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第51話 お風呂再び

「ごめんってばぁ~、そろそろ機嫌直して、ね?」


「そうそう、私達も悪気があった訳じゃないというか、意地悪したかった訳じゃないのよ? だから許してほしいな……ダメ?」


 もうすっかり寒くなってきた、9月のとある夜。

 セシリアとリリーナが困った様に懇願していた。


「む~……」


 片やシアは可愛らしく唸り頬を膨らませている。なにやら拗ねているらしい。


「もう何か妥協出来る事をさせてあげれば? そっちが決めれば収まるんじゃない?」


 若干の呆れを見せながらルナも参加。


「そうだねぇ……じゃあシアちゃん。私がしたい事を一緒にするのが、私への誕生日プレゼントって事にしない?」


「むぅ……まぁ、それでいいよ……」


 実は先月にセシリアの誕生日があったのだが、だいぶ経った昨日ようやく言ったものだからシアが怒ったのだ。


 大切な人の誕生日をスルーした事が嫌だったらしい。

 自分の時と同じくらいなんて無理でも、しっかり祝いたかったのだろう。


 しかし揃って鍛練に仕事にと必死だったし、なによりあの誕生日を経験したシアが重く捉えてしまうと想像出来た。

 だから皆はあえて軽く振舞ったのだ。


「ごめんね、こっちの考えだけを押し付けようとして……」


「私こそ、ごめん……なさい。困らせるつもりなんてなかったのに……」


 どっちが悪いという話でも無いが、ひとまず喧嘩とも言えないちょっとしたすれ違いは1日掛けて解決した。


 そしてしんみりした空気を変えたいのか、セシリアは早速したい事とやらを言い放つ。


「よし、じゃあ久しぶりにお風呂入ろっか! それで一緒に寝よう!」


「え゛っ……」


 とんでもないお願いをされ、シアはビシリと硬直した。

 アレ以来1人での入浴を徹底しているのだ。


 しかし流石にこの流れでは断れない。


「……したい事ってそれ?」


 逃げられないシアに対してだらしない顔でお願いする、そんな姿を見てリリーナが呆れた。


「リリーナも一緒だよ? どうせならリーリアもね」


「私も!?」


 しかも当然の様に巻き込まれていた。かなり嫌そうだ。

 何処とは言わないが、改めて差を突き付けられたく無いのだろう。


「いいから、シアと一緒に。ね!」


 だがしかし半ば強制的に決められた。

 それでも文句は言わない辺り、皆でお風呂という事自体は賛成らしい。


「あたしは良いけど……」


 ついでにお誘いを受けたリーリアもあっさり承諾するが、目線はリアーネに向かった。彼女は前回も1人残ったのだ。


「いや、残念だけど私は遠慮するよ。流石に狭くて無理だ。それに――」


「お願いだから姉さんだけは止めて」


「……これだからな。私だってコンプレックスだって言うのに」


 リアーネは本当に残念そうに答えたが、横からリリーナがキッパリ拒絶した。


 彼女だってエルフとしては一応ギリギリ平均的と言っていいのだが……その平均を大きく超える姉とどうしても比較してしまうらしい。


「ふふっ、やったねぇシア」


「よくない」


 一方ルナはご機嫌だ。またしても恥ずかしがるシアで楽しめるからだろう。

 そのシアは既に顔を赤くしているが、諦めて揃って脱衣所へと向かった。




「シア、恥ずかしいのは多少はマシになった?」


「まぁ多少はね……」


 前回の様に混乱したりはしない。

 気遣ってくれる下着姿のリリーナに対してもなんとか対面出来ている。


「ん? んー……?」


 そんな中、なにやら気になったらしいルナ。

 シアの周りをグルグル飛びながら、上から下までジロジロと見渡す。


「な、なに?」


 今シアはパンツ一丁だ。いくら相手がルナでも流石に恥ずかしい。

 体をギュッと固めて隠したつもりで訊ねた。


「シア、太った?」


「んなっ!?」


 そして一切の遠慮も無く、ルナは口を開いた。


「お尻大きくなった……ていうかなんか、ムッチリしてない?」


「なってない! してない!」


