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愛されクソ雑魚TSエルフが紡ぐ異世界シンフォニー  作者: 桜寝子
第2部  第2章 新しい夢の始まり
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第66話 傍に居る事

 そして翌朝……というか昼前。

 観光に出るまで暇だったのか、シアはルナと並んで宿をウロウロしていた。


 人が多く集まる中央は宿の質も高め(その分料金も高めだが仕方ない)であり、好奇心旺盛な彼女達にとっては周りや宿泊客を眺めるだけでも楽しいらしい。


 当然そんな少女と精霊は注目の的だが、既に開き直って気にしていない。

 一通り周って満足したのか、部屋へ戻ろうと歩くシア達へと声が掛けられる。


「あ、お嬢ちゃん。君達宛てに手紙が届いてるから、お姉ちゃん達に持って行ってあげて」


「んぇ? あ、うん。ありがとう」


 宿の受付に居た女性だ。部屋へ手紙を届ける為に向かっていたらしい。

 流石に目立つ彼女達の事はよく覚えていて、すぐそこの部屋だし渡してしまおうと呼び止めたのだろう。


 早々にジェラルドからかと考えたシアは深く考えずに受け取り、歩きながら中身を見る。


「あれ、リアーネさんからだ。なんで宿が分かったんだろ……」


 しかし差出人はまさかのリアーネであった。

 街に着いた時点で約束の手紙は出していたが、返事が来るとは思ってもみなかった。


 中央から2つ目の街であるランブレットとは、一般の手紙のやり取りは早い距離……なのだが、何故この宿に居る事が伝わっているのだろうか。


「なんて書いてあるの?」


 ルナも予想外の手紙が気になるのか、読み始めたシアの肩から覗き込んで訊ねる。


「ん……? んー……? あれぇ……?」


「どしたの?」


 手紙はリリーナに宛てた物で、中央に居るなら両親に挨拶しろと少し厳しめな言葉が綴られていた。

 彼女の両親についてずっと勘違いしたままだったシアは困惑中だ。


 あえて触れない様にしてきたから、知らなかった事は構わない。

 到着しても一切そんな素振りを見せなかったリリーナが気になる。


「まぁいいか。直接聞こうっと」


「いいのかな……複雑そうだけど……」


 悩んでも仕方ないので素直に突撃する事にした。

 触れていい事なのかと珍しくルナの方が及び腰になっている。


「だって家族だもん」


 大切だから力になりたい。踏み込む事を恐れては変わらないのだと、勇気を出してみる。

 昨日聞いた話が早々に意味を成しているようだ。


 という訳で突撃。


「リリーナぁー! 手紙ぃー! お父さんとお母さんが中央に居るってどういう事ぉー!?」


 ばーんと扉を開けて、大声で呼びながら走っていった。


「そこまで勢い良く行く……?」


 置いていかれたルナは呆れながらふよふよと続いた。




 そしてシアを宥めつつ手紙を受け取ったリリーナはと言うと……


「やられたわ……セシリア、宿の名前とか伝えたでしょ」


 苦い顔をしてセシリアへ向き直った。


 約束の手紙は其々の家族へ宛てた物で、2通送っていてお互いの内容を確認したりもしない。


「だって……ねぇ?」


 親友の抱える事情を多少なりとも知っているからか、良い機会だからとお節介を止められなかったらしい。


「だからってこんな……あ~、もうっ」


 なんだかんだこの件に関しては厳しい事は言われてこなかった為、今更ながら彼女に響いた。


 遠回しに追い詰められ、シアに簡単に説明するついでに向き合おうと腹を括ったようだ。


「で、結局何がどうなってるわけ?」


 既に誰かさんが突撃した後なので、ルナも興味を隠さず訊ねる。

 開き直ってぶちまけるつもりで、リリーナは変わらず苦い表情のまま語った。



 曰く。

 約7年程前に両親は仕事の為に中央へ移住した。

 当時彼女はまだ10歳、妹に至っては5歳にもなっていなかったし、姉は技師見習いになったばかりだった。


 なのに勝手な事情で遠くへ行った両親に良くない感情を持ってしまった。

 結局両親とはそれきり会う事も無く、手紙のやり取りさえ姉と妹にさせていた為に今更どうしていいのか何も分からない。

 という事らしい。



 当時の年齢からすればそれも仕方の無い事。

 むしろ成長してある程度両親の事情を理解しているからこそ、憎む事も出来ないのだ。


「なんとなくは分かったけど……なんで皆で引っ越さなかったの?」


 ひとまず理解は出来たが、しかし疑問も多い。

 家族全員で移住すればわだかまりも最低限で済んだかもしれない。

 というか無理矢理にでも子供達を連れて行きたいものではないだろうか。


「違う街へ引っ越すなんて、子供にとってはあまりに大きすぎるのよ。それと、姉さんがとにかく優秀だったから……」


 子供にとっては友人や住み慣れた街を捨てるのと同じ事だった。

 離れた街に遊びに行くなんて子供には不可能だ。

 そもそもが家族で移住なんて珍しいどころじゃない。


