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第54話 真冬の水着回 2

 そして準備を終え、水練を始めようかとなった頃。

 いい加減我慢が出来なかったのか、シアとルナはさっさとプールに向かってしまった。


「あ、コラ! 勝手に行っちゃダメだってば!」


 引き留めるリリーナの声も空しく、彼女達はそのまま揃って奇声を上げながら飛び込んだ。


「遊びじゃねぇって言ってるのにな……」


「楽しんでくれるのは良いが……ていうか泳げるのか?」


「深いぞ、ここ」


 団長達は呑気に呆れていたが、顔を見合わせて一瞬で焦りに変わった。

 そもそもシアが泳げるのか不明であり、飛び込んだ先は水深3メートル程と深いのだ。


「ちょっ、沈んでる!」


「なにやってんだっ! 俺らは馬鹿か!」


 余りにも自然に楽しそうに飛び込んでいったから判断が遅れたらしい。

 慌てたリリーナの声で駆け付けると、ルナがシアの手を掴んで浮上してきた。


「ぶはぁ!? 深っ……泳げないっ!」


「なんで泳げないのに飛び込むのさっ!? びっくりしたよ!」


 水上でルナに怒られている。一緒に飛び込んで溺れだしたのはとにかく驚いただろう。


 いつだか、この体じゃ溺れるかもなんて自分で考えていた癖にこれである。

 高ぶった気分で忘れて、前世の感覚で行ったのだろう。やはり馬鹿だった。


 尚もバチャバチャ藻掻いているシアを引っ張り、ルナが戻ってきた。


「はー……助かった……げほっ、お゛ぇっ……」


 プールの縁に来たシアをリリーナが引き揚げた。

 溺れた本人含め、全員が安心して溜息を付く。


 ひとまず無事だった事を喜ぶのも束の間、皆からこっぴどくお説教を食らったシアは涙目だ。

 なんとも情けないが自業自得である。


 大人達は失態からの自責が酷い。

 その事への罪悪感もまた強く、必死に謝り続けた。




「予定変更だ。嬢ちゃんにはしっかり泳ぎを教えないと今後が怖い」


「セシリアとリリーナは、シアに付きっきりで教えてやれ。こっちの水練はまた今度だ」


 大人達が自責から立ち直り、仕切り直しとなったが予定は変更。

 泳げない癖に無謀なお馬鹿をそのままには出来ない。


「了解……というか賛成です。私達も不安で仕方ないし」


「シアちゃんには悪いけど、絶対泳げる様にちょっと厳しくいくからね!」


「……はぃ。ごめんなさい……お願いします……」


 彼女達は真剣な表情で答えた。勝手に動かないように座り込んだシアの両手をガッシリ掴んでいる。

 もう首輪でも付けていた方が良いかもしれない。


 未だ涙目なシアは、鼻を啜りながら申し訳無さそうにしている。


「あたしも手伝うよ。今までで一番、シアが馬鹿だって思ったから」


「ごめんなさい……」


 そして珍しくルナまでもが真剣に手伝う事を申し出る。

 ただしシアを見る目は呆れ果てていた。



 その後、セシリアとリリーナも水着姿へと変わり、シアの監視……もとい泳ぎを教え始めた。


 水深3メートル程とはいえ、一部浅い場所もあるので問題は無い。

 飛び込んだのもそこだったなら良かったのに。


 姉達に手伝ってもらって泳ぐ練習をしている少女という平和な光景だが、教えている2人は真剣そのもの。


 シアも流石に真面目に取り組んでいるが、しかしどうにも上手くいかない様子。

 小さく貧弱な体に対し、前世での感覚が邪魔になっているらしい。

 泳ごうとすると全然進まないのだ。


 まぁ逆に泳げていた感覚を知っている以上、時間を掛ければなんとかなるだろう。

 現に浮く程度はすぐに慣れてしまった。


「あ、見て見て! これならいくらでも泳げるよ!」


 と、ここでシアがアルカナでボールを作りだした。

