第60話 街に着いたらサブクエ開始
「もうっ! 何あの人達、失礼しちゃうなぁ!」
シアがなにやらぷんすかと怒っている。
考えてみれば当たり前の展開だな、と他の皆は納得してしまっているので荒れているのは彼女だけだ。
一体何があったのかと言うと……
無事にリーンウェルに到着し、街に入る為に門で手続きをしただけだ。
どの街も、他国でさえも、しっかりと身分を証明出来れば基本的にはあっさり通れる……筈だった。極普通の者ならば。
僅か12歳の少女(見た目は10歳程度)、精霊、まだ大人と言える程の歳ではない少女2人と大人の男1人。
そんな一行が普通だとは誰も思わない。
シーカーです、旅をしていますなんて簡単には信じてくれないのだ。
ただし端から全てを拒絶する訳ではない。
何か裏があるのでは、何か事件や犯罪なのでは、家族というのは本当なのか、この精霊は一体何なんだ。
疑問だらけでひたすらに時間が掛かっただけである。
シアの姓が姉のリリーナと違う事も、その疑問に拍車をかけた。
心の底から家族と思っていても、どうしても姓を変える事は出来なかった。
彼女にとってそれだけはそのままでありたかったのだ。
そんなこんなで、やたらと細かい事までしつこくじっくりと質疑応答をさせられたのであった。
家族や親友を疑われたりと、シアにとっては失礼と感じられる程であり、その所為で無事に街に入った後もぷんぷんしている訳だ。
一応擁護しておくが、彼らも意地悪でそんな対応はしていない。
あくまで街の出入りを管理する仕事として、疑問と懸念を解消しようとしていただけ。
悪意の無い行動を責めるのもあまりよろしくはないだろう。
「うーん……この先も街に着く度に同じような事になる気がするから、気にするだけ無駄だと思うよ~?」
頬を膨らませるシアを宥めるついでに、いつもの様に後ろからこねくり回すセシリアが軽い口調で言う。
「そうそう。ていうかあたしなんてもっとだよ」
ルナはシアの頭にぐでーっと乗っかっており、彼女とはまた違った理由でうんざりしている。
「何処にいったってあたしは驚かれるし、色んな視線を向けられるし……諦めよ?」
そう続けてシアの髪を弄び溜息をついた。
セシリアといいルナといい、シアは手慰みに弄られてばかりだ。実はリリーナも時々やっている。
団長達にも頻繁に頭を撫でられていたので、触りたくなる何かを発しているのかもしれない。
「まぁ……それもそっか。はぁ、諦めよ」
そしてシアも溜息をつき、これでもう収めようと諦める事にした。
なんだか最近は色々と諦めてばかりな気がするが、どれも仕方ない事だ。
決して彼女が情けない訳ではない……多分。
「切り替え早いなぁ……」
良くも悪くもシアの単純さに、リリーナは笑みを溢す。
こんな単純な性格だからこそ本人も周囲も沢山の事を楽しめる、と考えれば良い事の方が多いかもしれない。
「さ、収まったなら宿に行こう。ほぼ確実に空いてるだろうけど、早いに越した事はない」
とりあえず一段落ついたらしいので、セシルが次の行動を促した。
何はともあれ、まずは宿を取らなければならないのでゾロゾロと歩いていく。
ちなみに、日々街を行き来する者達は限られるので宿の経営は儲かるとは言えない。なので食堂も兼業して稼ぐのが一般的だ。
受付を済ませて部屋に荷物を置くが、その部屋は1つだけ。
男が居るとは言え1人だけなのだから、わざわざ2部屋取る事も無いという判断だ。
セシルとしては正直心苦しい様だが、余計な出費を増やす事もまた心苦しい。
真面目で誠実なセシルはしっかり気を遣える男なので問題は無い筈だ。
というかそもそも野宿で寝食を共にしているのだから今更な話でもある。
「じゃあこれで一旦街に出ようか。時間的にあまり動けないだろうけど、適当に軽く見て回るには丁度良いだろう」
もうすぐ夕方。食事をしてしっかり休む事を考えれば長時間は動けない。
しかし明日も散策をする予定だし、その辺りはどうにでもなる話だ。
気の向くまま歩いてみればそれでいい。
とは言ったものの、本当に軽く見て回って食事をして寝ただけなので特に何事も無かった。
なので語る事も無く次の日へ。
朝食を済ませてから一行は改めて街へと繰り出した。
リーンウェルは街1つ丸ごと使った大農場だ。
農耕、牧畜。いくつもの区画に別れて管理されており、それに携わる者が殆ど。
そんな広大な農場がいくつもあるなら、街そのものもそれに合わせた景観になるものだ。
つまり他の街と比べても自然が多く、あえて舗装されない道も多い。
誤解を恐れずに言うならば、地球で言う所の田舎である。
とは言え技術や生活水準に殆ど差は無い。
気軽に外に出れない以上、街其々に違う文化が根付いているのも珍しくない。
