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愛されクソ雑魚TSエルフが紡ぐ異世界シンフォニー  作者: 桜寝子
第2部  第2章 新しい夢の始まり
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第65話 少女の語り、老兵の語り

 食事を始め、さて何処から聞こうかとジェラルドが呟いた後――シアはあっけらかんと語り始めた。


「私ね、アルピナに居たの。もう全部無くなっちゃったけど……」


 その一言で、ジェラルドの表情は一瞬で真剣な物へ変わる。

 どれ程長く生きても……いや、生きてきたからこそ。彼女の求める言葉を探した結果、何も言えなかった。


 シアは同情も慰めも何1つ、求めてはいなかったのだから。


「それでね、山に逃げて……ルナと出逢って、新しい家族と出逢えたの」


 少女は語る。家族と故郷全てを目の前で無くし、逃げて2年以上も生き延びた事を。

 ルナと出逢い救われた事を。新たな家族と出逢い幸せを見つけた事を。


 いつぞやに皆にも伝えた嘘の説明だが、その語り口は全く違った。

 充分に癒され、最大のトラウマにしっかり向き合おうとしているのだろう。


「でね、私は世界を見てみたいんだ。つらい事ばっかりじゃない……世界はこんなにも楽しくて幸せなんだって、沢山経験したい」


 街での話を終え、旅に出る事になった最近の事も。

 そう真剣に、夢を語るシアを見るジェラルドの目は細められ揺らいでいた。


「その為の力だって、いっぱい頑張ったよ。こんなに早く旅に出るとは思ってなかったけど……」


「こらっ! それは簡単に見せちゃダメだって言われてるでしょ!」


 しかしまさかのアルカナを披露してしまい、リリーナを始め皆から慌てた小言が飛んで来る。


 魔力障壁を発展させた物だと言い張れば誤魔化せるだろうが、そんな咄嗟の判断はまだ出来なかった。

 つまりその慌てぶりは、隠すべき特殊な力だと言っているのと同じだった。


「なんと……君は一体どれだけの物を背負ってるんだ?」


 悲惨な生い立ちと特別な力……それでも明るく前へ進む幼い少女にジェラルドは驚きを通り越して疑問で埋まった。


「そんなの分かんない。でも、つらい事も幸せな事も、全部大事な事で……背負うからこそ意味があるんだと思う」


 語っていない事――異世界から生まれ変わった事も含め、彼女が背負う物は多くて大きい。


 けれど全て含めて自分なのだと……手放してはいけない大切な物なのだと信じている。


「なにより、私だけじゃないもん。皆が一緒に背負ってくれるから、なにも重くないよ」


 言えない秘密はルナが。それ以外も家族が共に背負ってくれるから、こんなにも小さな背中でも大丈夫。

 そう語り切った少女は見た目とは裏腹に、この場の誰よりも大人びて見えた。


 まだまだ子供と思っていたが、こんな事を言える程に成長していたのか……と当の家族は若干呆けてしまっている。


「そうか――そうか……」


 変わらず目を細めたまま、ジェラルドはシアの頭を撫でた。


 何か言おうと思っても何も出てこない。何も考えず、ただ自然と撫でていた。

 皺の入った優しい掌をくすぐったがる様に、シアはふわっと笑う。



 シアは出来る限り全てを話し聞かせたかった。

 あの背中に見惚れると同時に、寂しさを感じたから。自嘲の陰も合わせて、疲れて圧し潰されそうだと。


 自分に出来る事を考えた結果、ただ語る事にした。

 明け透けに語る事で、彼にも出来る限り語ってほしかった。


 散々圧し潰されそうになって救われてきた自分と同じ様に、それで少しでも楽になるなら……何か影響を与えられたら良いな、と。


「君は強いな……そして聡い。私も語りたくなってしまったよ……聞いてくれるかい?」


「うん、聞かせて!」


 そんな彼女の想いはジェラルドにも汲み取れたのか、今度はジェラルドが語り始める。


「私はね、臆病なんだ。君よりも……きっと誰よりも臆病で、ずっと歳だけ重ねてきた爺なんだ」


 開口一番、自分を卑下する言葉から始まった。


「失う事を恐れて、少しでも背負う物を減らした。1人であろうとしてきた。臆病だからこそ生き延びた」


 何もかもを恐れ、1人で我武者羅に戦う事へ逃げた。

 そうすれば背負うのは倒れた仲間だけで良いのだ。

 それでも圧し潰されそうな程に背負い続けている。


 彼の言う臆病とは、そんな心を自覚して尚も変えられない意識の事だった。


「勿論努力はしてきたし、戦い続けた事や評価される事に誇りはある。しかしその誇りは……戦場に縛り付ける鎖になるのだ」


 街と人を護って戦い、信頼され、相応の実力があるという自負。誇り。

 それは心を支える大きな柱であり、同時に戦場から退く事を許さない鎖となる。


 彼に限った話ではなく、ある程度ハンターとして活躍してきた者に付き纏う物だ。


 旅立つなら今だ、と団長達が言った本質はそういう事かと皆は理解した。

 完全に絡め捕られるよりも前に背中を突き飛ばされたのだろう。


「戦う事しかしてこなかった私に、他の何が出来るのか……進む事も、何かを変える事さえも全てを諦めて、戦場こそが私の居場所だと縋り付いている」


 彼は戦場に縛られた。

 一般的なハンターなら老いていくにつれ、その鎖も緩み戦場から退いていくものだが……彼はまだ戦えた。戦えてしまった。


