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中二病に気をつけろ!  作者: 江藤乱世
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第五話 ~知らない世界へ~

 次の日の放課後に旧校舎に集まった俺達を、乾先輩は既に教室の中で待っていた。


「郁乃ちゃん、今日は何するの?」


 叶は最近の非日常な日々に少し浮かれているようだ。俺も少しワクワクしているが。


「もうすぐ準備ができる。少し待て」


 そう言いながら乾先輩はキーボードに何かを打ち込んでいる。俺達は何をすることがなく、談笑しながら待っていた。


「待たせた。少し手こずってな」


「何をしてたんだ?」


「お前達はイマジナルでの戦闘経験は皆無だろう? そこで、練習するための舞台を整えた」


 確かに俺達はイマジナル能力をほとんど使ったことがない。ただ、使わないのは少数派だ。ほとんどの人が日常的に使用したり、戦ったりしている。俺は使いたくても使えないんだけど。


「部隊って何? 戦うの?」


 おそらく叶の中に浮かんだ言葉の意味は間違っている。心は読めないけど断言できる。


「まぁ、見てみるのが早いだろう」


 そう言って乾先輩は鍵を召還する。


「では、目を閉じろ」


 俺達はよくわからないながらも目を閉じた。


「もういい。開けてみろ」


 時間にしておそらく二秒も経っていない。何のために目を閉じたんだと思いながら目を開けると、そこは既に教室ではなかった。


 言葉を失うとはまさにこのことなのだろう。


 そこは見渡す限りの草原だった。くるぶしより少し高いところまである草が一面に生えており、小さな丘のようなものがちらほらと見える。地平線が見える草原を人生で初めて見た。


 遠くの方には木が密集した場所や、テントのような簡易な住居らしきものが見える。


「なんだよこれ……」


「す……すご!! なにこれなにこれ!?」


「どうだ? ここは私が作り出した世界。名をクリングルという」


 作り出したということは、ここはゲームの中ということだろうか。確かに巷ではゲームの中に意識を投影して本物さながらの体験ができるゲームがあると聞いたことがあった。これがそうだとしたら凄すぎる。