 必死に否定しているが、実際その通りだった。


「まぁ確かに、上半身はまだまだ痩せてるけど下半身が……」


「~~っ」


 リリーナにも言われて思わず脱いだ服で隠した。


「うん、背は伸びてないのに脚太くなったね。あとお尻も」


「う、うるさい! なってないったらなってない!」


 シアの太ももとお尻をペチペチ叩きながらルナが確認。

 勿論自分の体の事くらいは自覚しているけれど、素直に認めたくは無いようだ。


「いやだって、リーリアよりも――」


「もーっ! そうだよ太ったよ! 悪い!? 太ももは太いから太ももって言うんだよ!」


 しかし尚もしつこく追及されて観念した。

 いつのまにかコンプレックスが1つ増えていたらしい。


「背は全然伸びないのに! 何もしてないのに下半身ばっかり!」


「何もしてないからなんじゃ……」


「鍛錬してるじゃん!」


 シアは爆発した勢いのままキレ散らかしている。

 鍛練で運動はしているつもりらしいが……


「最近はずっと弓かアルカナの制御ばっかりじゃん。それでご飯食べて寝て……」


 ルナはバッサリ切り捨てる。

 彼女の言う通り、鍛錬の内容は変わっているのだ。


 弓にしても体は鍛えるべきだが、あくまで現状は弱い弓で感覚を養っているに過ぎない。

 つまり碌に動いていないのに毎食頑張って詰め込んで、たっぷりぐっすり眠っている訳である。


「う……ぐぬぬ……」


 なんにせよ太っ……肉が付いたのは確かだ。

 どうやらシアはその辺りの事はしっかり気にするタイプらしい。


「いや、その歳で太ったは無いでしょ。ただの成長だって」


「そうそう、気にする事じゃないって」


 落ち込んでいるシアを2人が慰める。

 確かにちょっとムッチリしているが、元々が歳不相応に幼く痩せた体だ。

 むしろ健康的と言っていいだろう。


「上に伸びないのに……?」


「あー……うん、そういう事もある……かな?」


「そ、そのうちね! きっと! 大丈夫!」


 成長なんて人其々。それ以上の慰めの言葉が出てこなかった2人は曖昧な言葉で終わらせた。


「うー……リーリアはちゃんと成長してるのに……」


「あたし!?」


 自分に話が向かうとは思ってなかったらしいリーリアは驚いた。

 シアと違って彼女は少しずつ子供から大人へと変わり始めているのだ。


「まぁ確かに、リーリアはしっかり成長してるね」


 未だぺったんこなシアに対し、リーリアはほんのりと膨らみを見せている。


 ルナのあからさまな視線を受けて2人は胸を隠した。

 先程からして本当に遠慮が無いらしい。1度怒られた方が良いだろう。


「わ、私が10歳の頃は……そんな……」


「えぇ……こっちまで……」


 当時の自分と比べたリリーナが絶望した顔で呟いた。

 隣でセシリアが対応に困って引いている。


「さ、さっさと入ろうっと!」


「「どうして……」」


 リーリアは逃げる様にお風呂へと急いだ。

 それを見送った2人は改めて自分の胸に手を置いて沈み込んでいる。


「ていうかいつまで固まってるのさ。早く脱げっ」


「うひゃあ!? なにすんの!?」


 ルナがパンツを引っ張るがなんとかギリギリ耐えた。


「リリーナも早くしないと……」


「自分で脱ぐわ!」


 それを見ていたセシリアはニヤリと笑い、手をワキワキさせる。

 冗談と信じたいが、ひとまずリリーナは無事に逃げ切った。




 ただ服を脱いだだけで随分と賑やかだったが、その後は特に騒ぐ事も無くのんびりとお湯に浸かっている。


 ただし今回シアを抱いているのはセシリアだ。

 更にそのシアの胸元にルナがぷかぷか浮いている。


 ふくよかなモノを枕にぬくぬくとリラックスしていて、色々な意味で気分が良さそうだ。

 それを見るリリーナは、ジトリと何か言いたそうな表情。

 しかし自分から口に出したくないのか、ひたすら黙ったままだ。


 そんな視線を知ってか知らずか、セシリアは呑気に口を開いた。


「それにしても、シアちゃんもしっかり体型を気にしてたんだねぇ」


