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第53話 真冬の水着回 1

 冬も真っ只中な夜、殆ど貸し切り状態の店にて大勢が賑やかに食事をしていた。


「なぁ……おい、ヴィクター。そろそろどうにかしてくれんか」


 その中で一際目立つ筋肉の塊、マーカスが困惑して呟く。

 久々登場の今日は団長達と飲み会……の筈だった。


「子供には普段逃げられてばかりだから嫌じゃねぇけど……色んな意味でこそばゆくて敵わん」


「贅沢な奴だ。――嬢ちゃん、そういう事だからもう離れてやれ。周りの目も痛いしな」


「はーい……」


 心底微妙そうな顔で眺めていた団長だったが、周囲から向けられる視線に負けた。


 残念そうなシアを持ち上げ運んでいく。

 彼女は何故かマーカスの筋肉をぺたぺた触り続けていたのだ。


 幼い少女が半裸のおっさんにくっついている絵面が酷過ぎた。


「なんでまたアイツに懐くかね。――嬢ちゃん、ちょっと重くなったな」


 懐いた理由は単純。言動がおかしいだけで善人であり、その鍛え上げた肉体と実力を尊敬したからだ。

 変態扱いは変わっていないが。


 団長は溜息と同時に、久々に持ち上げた彼女の成長を体感して呟く。

 未だに若干ムッチリしているが、ちゃんと身長も伸び始めてくれたようだ。


「~~っ!? 太ってない! もー降りるぅ!」


「お、おいこら暴れるなっ……」


 ただし言葉が悪かった。重くなったなんて言われるのは恥ずかしいらしく、赤い顔でジタバタと藻掻いている。


「子供とは言え女の子だって事だ、気を付けなよ」


 それを眺めていたリアーネが微笑みながら小言を飛ばす。


 家族揃って食事に来ていた……というか、団長らの飲み会に混ざりたいと我儘を言ったシアに付いてきた。


「そ、そうか……女の子の成長は難しいな……」


 しみじみ言いながら優しくシアを降ろす。

 色々と不満そうな彼女だが、大人しく皆の元へ戻っていった。


「混ざりたいって、あの人が目当てだったの?」


「ん。だって凄い筋肉だから……普段会わないし良い機会かなって」


 リリーナは彼女の我儘の理由を察したが、相手が相手なのでやはり微妙な反応だ。


「シアちゃんはムキムキな男の人が好きなんだねぇ……」


「かっこいいじゃん。憧れる」


 セシリアも口を開くが、こっちはこっちでズレた反応。

 男に興味は無いが筋肉には憧れるというだけだ。


「変態に近づくのはどうかと思うけど……」


 流石のルナもあの変態に懐くシアを心配している。とにかく絵面が酷いのだ。

 だから皆は揃ってどうにかしろと団長を睨んでいた。


「かっこいい……」


 少し離れた位置のユーリスがボソリと呟き、団長はニヤニヤしながら肩を叩いた。


 シアには色々と酷い目に遭わされているのに、数ヶ月で惚れてしまったらしい。可哀想に。


 まぁ、元気で直向きで距離感の近い少女だ。

 年頃の男子にとっては無理もない……かもしれない。


「俺の筋肉に憧れてくれるのは嬉しいが、珍しい子供も居たもんだ」


「そんな凄いの、どうやって鍛えたの?」


 マーカスの呟きにシアが訊ねた。

 成長にも身体を鍛える事にも悩む彼女からすれば切実な話。


「聞いた所で君には無理だ。小さな女の子に出来る方法も分からんよ」


 彼は団長達からシアの鍛錬について相談を受ける事も多いので、彼女の悩みを察して答えてくれた。

 ただし否定の言葉だったので申し訳無さそうだ。


 ちなみにシアの事情も全て聞いている。それだけ信頼()される人物なのだ。


「むー。どうにかなんないかなぁ……」


 シアは不満そうに口を尖らせている。

 成長したい、鍛えたい、出来れば余分なお肉を落としたい……なんて考えて日々モヤモヤしているらしい。