 一抱え程の大きさのそれに掴まり、適当に足を動かして進みだす。

 それでも遅いが体力の消耗は抑えられるだろう。


 鍛練を真面目に頑張っているお陰か、アルカナの制御にはかなり進歩が見られる。

 自分を包んでいないだけで一番使い慣れた形だ。もうこの程度は大した負担も無いだろう。


「わー、便利」


 ルナは呑気に笑いながら、彼女の周りをプカプカ浮いて遊んでいる。


「て、そっちは深いからっ……大丈夫みたいね」


「びっくりするってばぁ……溺れて水が怖くなったりもしてないし、そこは良かったけど……」


 またしても勝手に深い方へと進むシアに2人は慌てた。

 本人は全く意に介さない様子だが、見ている彼女達の心労は酷い物だ。


「えへへ……ごめんなさい」


 ただし心配を掛けている事くらいは理解しており、素直に戻ってきて謝っている。

 緩い顔をしているので反省しているかは分からない。


 そして何を思ったのか、掴まっていたボールを沈めようとし始めた。


「今度はなにしてんの?」


「これの上に乗れるかなって……」


 ルナが聞いてみれば、そういう事らしい。如何にも子供らしい事をしようとしている。


 しかし一抱え程のボールを浮力以上の力で沈めるなんて、彼女には不可能な話であった。


「もっと力入れなきゃ無理だって……ほら、こう!」


 見かねたルナは、強化を使って無理矢理にボールを沈める。


「――あっ」


「ぶへぁっ!?」


 しかし流石にルナのサイズでは厳しかったようだ。手が滑ってすぐに離してしまった。

 そして水中で離されたボールは飛び上がり、シアの顔面を直撃した。


 様子を見ていたセシリアとリリーナは再度驚愕。

 なにせ随分と勢い良く、そして鈍い音と共にシアが吹っ飛んだからだ。


 ボールの様な、と言っても異常に硬い壁だ。

 発展させた柔らかい形を作るには、泳ぎながらでは集中が難しかったのだろう。


「ご、ごめんっ……」


「~~っ!? 痛っったぁ!?」


「だ、大丈夫っ!?」


「すごい音したけど!? ていうか吹っ飛んだよ!?」


 ルナはシアを支えながら治癒魔法をかけ始めた。

 同時に2人も近づいて来る。一体何回驚き慌てさせられるのだろうか。


「とりあえず上がろうか」


 鼻血が垂れ、悶絶中のシアをリリーナが抱いて運んでいく。

 本当に問題しか起こさない少女達である。




 丁度良い時間なのでそのまま休憩となり、軽い食事も済ませ皆のんびりしている。


 思い思いの時間故に、やはりシアは遊びだした。

 今度は一体何を始めたのやら、背を向けてなにやらゴソゴソやっている。


「見て見て! おっぱい!」


 なかなか強烈な物を出してきた。


 アルカナで作った小さなボールを水着の中に押し込んでいるだけなのだが……先程と違ってしっかり柔らかく作ったらしい。


 小さいとは言え地味に2つ同時に作って維持している辺り、制御に関しては本当に成長している。

 無駄に力を使っている負担なんてなんのその。ボールをムニムニと揉んでみせる。


「こらっ、シアちゃんったら」


 男達の前で何をやってるのかと、セシリアが呆れながら叱る。

 意外と恥ずかしがり屋なシアだが、ふざけてる時は羞恥心が無いのだろう。


「……喧嘩売ってる?」


「なんでぇっ!?」


 そして胸を大きく、なんてネタはリリーナの前では許されなかったらしい。

 決して本気ではないが、いつかのお風呂同様にわちゃわちゃと騒ぎだす。


 きゃーきゃー楽しそうだが、男達は気まずそうだ。

 どっかの誰かはまた顔を赤くしている。


「……ん? ちょっ!? シアちゃんっ早く出しなさい!」


「ひゃぁあ!? なになに!?」


