第62話 心のままに
せっかく善意で保護されたのに戻ってきたシアには多少言いたい事もあるが、とりあえずは褒めちぎってあげる事にした。
「よくやったぞー、流石私の妹!」
そんな周囲に聞かせる様なわざとらしいセリフと共に、リリーナはシアの頭をわしゃわしゃと撫でる。
この場の殆どは彼女達の事を知らず、今ようやく情報が伝わっている所だ。
これで妹と呼ばれたシアの事も理解してくれるだろう。
「うんうん、あの状況で1発で当てるなんて本当に凄いよ」
「ああ、良い腕になったもんだ」
彼女達は今は待機と言ったところか。
後始末は手伝うつもりだが、その凄惨な現場を自然な振舞でシアの視界から隠している。
実力は認めてもやはり子供。積極的に見せたい物ではないと感じてしまうのも無理は無い。
「ん……でもちょっと眼が疲れちゃった」
そしてそんなシアは目をグリグリ。
眼というとにかく重要な感覚器官を強化した所為だ。
疲労や痛み、情報を処理する脳への負担はかなり厳しい。
なので基本的には極軽く強化する程度だが、それでも効果があるのが眼という器官である。
「あらら、強化したんだ。それもそうか……じゃあ早く休もうか」
「私達は後始末も手伝うつもりだから……ルナと一緒に帰れる?」
自分達で連れて帰りたいけど、早く休ませたい。
どうしようかと悩み、ルナが一緒ならと見送ろうとした。
「あー、ちょっといいか。まずは礼を、それと――」
そこへ揃って帰っても大丈夫だと周囲から声が掛かった。
彼女達が善意から参加してくれたという事も伝わり、ならばそこまで世話になるのも申し訳ない……という事らしい。
報酬を貰う以上きっちりやり切るつもりだった皆は困惑したが、そうまで言われて居座るのも悪いと考えて受け入れた。
そういう訳で宿に戻ると、早々に汗や服の汚れを落とす。
その後一息入れながら軽く明日の予定を考え、そうしてベッドへ。
この部屋のベッドは4つ。なのに何故か1つに少女達がみっちりと並ぶ。
早々に眠ったシアへ自然とセシリアが添い寝し、それを見たリリーナまでもが潜り込んだのだ。
真ん中のシアは寝ているので反応は無いが、正直苦しそうだ。
ちなみにルナはシアの胸の上。
「正直、色々と感じた後の衝動だったけど……力になれて良かったかな」
眠るまでの僅かな時間。セシリアが誰に言うともなく、しみじみと呟く。
「そうね。やっぱり私は、根っからのハンターみたい」
その言葉に同意し、リリーナも改めて自分を見つめ直した。
「それは皆そうだろう? それはきっと、この旅で僕らが経験する事の根本……なんじゃないかな」
自分に出来る事で誰かの為になるなら。
それはセシリアがハンターになった曖昧な理由だが、皆が持つ気持ちだった。
きっとこの先、旅で出逢う様々な出来事にそうして向き合っていくだろう。
ハンターを辞めてシーカーになったとしても、その心は変わらない。
「あたしは楽しければなんでもいいけどね。ただ……目の前の困ってる人を見過ごす事が楽しいとは思わないかな」
ルナも語る。それはシアも全く同じ考えだ。
積極的に探してまで人助けをしようとは思わないが、目の前に居る人くらいは助けたい。
見過ごしたなら、きっとその先楽しめないから。
言ってしまえば自分の為だ。
それでもついでに誰かの為になるのなら……それはそれでいいのかもしれない。
善も偽善も無い。皆、自分の心に従って動くだけだ。
この旅での最初の学びとして、其々の想いを胸に眠りにつく。
なんにせよ糧になるなら意味がある。それが旅という物なのだろう。
そしてそんな話があったなんて知らないシアは翌朝、苦しそうに目を覚ました。
「ぅう……暑……狭いっ! なに!?」
両側からぎっちり挟まれ、胸にルナを乗せての睡眠はあまりよろしくなかったらしい。
流石にそんな声を上げれば皆も起きる。