「まぁ、出来そうな事と言えば……水練くらいじゃないか?」


「……そうか、すっかり忘れていた。学校に通ってないならやるべきだったな」


 それでも何か助言になりそうな事を、とマーカスが教えてくれた。

 水練――つまり泳げという事だ。


 普通は学校で学ぶ事の1つであり、完全に忘れていた事をフェリクスが団長を見ながら言った。


「そうだったな……よし、良い機会だし今度皆でやるか」


「水辺での戦闘もその内学ばなきゃならないしな。これからは多少組み込むか」


「出来るかなぁ……難しそう」


 団長とダリルは揃って肯定。むしろ今後の鍛錬にも組み込んでいくつもりらしい。

 それを聞いたセシリアは不安そうだ。


 なにせ水練とはただ泳ぎを学ぶだけでは無い。

 ハンターともなれば水場で戦う為、もしくは装備を纏って水中を動く為の訓練に変わる。


 街周辺の環境次第で優先順位は変わるが、いずれにしても大切な事でもある。


「……んぇ? 今真冬だよ?」


 泳ぐにしても何処でやるんだとシアが疑問の声を上げる。プールはあるが屋外だ。


 ちなみに彼女は未だに泳いだ事が無い。

 この世界には敵が多いのだから、川や池や湖も安全とは言えない。

 だから山でも精々が浅い川にしか入れていないのだ。


「遊ぶ所じゃねぇが、冬だって出来る場所はあるさ」


 団長曰く、冬でもその為の場所があるそうだ。

 遊ぶ為のプールではなく、ハンターの水練用で別物だ。


「そうなんだ、楽しそう!」


 話を聞いているのかいないのか、呑気なシアはプールを楽しみにしている。


「だから遊ぶ場所じゃないんだってば」


「じゃあ今度シアちゃんの水着を買わなきゃね!」


 そんな様子にリリーナは一応言い聞かせた。聞いてくれたかは分からない。


 セシリアはもう彼女の水着を買う事を考え始めた。

 装備を纏っての水練はシアには早い。まずは1から泳ぐ事を教える為の水着だ。


「うっ……お願いします」


 水着という、これまた性差の大きな物を選んで着る事を考えたシアはなんとも言えない表情。


 女性らしい物か、子供らしい物か。どちらも気が進まない故に悩ましいのだろう。


「ふむ……ユーリス、これくらいならお前も良いだろう。さっき言った様に良い機会だ、混ざれ」


「えっ!? 俺も……えぇ!?」


 そしてユーリスも混ざる事になった。この程度なら団長の考える育成予定からは外れないのだろう。


 しかし当の息子はかなり驚いて焦っている。

 父達に教えて貰える喜びは勿論あるが、気になっている少女が水着で一緒に……という事の方が衝撃なのだろう。


「じゃ、そういう事で……今度詳しく決めて連絡する。準備はしておけよ」


 息子の慌て振りには目もくれず、団長は確定事項として話を終わらせた。


 シアとルナがプールなんて不安しかないが……保護者がしっかりしているので大丈夫だろう。多分。


 ちなみに、ずっと会話に混ざらなかったセシルだが……大人だからと酒を飲み、早々に黙って眠気に耐えていた。どうやらお酒には弱いらしい。




 その数日後、水練当日。

 随分と大きな施設に着き、あちこちに興味を移す誰かさん達を更衣室へ引き摺っていく。

 シア以外はキッチリ服と装備を纏う。あくまで男女共有の訓練の場なのだから、一応下着は避けるのだ。


 更衣室に入ったシアは、あっという間にすっぽんぽんになり水着を着ていく。

 この世界では水着の種類なんて細かく別れないが、地球の呼び方なら彼女の着る物は――まさかのビキニである。

 まぁフリルの付いた子供用の可愛らしいものではあるが。


 悩むシアを見かねてセシリアが強引に決めたのだ。

 しかし選んで貰った物を嫌がる事はしないし、恥ずかしさも既に無い。

 もう泳ぐ事しか考えていないのだろう。


 そしてルナの服もお揃いの水着っぽい物に変わっている。相変わらず便利だ。