 乾先輩はない胸を張って誇らしげにしている。


「伊吹。貴様、何か失礼なことを考えなかったか?」


「そ……そんなことないです。」


 いい勘をしている。気を付けよう。


「まぁいい。ここで待ち合わせをしている。まだいないようだから、しばらく待とう」


 乾先輩はそう言って遠くを見つめた。そちらから誰か来るのだろうか。


「凄いね、あたし地平線なんて初めて見た」


「俺も。それにしてもどうなってるんだろう? このゲーム」


 そもそも俺たちはどうやってゲームの中に入ったんだろう。謎だ。


「あたしたちが考えても分からないよ」


「確かに。クソガミならわかるか?」


 静かに周りを観察していたクソガミが呼びかけに反応する。


「わかるわけないだろ。それよりもここから出る方法と、現実世界の体が心配だ」


 言われて初めてその事実に気づいた。ゲームの中に体ごと入ったとは考えられない。じゃあ、現実の体はどうなっているのだろう。


「安心しろ。体は寝転がっているだけだ。この世界に来るにも帰るにも私の協力が必要だが、まぁ、問題ないだろう」


 寝転がっているのは安心できることなのだろうかと思ってしまう。もしも誰か尋ねてきたら気絶している人が四人。病院に運ばれそうで怖い。


「あの部屋には誰も来ないから問題ないだろう。少なくとも今まではない」


 乾先輩は俺の心を読んだように俺の疑問に答える。


「それって大丈夫なんですか?」


「聖夜、そんなことより楽しもうよ」


 叶は興奮冷めやらない様子で俺の手を引く。


 確かに細かいことは気にしないで、今はこの場を楽しもう。そちらの方が得な気がしてきた。何かあったら乾先輩のせいにしようと心に決めながら。


「待っている時間の賭けでもしないか?」


「賭けるものがないし、見るもの多いからそっちにしよ?」


 確かにそうだと俺は頭を切り替える。


 それから各自思い思いに過ごした。俺は叶に引っ張られるままに周りをうろうろし、クソガミは昼寝をしているのかその場に寝転がり、乾先輩は相変わらず遠くを見つめていた。


 十数分後、乾先輩に動きがあった。


「来た。集合だ」


 乾先輩の声に俺たちは乾先輩に近づく。


「誰もいませんけど……」


 俺は乾先輩が見ている方向を凝視するが、ただ草原が広がっているだけだ。しかし誰かから指摘される前に頭の中でインナーの声が聞こえた。『誰かが正面にいる』と。


「もしかしてあの点に見えるのがそうか?」


「確かに誰かいるね」


 クソガミが指差す方向をじっと見れば、確かに生物らしき動くものが見えた。そしてそれは急激に大きくなっていく。


 速い。とにかく速い。人間ではありえない速度でその人影はこちらに滑るように近づいてきている。

それは瞬く間にこちらに接近し、そして通り過ぎた。急停止を試みたようだが、すぐに停止できなかったのだ。土埃が舞い、それは未だ確認できない。ただ通り過ぎた時に見えたのは、小さな女の子だったように見えた。それに、何かに乗っていた?


 風が流れ、土埃が晴れていく。そこに立っていたのは案の定少女だった。


「皆さん、お待たせしました」


 その少女は可愛らしい容姿をしていた。長髪で色は金。身長は乾先輩と同じくらいだ。


「やっと来たか。待ち合わせとは何かあったのか?」


 しかし、特記すべきはそこじゃない。彼女の手にある武器だ。


 全長は二メートル程。見た目としてはランスに近いだろうか。それは大まかに持ち手である棒の部分と、同じくらいの長さの刃と思われる部分に分かれる。棒の部分は握れるほどの太さのものが均一に伸び、刃との付け根に四本の試験管のようなガラス管が付いている。刃と思われる部分は丸みを帯びていて、殴ることは出来そうだけど、斬ったりさしたり出来そうにはない。その刃の部分には亀裂のように真ん中に線が入っており、真ん中あたりに丸い赤いガラス玉がはまっていた。


「はい。今回はいつもの場所ではなく、あの方は“歪の回廊”の近くの村にいるものでその伝言のために」


 彼女はあれに乗って移動しているように見えたし、もしかしてあれもイマジナル能力なのだろうか。


「あいつはまた勝手にそんなことをしているのか? なるほど、それはご苦労だな」


 乾先輩は得心がいったようだけど、俺には全くなんのことだかわからない。


「では、仲間を紹介しよう」


 乾先輩に促され、俺達は思い思いに自己紹介をする。そして、最後に問いかけた。


「君は誰?」


 少女はきょとんとなり、そして何かを思い出したように苦笑した。


「郁乃様は何も説明されていないのですね」


 良くあることなのか、慣れたように自己紹介を始めた。


「わたしは神速のエレナと申します。エレナとお呼びください」


 エレナと名乗った少女は優雅に微笑んだ。その笑顔は少女には似合わない、妖艶さえ含んでいた。

というか、神速のエレナってどういうことだ? 神速のが苗字?


「詳しい話は向こうでしよう。あいつを待たせると後でうるさいからな」


 詳しい話もできず、乾先輩が移動を促す。というか、ここからどう移動するのだろう。エレナは先ほどのように移動すればいいのだろうけど、俺達にそんな移動手段はない。


「そうですね。では郁乃様、お願いします」


「あぁ。来い、リベリオン」


 乾先輩の声に呼応し、手の中に鍵が現れる。そして乾先輩は鍵の先端を突き出した。すると、空間に亀裂が入り、それは瞬く間に広がり、穴になった。その穴の向こうには、なかったはずの建物が見えている。


 乾先輩とエレナと叶は躊躇いもなく穴をくぐっていく。それに続くように叶も穴をくぐる。


 俺達は茫然とその光景を見ていることしかできない。


「何をしている? 早くこっちに来い」


「二人とも早くおいでよ!」


 乾先輩は穴の向こうで振り返り、呆れた顔で呼んでいる。叶も大きく手を振り俺達を呼んでいた。


 なぜ叶はあそこに躊躇いもなく入れるのだろう。


「……行くか?」


「……だね」


 いつまでもそうしているわけにはいかず、クソガミと俺は頷きあって覚悟を決めてその穴をくぐる。何事もなくその穴を通り抜けて振り返ると、穴は見る見るうちに塞がり、なくなってしまった。もしかしてこれが乾先輩のイマジナル能力なのか?

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