 そして自ら歩みを止めて鎖を増やした。変化を恐れる様になった。

 命燃え尽きるまで変わらず戦い切るのだと。


「そうして気付けばこんな歳だ。立ち止まってしまう事と、歩くのを諦める事は全く違う。君達はこんな爺の様にはならんでくれ」


 夢と希望に走る若者へ、老兵は語る。

 どんな道を進もうと、何度立ち止まろうと、また踏み出せばそれでいいのだ。



 しかし、こうして語る事で彼は気付く事が出来た。

 諦めたと思い込んでいただけだったのだ。


 まだ完全には諦めていないからこそ、悩み悔やんで……そして今日、こんな眩しい少女達に憧れた。


「情けない話だったが……吐き出させてくれてありがとう。誰にも話した事は無かったが、存外悪くないものだな。聞かされた君達からすれば良い迷惑かもしれんが」


 彼はあまり人と関わろうとしてこなかった故に、こんな話は誰にもした事が無い。

 今まで溜め込んできた物を多少なりとも吐き出せたのは救いであった。


 迷惑だなんてとんでもない、と皆は揃って口々に返す。

 英雄譚でなくとも貴重な話には違いない。事実誰もがよくよく噛み締めて聞き入っていた。


「こんな話をしただけで、なんだか心が一気に片付いた様だ。こうなると分かっていたのかい?」


「ん……なったら良いなって。私がそうやって救われてきたから……」


 長く生きてきて、まさかこんな小さな子供に救われるとは。

 人生は何があるか分からないものだ……と、なんだか悟ってしまいそうだった。


 救われてきた、と言いながらシアは家族達を見て微笑む。

 その微笑みを見た当の家族は誇らしいやら気恥ずかしいやら、とにかく嬉しそうだ。


 自分達は確かに彼女を支え助ける事が出来たのだと理解出来たから。

 彼女の中でそんな存在になれていた事が、ただただ嬉しかったのだ。




 そんな事も含め、この語らいは全員にとって意味のある良い場となってくれた。


 暗くない英雄譚を聞けなかったのは残念だが、この街には暫く滞在する予定なので機会はあるだろう。


 そこから暫しの時間が流れ、和気藹々と料理を食べ終えた。

 そうしてジェラルドは大きな息を吐いてから口を開く。


「まぁ、ここらが潮時だろうな。私もそろそろ、錆び付いた誇りを置いて歩き出すべきか」


 語っていく中で気付けた想い。

 恐れていた筈のこの変化は逃してはならないと、自分へ言い聞かせる様に口を開いた。


 今更でも、もう一度歩き出したい。

 戦場から新たな道へ向かおうと勇気を出したのだ。


「私も旅でもしてみようかね。新しい人生と思い切って楽しんでみるのも良さそうだ」


 幸い実力はまだ辛うじて錆び付いていないし、旅に出るのも悪くない。

 後進を鍛える立場も良いが、やはり目の前の少女の様にと思ってしまうのは何故だろうか。


「じゃあさ! 私達と一緒に行こうよ!」


 少女は仲間にしたそうにこちらを見ている。

 なんて冗談は置いておくとして、こんな言葉を口に出した時点で返事は決まっていた。


「そうだな……君の夢の先を見てみたい」


 彼は穏やかな表情でシアの誘いに乗った。

 さっき会ったばかりでなんとも思い切ったものだ。


「やった! ジェラルドさんならすっごく頼りになるし、いっぱい楽しもう!」


 誰もが信頼する程に強く偉大な人物というだけで、かなりの優良物件ではあるけれど……こんな重大な話なのに独断専行もいいところ。


 皆は唐突な彼女の誘いと、それに乗るジェラルドに驚いて何も言えていない。


「とは言え、いきなりは無理だ。しばらく待ってもらわなきゃならないんだが……」


 彼の存在は大きいのだから尚更だろう。

 しかし彼が託さなかっただけで後進はちゃんと居るのだ。なんだかんだ快く見送るだろう。


「何日でも待つよ! ねっ!」


 さも当然の様に答えてから、同意を求めて皆を見る。

 呑気に嬉しそうに笑っているが先走り過ぎである。


「ねっ! じゃないよお馬鹿。勝手に決めちゃってもう……」


「そこまであっという間に話を進められたら、何も言えないわよ」


「こ、こんな凄い人と一緒に旅……別の意味で何も言えないよ……」


「僕としては色んな意味で嬉しい限りだ。やっぱり男1人っていうのはね……」


 まぁ心強いなんてものじゃない仲間が増える事自体は喜ばしい。

 名声による信頼ではなく、仲間としての信頼は旅の中で育めばいいだろう。


「多少待たせてしまうだろうが、幸い私は金ならある。いくらでも滞在しなさい」


 長く滞在するなら費用も嵩むが、そこはジェラルドが用立ててくれるらしい。

 相当に稼いで貯まっているし、1人で生きてきた彼にとっては残しても仕方ない物だ。



 予定は曖昧なので、この場は簡単な話を済ませて終わり。

 ジェラルドは諸々を片付ける為に別れ、皆は気の向くままウロウロと歩きだす。


 宿に戻った頃には日も沈み、大まかに数日の予定を立てる。

 滞在中にお金を稼ぐ必要が無くなったのでかなり呑気な予定だ。


 やけに観光に積極的なリリーナになんだか言いたげなセシリアとセシルだったが、結局何も言わずに就寝となった。

 やはり1部屋しか取っていないが、セシルの気苦労もこの街で終わりになる筈だ。

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