 その2人はさっさと更衣室を出ていってしまった。


「ちょ……どんだけ元気なのよ。あっという間に行っちゃったし」


「楽しみなんだろうねぇ。――あーあ、脱いだ服ぐちゃぐちゃ……」


 リリーナは呆れながら見送ったが、顔は笑っている。

 流石にここから迷子になったりはしないだろうから呑気だ。


 セシリアは脱ぎ散らかされた服を纏めようと手を伸ばす。

 服どころか下着さえ放り出されているのだから、世話の掛かる子である。




 で、さっさと行ってしまったシアとルナだが、思った以上に広いプールに驚き興奮している。

 ここが遊ぶ為の場所ではないという事は完全に頭から抜け落ちているらしい。本当に緩い。


 部屋には30メートル四方程のプールが2つ並んでいる。

 水深を調整しての戦闘訓練をする為の浅めの物と、水中を泳ぐ為の深い物だ。


 重さに慣れる為に各々の武器を持つが、振るうのは専用の木製武器だ。

 プールを壊されたら堪ったものではないからだろう。


 シア達は深い方のプールに近づいてパチャパチャと触れている。

 流石に皆が来る前に飛び込んだりはしないようで安心だ。


「早いな嬢ちゃん、もうちょっと待っててくれな」


 男連中が来た。いつも通りガッツリ装備を纏った姿だ。


「気になったから急いじゃった!」


 最早ワクワクを隠す気も無く答えるシア。

 可愛らしい水着も相まって微笑ましいが、大人達は若干不安そうだ。


「その水着はシアちゃんが選んだのかい? 可愛いじゃないか」


「ん……ありがと。セシリアが無理矢理選んだやつだけど……」


 段々と兄らしい接し方になってきているセシルが水着を褒める。

 その面と向かっての誉め言葉にモジモジと照れながら、とてとてと皆の方へ歩いていく。


「なんでソイツは横向いてんの?」


「さぁな……聞いてみたらどうだ?」


 そして隣のルナが、ユーリスだけそっぽを向いている理由を笑いながら訊ねた。

 団長はニヤニヤしながら答える。理由なんてとっくに分かっているのだろう。


「なんでこっち見ないの~?」


「うるせ、なんで見る必要があるんだよ」


 シアもとりあえず煽るが、そっぽを向いたまま軽く流される。

 どうやら彼にはシアの水着姿が眩しいらしい。


「ふふーん……へぇ~……」


 しかし残念ながらシアは、ただ単純に女の子に照れているだけだと思い込んでいる。

 ちんちくりんな自分がそういう対象になるだなんて一切考えていないのだ。


「ねぇねぇ、どう? 可愛い?」


 逆に揶揄う事しか考えていない。見れるなら見てみろと言わんばかりにポーズを取った。

 こんな奴に惚れたユーリスが心底可哀想だ。


「――っ」


 顔を赤くして背中を向ける彼を、相変わらず大人連中はニヤニヤしながら眺めている。

 その視線さえ恥ずかしくて堪らないだろう。


「お待たせしましたー」


「シア、脱いだ服くらいちゃんと纏めなさい」


 そこにセシリアとリリーナが到着。

 そういえば2人の水着はどんなだろう、と呑気なシアは振り返って愕然とした。


「……なんでっ!?」


「「なにが?」」


 シアの驚きに2人は揃って首を傾げる。


「水着じゃないの!?」


「下に着てるけど……」


「え、皆そうなの!?」


 どうやらシアは皆水着になると思っていたらしい。


「そういえば説明してなかったな」


 自分が早過ぎただけで、男連中もこれから着替えると考えていたようだ。


 団長達は説明を忘れていた事に気付いたが、どうせプールが楽しみで聞いちゃいなかっただろう。

 若干不満そうなシアは置いといて、ひとまず全員集まったので準備を進める事になった。

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