目覚めは良くなかったが、この街での3日目が始まった。
ひとまずは今日も街に繰り出すとしよう。
昨日は予定も考えずに衝動で動いてしまったので、1日滞在が伸びて宿泊費も嵩んだ。
元からお金は余裕があるし報酬も貰えたが、控える癖を付けないと後が大変なのは考えるまでもない。
あまり深く考えないシア。感覚が分からないルナ。元より一家揃って金遣いがあまりよろしくないセシリアとセシル。
正直お金に関してはリリーナの胃が心配だ。
まぁそれはともかく、思う存分街を散策して楽しもう。
当然だがシアの体力を考慮してゆっくりとした観光だ。
専門ではない故に豊作なのかは分からないが、瑞々しい沢山の作物。
のんびり暮らす動物達。場所によっては触れ合う事も可能で、それもまた新鮮な気持ちにさせてくれる。
こうして育つ家畜から受け取る恵みを考えれば、一際有難みを実感するというもの。
流石は街そのものが農場と言ったところか、そこら中で美味しい物をつまめる屋台もある。
あれもこれもと味わう為に、1つ1つを少なくしなければならないのが心底惜しい程だ。
街を流れる川もまた気分を良くしてくれる。
川を含む立地の街は多く、ランブレットだってそうだった。
なのに風景が変われば、全く違った感想を抱ける事を不思議に思う。
歩き回って疲れた脚を休める為に、川岸に座り靴を脱いでいたシアが足先を水に着けてぶらぶらばしゃばしゃ。
しかしふと何を思ったのか、冷たいだろう川にちゃぷちゃぷと入り出した。
深い所には行かない様に気を付けながらはしゃいでいる。
柔らかな日差しの下、弾ける水と一緒にキラキラと輝く笑顔が眩しい。
勿論ルナも共に遊んでいる。
休憩のつもりだっただろうに、一瞬で遊びに変わってしまったのが彼女らしい。
それを眺める姉達も、ただそれだけで何処か癒される気分になってしまう。
幼い少女と精霊がそんな事をしていれば、通りがかった者はなんだなんだと視線を向ける。
大人は微笑ましく見守り、子供は何故だか混ざってくる。
まだそんな季節ではないのに子供は元気なものである。
そうしてとにかく賑やかに、ゆっくり、噛み締めるように。
知らなかった街を心に刻み込むように。
この楽しく幸せな記憶を忘れないように。
旅の想い出としていつか振り返る事が出来るように。
ただひたすらに、思うままに。日が暮れるまで散々楽しんだ。
名残惜しくも感じるが、明日は出発だ。
食事を終えたら早めに寝て、しっかり万全の状態で目覚めなければならない。
満足そうにベッドに入ったシア達は、きっと良い夢を見る事だろう。
翌朝、街を出る時にハンターの数人が見送ってくれた。
どうやらあの夜に追加で警備に入った者で、彼女達の活躍もしっかり見て覚えていたらしい。
偶然出会えただけだが、予想外の見送りを嬉しく感じながら出発した。
「次は何があるかなっ?」
「さぁ? 分かんないからこそ楽しいよ」
期待を胸に、弾む心と同じ様に馬に揺られながらシアが言う。
彼女の肩に乗るルナは笑いながら返した。
まさに旅とはそういう物なのだろう。
「中央に着くまでに、何かあったら良いね」
リリーナは背中の2人へ希望を語る。
ただ中央を目指すだけならすぐだ。
しかし当然と言っていいのか、やはり西へ東へウロウロしながら進んでいく。
丘や湖があるくらいの、ただの平原。
それでも何かあったらいいなと、期待と楽しみは尽きない。
「楽しみなのはいいけど、気は抜き過ぎない様にね」
「まぁ、何事も適度にね。兄さん、あっちの丘まで行ってみよう!」
兄の言葉に同意しながらセシリアは指を差す。
特に何がある訳でもないが、丘の上から見渡せば何か見つかるかもしれない。
気ままに進路を変え、揃って走る。
何もかも分からない。それは怖いけれど、楽しいのだ。
旅は始まったばかり、まだまだ続く。まだまだ走る。