 大人になって独り立ちし、違う街へ行く事はある。

 しかし家庭を持ったなら最低限、子が成人するまではその街で暮らすものだ。



 結局はリアーネとリリーナの猛反発で、両親だけが離れる事になった。


 彼女達、特にリアーネが歳の割に随分としっかりした子だった事も大きい。

 どうしても行くなら、幼いリーリアの面倒も全て引き受けて自立するとまで言って見送ったのだ。


 だからこそ、大人であろうと背伸びを続けていたのだろう。


「まぁ、シアにもこうして話した事だし、行かなきゃかなぁ……」


「? 私に話すと行かなきゃならないの?」


 姉程に立派ではなく、妹程には幼くなかったリリーナの気持ちは宙ぶらりんのままだった。


 そしてシアに聞かせたなら、もう逃げてはいられない。

 可哀想な子と下に見ている訳では無いが……両親どころか全てを失ったシアに対して、自分は何も失っていないのにただ逃げている事が恥ずかしいと感じるのだ。

 だから家でも話題にしなかった。


 全く持ってそんな事は考えもしないシアは首を傾げている。

 これでも中身は大人である。人によって事情も、その重さも違うという事をちゃんと分かっているつもりだ。


「ふふっ……そういうものなんだよ」


 お節介なセシリアは微笑みながらシアの頭を撫でる。


 シアの前なら強がってでも動くと信じていた。

 口に出す事で整理して勇気が出せるだろうと思った。

 そしてその思惑通りになった訳だ。


「何を偉そうに……ま、思い立ったらなんとやらよ。悪いけど、今日は私は両親のとこに行くわ」


 何か言い返してやりたいが、なんだか情けなくなりそうなので我慢する。

 決断したなら行動しようと、リリーナは今日中に会いに行くつもりらしい。


「え、今日これから? 住所は分かるだろうけど、居るの?」


「うん、住所どころか休日までしっかり書いてある。ホント全部掌の上って感じね」


 セシリアは困惑したが、そこはやはりリアーネがちゃんと手紙に記していた。

 偶然にも今日がその休日の1つであった為、誰かさんの様に突撃するつもりだ。


「待って待って、じゃあ私も! 挨拶くらいはしなきゃ!」


「シアが行くならあたしも行くよ。家族だもんね」


 家族として受け入れてくれた姉達の両親なら、シアにとっても立場上は同じ。

 勿論ルナもまた、家族として挨拶に付いて行くつもりだ。


「それもそっか。じゃあ一緒に行こうか」


 それを断る気はリリーナには無かった。

 情けない姿を見せてしまうかもしれないが、挨拶したいと言う彼女達の気持ちは無下に出来ない。


「あれ!? じゃあ今日は私達だけ除け者!?」


「家族の話なんだし、僕としてはそれでもいいよ。ただ、危険な旅を一緒にしている以上は挨拶した方が良いとは思ってるけど」


 あっという間に兄と2人残されてしまいそうになってセシリアは慌てた。

 流石に兄妹で観光は気恥ずかしいらしい。


 話に加わらず穏やかな表情で眺めていたセシルは、どちらとも取れない言葉で濁した。

 どちらも本心故に判断は任せる事にしたようだ。


「あっ、そうそう! そうだよ! と言う訳で私達も付いてくね!」


 せっかくリリーナに判断を任せたというのに、半ば無理矢理決めてしまった。

 それでいいのかとセシルは確認の為にリリーナを見る。


「はぁ~……分かった、いいわよ。なんだかんだ私の事を考えてくれてた訳だし、あの頃セシリアと出逢えて救われたんだもの。ちゃんと親友だって紹介しなきゃ、ね?」


 何度目かの溜息を吐いて、今度は笑顔でセシリアに向き直った。


 彼女が自分の事を考えてくれていた事は分かっているし、素直に嬉しい。

 当時モヤモヤと重く荒れた彼女の心を癒したのはセシリアだったのだから。


 あの頃に出逢えたお陰で、ここまで大きな存在の親友になれたのは間違いない。


「ふぇっ……え、あぅ……急にそういうの、反則……」


 珍しくストレートに笑顔でそんな事を言うリリーナに、セシリアは顔を赤くして戸惑い小声で呟いた。


 面と向かって親友だと言われて照れるのは分かるが、こうやって意味深な反応をするからその気があると思われるのだといい加減気付くべきである。


「なんでそんなアヤシイ反応なの……? 私変な事言った?」


「ううん、セシリアが変なだけ」


 よく分からない反応をされてリリーナは少し引き、シアでさえ遠慮無くバッサリと切り捨てた。


「酷いっ! なんか最近2人からの扱いが酷いっ!」


 冗談めかして泣き崩れるセシリアだが、自業自得の様な物だろうから無視でいいだろう。



 そんな2人を見ながら、シアは思った。

 自分がルナに救われた様に、リリーナもセシリアに救われていた。

 それを知れた事が嬉しかった。


 きっと誰だって、誰かと居て救われるのだ。

 もしかしたらルナもセシリアも救われているのかもしれない。


 そうだったらいいし、そんな自分でありたいな……と。

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