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第50話 剣と矢

 色々と大きな転換になったであろう誕生日が明けた日……は、残念ながらシアは休養となったので特に語る事も無く過ぎ、更に次の日。昼。


 まだ痛みはあるが、普通に動ける様になったシアはルナと一緒にギルドを目指してトボトボ歩いていた。

 貰った魔道具の確認をしたいが、自分で試す程には回復していないからだ。


 セシリアとリリーナは仕事に行ってしまったし、お寝坊なシアが起きる頃にはリーリアも何処かへ行ってしまっていた。


 仕事中のリアーネに構ってもらうのも悪く思ったのだろうが、そもそもギルドが職場なのだという意識は何処かに落としてきたようだ。


 しかし幸いにも周囲からは最早お馴染みと認識されており、挨拶だけで団長室に通してくれた。



「鍛錬の無い日も来るとはな……来ても良いとは言ったが」


「俺は構わないぞ。なんせその魔道具は気になって仕方がない」


 そんな彼女達を団長とダリルが迎える。残念ながらフェリクスは不在だ。

 仕事をする時間が減っている分、こうして外に出ない仕事もなんとか回しているらしい。


 そんな所に突入しては迷惑にしかならないと思うのだが……やはり甘やかされている。


「そりゃあ俺も気になってるが……まぁいいか」


 一応は団長として何か言おうとしたが止めた。

 どうやら彼もまた新しい武器には興味津々らしい。


「んじゃ仕事は置いといて、とりあえず鍛錬場行くか」


 すっかりその気になっているダリルは仕事を放置する事にした。


 流石にどうかと思うが、頑張れば後からどうにかなるのだろう。

 いくらなんでもそれくらいの判断は出来る筈だ。


「おし、じゃあ行くぞ2人共」


 そう言って団長とダリルは部屋を出て行く。


「勝手に来た私が言うのもアレだけど、いいのかな……」


「仕事ってそんな物なの……?」


 今更になって諸々の状況を理解したシアとルナは、なんとも言えない表情で付いて行った。


「あれ!? ちょっと団長仕事は!?」


 鍛錬場に向かう道すがら、スミアに見つかり驚かれる。

 釣られて周囲の人達から注目を浴びるが、団長とダリルは全く気にしていない。


「後だ後。休憩だよ」


「仕事なんていつでも出来るだろ。そういう事でじゃあな」


「はー!? 言いましたね、その言葉覚えておきますよ!」


 今後自分がサボる時の言い訳に彼らの言葉を流用するつもりらしい。強かな人だ。

 後ろに続くシアとルナは苦笑いするしかない。




 そうしてお馴染みの鍛錬場に着き、さあ始めようとなった時。

 シアは意気揚々と前に出た。


「見て見て! ルナも見て!」


 眩しく笑いながらそう言うと、くるりと回ってワンピースと髪を翻す。

 同時に半透明の剣を生成して掲げ、ポーズを取った。


「じゃーん!」


 なぜ回転してポーズまで取るのかは謎だが、それだけ高揚しているのだろう。


「おー! カッコイイよ!」


 意味は分からないが楽しそうだったのでルナが囃し立てた。


 団長とダリルも微笑んでいる。

 玩具に喜ぶ子供の様で、微笑ましいと言えばそうなのだが……持っているのは戦いの道具である。


「あ、でも武器でこんなのダメだよね……ごめんなさい!」


 その事にはすぐに気付いたのか、シアは慌てて姿勢を正して謝った。


「気にすんな、武器にワクワクするのは割と普通だ」


「そうだな。見た目に拘ったり、芸術品になったり、感じるモノは人其々だ」


 そんなシアに対し、2人は柔らかい表情のまま語る。


「俺だって色んな武器を見て触るのが好きだ。大事な事さえ分かっていればいいのさ」


「命を奪う物ではあるが、それだけの物でもない。今気付けた様に、それを忘れなければ大丈夫だ」


 という事らしい。

 その武器を持つ事の本質、それさえ理解していれば殊更に意識し続ける必要も無い。

 学びを得たシアはしっかりと頷いた。


「まぁせっかく出したが、剣は後だ。先に矢を試そうか」


 団長が弓を取りに歩く。剣は1度軽く見ているからか、まずは矢の試し撃ちをしたいらしい。


 言われてシアは剣を消し矢を作った。やはり魔道具のお陰でかなりスムーズだ。


「ふむ、これは――っやはり、こうなったか」


 渡された矢を流れる様に放つが、矢は嫌な音を立てて明後日の方向へ弾け飛んだ。


「あれ!? どうしたの……?」


 シアとルナは揃ってビクリと体を震わせた。

 残念な結果になったので驚いて訊ねる。


「なるほどな。これじゃ飛ばない訳だ」


「なになに?」


 矢を拾ってきたダリルは納得した様に言う。

 シア同様、さっぱり分からないルナも気になっているようだ。


「矢羽までガチガチに硬いから、弓に干渉して吹っ飛んだんだ」


「あっ、そっか……羽は柔らかい筈だもんね」


 矢を見せ、羽を指で叩きながら説明する。

 よく考えれば当然の事であった。矢羽は3枚、どう番えても弓に当たってしまう。


「うーむ……リアーネを呼んでみるか」