 この後なんて叱ろうかと考えていたセシリアだったが、慌ててシアを抑え胸元に手を突っ込んだ。

 急に水着の中へ手が入ってきて、シアは彼女以上に驚き慌てている。


「何じゃないの! 半透明だから見えちゃうでしょっ!」


「――あ゛っ」


 理由は至極単純。ボールが半透明故に角度次第で丸見えなのだ。

 いくら幼くてもそんな状態を男達の前で放置なんて出来る筈も無い。


 言われて気付いた本人は固まり、腕で胸を隠した。

 その隙にボールは奪われたが、真っ赤な彼女は反応しない。


「全くもう……一体何回驚いて慌てなきゃならないの……?」


 セシリアはげんなりしながら言う。幼児に振り回される母親みたいになってきた。


「まぁ、それだけ嬢ちゃんが自然に振舞える様になってんだ。お転婆なのは大変だが、良い事じゃないか」


 遠慮して余計な事ばかり考えていた彼女はもう居ない。

 最早子供そのものではあるが、大人からすれば微笑ましいばかりだ。


 いつも楽しそうに遊び騒ぎ、甘えて、鍛錬を頑張る。

 完全に娘の様に可愛がられる事が当たり前になってしまった。


「ちょいちょい」


「ぅあい、何?」


 未だに固まっているシアをルナが起こした。

 面白い物を見つけたらしく、ニヤニヤ笑っている。


「あれ。どうする?」


 そうして指差した先には、真っ赤な顔のユーリス。

 シアと違ってルナは彼の本心まで察しているので、虐めたくて仕方ないらしい。


 位置的に見えてはいなかっただろうが、水着でじゃれる姿が彼にとっては刺激的だったのかもしれない。

 まさかこんな幼児体型の自分に興奮したのかと思ったシアは冷たい目で眺めた。


「ていっ」


「いてっ」


 セシリアが持ったままのボールを取って、勢い良くユーリスの顔に投げつける。


「えっち」


「――くぁっ!?」


 呆然としている彼を後目に立ち上がり、一言呟くとルナと共に離れていった。

 当の彼は更に赤い顔で言葉にならない息を呑み硬直、大人達は笑いを堪えている。


「あーっまた勝手に!?」


「もうっ! 元気過ぎよ、シアってば」


 またまた何処かに行こうとする2人を追おうと、セシリアとリリーナも立ち上がる。


「こうなったら、一旦思いっきり遊ばせてやれ。泳ぎもそれで進歩するかもしれん」


「安全の為にお前らも一緒にな。最初くらいは良いだろう」


「というか、多分遊べば後で寝る。その後でお前達の水練も軽くやるとしよう」


 どうせ限界まで遊んで寝るだろうから、疲れさせて大人しくさせろという事らしい。

 彼らも彼らで、彼女の扱いに慣れてきたようだ。




 という事で言われた通りの流れとなり、彼女達は普通に遊びだした。


 シアもルナも純粋に楽しんでおり、それに付き合う2人もやはり楽しそうに笑う。

 そしてしばらく経ってしまえば、本当に疲れ果てて眠り始めた。

 相変わらずの体力だが、ある意味扱いやすい。



 その後はセシリア達も本来の水練に参加し、結局皆揃ってクタクタになって帰宅となった。


 今日は特に元気だったけれど、いつもいつもこうして疲れるまで楽しむ毎日だ。

 だけどそんな疲れは誰も気に留めない。


 純粋に楽しむシア達に振り回される周囲もまた、釣られて一緒に楽しむ。

 それが彼女達の日常だ。




 ただし……真冬に疲れ果てるまでプールで遊んだシアは翌日、熱を出して寝込んだ。


 散々周りを振り回した罰だと言いたいが、これもまた周囲を困らせるのである。

 それでも甘えさせて受け入れるのが家族。

 ちゃんと叱りはするが誰も迷惑だとは思わない。


 なんにせよ、とにかく皆の中心で好き放題なお転婆娘の日常は、まだまだ続く。

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