけは人一倍だ。
「お二人はどうですか?」
「俺も町を見て回ろうかな」
「俺も行こうか」
「それでは叶様、聖夜様、竜登様、参りましょう」
造られた町とはいえ、何もかも初めて見るものばかりだ。俺は初めて見る街に心躍らせていた。