 団長が渋い顔で唸る。来るかどうかは分からないが、問題の報告だけでも意味はあるだろう。


「もう1つ問題がある。矢が硬過ぎて一切のしなりが無い」


「それって駄目なの?」


 その団長を横目に、ダリルはもう1つの問題を語り出した。

 硬い事が問題と言われてもシアには分からない。


「本来、矢ってのはたわんで飛ぶんだ。だから弓の左右に番えても中心に戻る様に飛ぶ」


 ダリルは弓矢と手を使って、グネグネと左右に動かし説明する。


 地球ではアーチャーのパラドックスと言われるものだ。

 斜めに番えた矢は、当てたい位置から外して狙わなければならない事からそう呼ばれる。


「矢が硬いと、番えた方向へズレたまま飛んでいってしまうんだ。つまり狙った位置になんてまず当たらない」


 硬くしならない矢は中心に戻ろうとはせず、大きく外れていく。

 矢にも種類があって、誰もが自分の弓に合わせた矢を持つのだ。


 しかしこっちの問題には解決法がある。


「だがこれはある意味良い事でもある。最初から弓の中央……弦と一致した角度で放てばいいだけだ」


 恐らくはシアの知識にある地球の弓――アーチェリー等に使われる弓の様に中心を通せば良いのだ。

 そうすれば硬い矢は逆に安定して飛ぶだろう。しかも狙いやすくなるオマケ付きだ。


「そういう弓も矢もいくらでもあるからな。あくまでこの弓には合わないってだけだ」


 そしてそういった形の弓はこの世界でも普通に存在しているようだ。

 ただしコンパウンドボウ等は無さそうである。


 なにせ身体強化でいくらでも強い弓が引けるし、素材が違う故にそれに耐え得る強固な物が作れる。


 更には実戦しか考えないのだから、出来るだけ手入れも楽で耐久を重視したシンプルな構造を好むだろう。



「そっちは弓を変えれば解決する話だ。だが矢羽はどうにかしなきゃならん」


 話している間にリアーネへの連絡を済ませたのか、団長が会話に戻ってきた。


「どうにか矢羽だけを柔らかく出来る様に、リアーネに調整して貰わなければな」


「羽なんて無くしちゃえば?」


 困った様に言う団長に、ルナが如何にも単純な事を聞く。


「そういう矢もあるらしいが、安定して飛ばないなら実戦じゃ要らん」


「ただ羽を取っただけじゃなく、何かしらの加工は必要な筈だ。それでも安定しないから全く流通してないんだよ」


 当然だがそんな単純な話では無かった。

 と言うよりも、そんな単純な事はとっくに誰かが試している。


 その上で流通しないなら、それは実用に至らないという事に他ならない。


「へ~、意外と複雑なんだね……」


 武器1つ取っても、ルナには考えの及ばない思考と試行を繰り返してきたのだ。

 それを垣間見た彼女からは、感嘆の声が上がった。




 その後、剣の方を確認し終わった頃にリアーネが駆け込んできた。仕事はいいのだろうか……

 しかしせっかく来てくれたのに残念だが、異常に硬い矢羽の改善は彼女には不可能だった。


 そもそもシアの力を変形させる魔道具なのだから、シア自身が柔らかい物質を作れなければどうしようもない。


 なのでそれが分かっただけでも良しとして、今後時間を掛けて頭を捻っていく事になった。

 せっかく手に入れた自分の新たな可能性……それを活かす為に更に可能性を追求しなければならないのだから、シアはかなり真剣に悩み始めた。


 それこそ家に帰っても……何日経ってもその事だけを考え続けた。




 そしてああでもないこうでもないと悩み、周囲から意見を聞き、思考と実験を繰り返す事数週間……ついにアルカナの新たな段階へ至る。


 かなりの集中が必要なものの、柔らかい物質の生成を実現させた。


 自力で使うには正直な所、微妙に使い勝手が悪いが明確な進歩だ。

 そしてリアーネによってそれを魔道具へ組み込む事にも成功し、細く薄く整え矢羽の調整が完了した。


 しかも副産物として、魔道具から糸状のアルカナ――つまり物凄く頑丈なワイヤーを生成する事も出来る様になった。

 羽を形作れるなら糸状にする事も出来るだろう、とリアーネが思いついたらしい。


 こちらは使い勝手が良いどころではない素晴らしい物ではあるが、良い使い方をシアが考えられるかは別である。



 なんにせよ矢は完成となり、合わせて弓も新しく用意された。

 力の使い方、体の動かし方、剣と弓の扱い方、そして一応の体力。


 幼い少女がするには異常な鍛錬だが、誰もが真剣に彼女を見て教えていた。

 そして彼女自身もまた、ぶーぶー言いながらも必死に取り組んだ。


 そのお陰で、しばらく経った頃にはメキメキと成長……なんてする筈も無かった。

 やはり身体が幼く貧弱では効率が悪いらしい。


 とにかく時間を掛けて、体の成長に合わせていくしかない。

 その事にまたもやショックでギャーギャー喚いたが、どうしようもないのでしょんぼり受け入れた。


 そして周囲の人は温かい目で彼女を見守り、自分達も成長するのだと志高く日々を過ごしていくのだった。

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