 成長を望んでいたのは周知の事実。それでも、太っただの胸がどうのと気にするのは意外だったらしい。


 見た目もあってまだまだ小さな子供という印象が強かったのだろう。


「まぁ……ちょっとくらいはね……」


 見た目には気を遣いたいらしい。

 わざわざ太ろうなんて思う筈も無いし、ぺたんこよりはある程度の大きさも欲しいのだ。


「ふーん……成長すると良いねぇ」


 まだまだ揶揄いたいらしいルナは、シアの薄い胸元をツンツン突きながら笑う。


「特別大きくなんて思わないから、リリーナくらいにはなりたいかなぁ」


 しかしそんな悪戯には特に反応を見せなかった。薄い胸板ではその程度何も思わないのだろう。

 思った様な反応が無くてルナは面白く無さそうだ。


「……へぇ?」


 しかし素直に口に出した言葉は、違う所でよろしくない反応を見せた。


「あ゛っ……ちが、そういう意味じゃなくてっ……」


 やたら低い声をボソリと漏らしたリリーナを見て、失言したと悟ったが遅かった。


「そういう意味ってどういう意味かなぁ? ん~?」


「あはは……ほら、同じエルフだし、なんかこう……ねっ。小さくてもいいから、ちょっとくらい欲しいなって――」


 笑顔で詰め寄るリリーナから退こうにも、セシリアに抱かれているので逃げられない。

 しかも弁明しようと口を衝いて出てきたのは更なる失言だった。


「誰がちょっとだコラ! 小さいってなんだー!?」


「ひゃ~っ!?」


 怒った様にシアへ襲い掛かり擽った。

 殆ど悪戯に近い報復で安心したのか、むしろ楽しそうに悲鳴を上げている。


「わぷっ!? ぶへぇっ、がぼぼぼっ……」


 ただし呑気にプカプカ浮いていた小さな元凶は巻き込まれて沈んだ。

 まぁ、散々失礼な言動を繰り返していたのだ。良いお仕置きになるかもしれない。


「わっ、ちょっ!?」


「ひゃぁああ!? ルナ!? どこ触ってっ――」


「この、年下の癖に無駄にデカいモノ晒してっ!」


「なんで私までぇ!?」


「ぷはぁっ、待ってあたし小さいから溺ぼぼぼっ……」


 勢いのまま4人でわちゃわちゃと騒いで大暴れだ。最早お風呂どころではない。


「……あたしは普通がいいなぁ……」


 リーリアは巻き込まれない様に隅っこで小さくなっている。

 バカ騒ぎに呆れながら、微かに膨らみだした胸に手を当てて呟いた。

 大きくても小さくても面倒そうだと感じたのだろう。



 結局この大騒ぎは、シアが疲れてのぼせるまで続いた。


「うー……」


 シアはソファに横になりダウン中。

 だいぶ滅茶苦茶にされたらしいルナも重なって伸びている。


「全く……なんでまたのぼせるんだ? 随分と賑やかだったけど、遊ぶ場所じゃないだろう」


「「ごめんなさい……」」


 そしてセシリアとリリーナは、揃ってリアーネに軽くお説教をされた所だ。

 本来ならそこにシアも居る筈なのだが、のぼせたお陰で回避した。


「とにかく、もう寝てしまいなさい。シアが風邪をひきかねない」


「そ、そうだね……シア、ちょっと早いけどもう寝ようか」


 リリーナはシアを抱き上げる。

 一応セシリアも同じ部屋だが流石に布団は別れる。なのでちゃっかり自分が一緒に寝るつもりなのか、さっさと行ってしまった。


「ちょっと!? シアちゃんと一緒に寝るのは私なんだけど!?」


 慌ててセシリアも追い、リビングはあっという間に静かになった。


「本当に賑やかだな。ま、それはそれとして……そのうち買い物に行こうか」


「わー、そしたらあたしもちょっと大人だ」


 苦笑しながら見送ったリアーネがリーリアの胸を指差して言った。

 少し早いかもしれないが下着を買おうという事らしい。


 成長を素直に喜んでいる妹を見てリアーネは微笑んだ。


「シアは……だいぶ先かな」


 家族を愛するリアーネにとっても、妹の成長は特別嬉しい。


 この先にもまだまだその喜びが待っている。

 だからなのか、未来を想う彼女の表情は柔らかかった。

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