なので所謂田舎な環境も、1つの文化でしかないのだ。
異なるからこそ興味を持ち、楽しむ事が出来る。
そう考える人が多いからこそ、シーカーという存在が一般的に扱われる。
それもまた1つの文化、なのかもしれない。
「おぉ~……」
先程から殆ど開きっ放しのシアの口から、何度目かの感心の声が漏れる。
広大な畑に並ぶ作物、沢山の家畜。圧巻の一言だ。
勿論魔法や魔道具で温度や湿度の調整が可能なので、作物の種類も豊富だ。
地球の高度な技術による農場とは、似た様で全く違う。
そんな光景にシアは興奮と興味が尽きないようだ。
「はぇ~……管理された自然ってどうなんだろうって思ってたけど、見てみなきゃ分んないもんだね……」
ルナも同じく口を開けてばかりだ。
自然で生まれ自然で生きる精霊にとっては、この光景にはまた違った感想を抱くものらしい。
「凄いよね。こういう街に皆支えられてるんだよ」
「ハンターが護って、それを周囲が信頼して支える様に。誰だって皆支え合ってるんだ」
セシリアの呟きを聞いたセシルが兄らしく良い事言ってやろうと纏めてくれた。
支え合う。そんな事はきっと誰でも分かっている事だ。
けれど実際に見る事はまた違う。分かった風に言うセシルだって、こうして改めて感じる事もあるだろう。
「こういった街を、人を、護るのがハンター。やっぱり私は……ハンターの誇りは手放せないかな」
リリーナもまた改めて、ハンターとして護るという事を意識している。
きっとセシル同様いつか旅を終えた時が来たら、もう一度護る側に立つだろう。
「うん。こうして見るからこそ、もっと強く護りたいって思えるんだね。こうやって感じる事も……団長達には分かってたのかな」
全てを糧にしてこいと言われたが、まさにこういう事なのだろう。
言ってしまえば、たかが隣街。見ようと思えばいつでも見れた物だ。
それをしなかった事、同じ様な事がこの先も続く事に、セシリアは感慨深く語る。
始まって早々に旅の意味を体感出来た事は、皆にとって良い事だっただろう。
しかしこれで満足してしまってはいけない。
まだまだ街を見始めたばかりだ。見たい物、見るべき物は他にもある。
これだけの生産があり、輸送するなら当然商団も訪れる。
田舎とは言ったが、その賑やかさはかなりの物だ。
昼になり食事も合わせて、そんな賑やかで人の多い場所に向かう。
人の多い産地そのものなのだから当然かもしれないが、とにかく豊富で美味しい料理の数々だ。
そんな場はやはり笑顔溢れる平和な物。一行も朗らかに会話と食事が進んでいく。
しかし、ここには似つかわしくない暗い表情で話す者達が居た。
どうやら何か困っている様で、その話はこちらにも聞こえてしまった。
つい昨日、何かが農場に入り込み作物や家畜を襲ったらしい。
被害は大きくないものの放置は出来ない、という事だ。
そして好奇心旺盛なシアが反応するよりも先に、セシリアとリリーナが動いた。
改めて感じ入った事で、この街の為になる事をしたかったのだろう。
「あの、すみません。話が聞こえたんですけど――」
とりあえずセシルも加わり声を掛け話を聞く。
自分達が元ハンターで実力もそれなりにある事、シーカーとなって見識を広めている事、この街を見て力になりたいと思った事。
包み隠さず話した結果、仕事として調査を引き受ける事となった。
「まぁ一応他にも話は回ってるから、すぐ終わるかもしれないけどな。ともあれ協力は助かる、よろしくな」
当たり前だが既にハンターや警邏隊に話は通っており、こちらの出る幕は無いかもしれない。
それに旅の途中なのだから、1つの事に何日も時間は掛けられない。
それでも動いた。動けるのが彼女達だ。
勿論シアとルナだって、助けになるなら快く協力したい。
仕事になる話に子供が混ざっては不信感を持たせかねないと判断して、黙って後ろに控えていただけだ。
「そんな事ある?」
と言うより、こんなゲームのクエストみたいな事が実際に起こるのかと感心と面白さが勝るらしい。
「何が?」
流石にそんなシアの考えている事なんて分からないルナは、何を言ってるんだろうと聞き返す。
「なんでもない。こういう事もあるんだなーって……出来るなら人助けはしたいもんね」
ゲームだクエストだなんて言ったって理解される筈も無いので、シアはとりあえず誤魔化した。
なんにせよ、そんなクエスト染みた事だって旅の醍醐味と言えるだろう。
報酬でお金を稼げるならシーカーとしても意味のある事だ。
シア達は好奇心で、セシリア達は善意で。
きっと彼女達はこの先も、こうして何かしらに首を突っ込む事になりそうだ。
なにはともあれ、そんな訳で初めてのサブクエスト開始である。




