第49話 あの時ルナは…… 2
その後無事にリーリアの分のプレゼントも買う事が出来た。
さっさと家に戻って、何か他に準備する事があるならやらないとね。
ちょっとその辺の食べ物とか気になるけど、その為のお金じゃないんだし我慢我慢。
家に着いたのはちょっとだけお昼を過ぎた頃。
シアが帰って来るのは夕方らしいし、時間は充分だね。
「ただいまー」
「ただいま、お姉ちゃん」
「おや、良いタイミングで帰ってきたね。丁度お昼ご飯が出来たとこだ」
やったね。こっちもこっちで運がいい。
精霊はご飯なんて正直要らないんだけど、美味しい物を食べるのは幸せだ。
誰かと――家族と一緒なら尚更ね。
「ルナ、一旦プレゼントは置いとこうか」
「そだね」
買ってきた物をテーブルに置いてからリーリアと手を洗う。
どうも人は家に帰ると手を洗うらしい。
ちょっと出かけてたくらいじゃ汚れなんて見えないのに不思議だ。
雑菌がどうとか衛生がどうとか、なんか色々あるみたいだけどよく分かんない。
手だけでいいのかな。いいんだろうな。
とりあえず真似してるけど、多分精霊って病気とか無いと思う。
「で、良い物は買えたかな? お金はだいぶ使ったみたいだけど……」
「あぅ……それは、そのぉ……ルナのプレゼントが……」
「え、あれはかなり安くなったんでしょ? 問題無いって」
ある程度食事が進んだ頃、リアーネが傍のプレゼントやお金を見て言う。
そしたらリーリアがしどろもどろになったけど、あたしのは問題無い筈。
「一体何を買ったんだか。あぁ、なるほど随分と高そうな……逆に良く2つも買えたね、これ」
そのままリアーネがプレゼントを確認。
ふふん、驚かれるくらい凄い買い物が出来たって事だね、流石あたし。値段はもう覚えてないけど。
「いくらだっけ?」
「もう忘れちゃったの……? 1つで2万コール以上だったのに、2つで1万コールだよ」
そうそう、なんかそんな感じだった……様な気がする。
「は? なんて?」
「1つで2万で、2つで1万だってさ」
リアーネはよく分かってないみたい。もう一度あたしも同じ事を繰り返して伝えてあげる。
これって4万が1万になったんだよね。全然違うじゃんね、おっちゃんは気前が良いな。
「あぁ、うん……え?」
「お姉ちゃんが壊れた……」
「いや、え? なんでそんな破格どころじゃない買い物になったんだ?」
まだよく分かってないらしくてボケっとしてる。目が点になるってこういう事なんだね。
「なんか、あたしが買ったら謳い文句が出来てどうたらこうたら、って」
「後からもう1つ強請って、なんとか買えたんだよ……あたし胃が痛くなっちゃった」
「それは……良いのかな」
「言っとくけど、向こうが決めた事だからね」
よく分かんないけど大丈夫だよ。多分
「そうか……まぁ、しかし装飾が無いのは寂しいな」
「そうだねぇ。ちょっと気になるけど、その宝石がビビっと来たんだよ」
うん、ただの石だけじゃ面白くないんだよね。
でもその綺麗な色の宝石は他に無かったんだ。
「よし、私がついでにこれも弄ってあげよう」
「え? 弄るってどういう事?」
「簡単な装飾くらいは私でも出来るって事。私のプレゼントも似た様な作業だから、そのついでだ」
正直諦めてたけど、リアーネが装飾してくれるらしい。
そんな事まで出来るなんて凄い……けど時間は大丈夫なのかな。
「それは嬉しいけど、そっちの作業が――」
「どうにかしてみせるさ。私に出来る事なら精一杯ね」
リアーネは言い切った。凄く真面目な顔、やってやるぞって感じ。
この人もシアの事を本当に想ってくれてるって、あたしには分かる。
ううん、皆もそう。真剣にシアを想って考えて動いてる。
こんな人達に囲まれて……祝われるのはあたしじゃないのに、何故かあたしが幸せに感じる。
今日は、あたしにとっても大事な日――なのかな。
そして気付けば夕方、大人達が集まってきた。
皆が沢山の美味しそうな物を持ってきて、知らない人が料理まで始めた。
あたしは流石に食べ物には手が出せない。
料理なんて知らないし、下手な事は出来ないもんね。
というか、あたし全部眺めてるだけじゃん。
悔しいけど、分からないまま何かやらかすよりは絶対マシだから我慢しよう。
早くシア帰ってこないかなぁ……
『よしっ、出来たぞ! ギリギリか!?』
『おぉ、リアーネか。まだ大丈夫だ、少し遅れる筈だからな』
『凄いな、こんなに作ったのか……この宝石は?』
『それはルナのプレゼントだ。物は良いのに簡素だったから装飾した』
『……よくこれだけやって間に合ったな』
『どれも既製品の流用みたいな物だし、そこまでじゃない』
『それでも凄いよ、流石だねリアーネ』
『ふふっ、私に出来る事でシアの為になるなら全力にもなるよ』
『それは良いが、気負い過ぎるなよ』
『大丈夫だよ。というか予定より遅れるって、何かあったの?』
『……あー、いや、シアがちょっと、疲れて寝ちゃってて……』
『嬢ちゃんは弓の扱いには才能がありそうだった……んだが、好きにやらせてたら全力で続けちまったみたいでな……』
『何してるんだ? お祝いだって言うのに主役をまた寝込ませるなんて……』
いやほんとに何してんの!?
話は聞こえてたけど、ほんとに馬鹿だアイツ!
お前の為に皆がこんなにしてくれてるのに、なんで疲れて寝てんの!?
『面目ない、まさか嫌がっていた強化を無理して使ってまで続けるとは思わなかったんだ……』
『とりあえずただの疲労だし、昼から寝かせてるから多分大丈夫だろう』
『まぁ後から外野があれこれ言ったって仕方ないし、大丈夫そうなら良いんだけど……なんだかなぁ』
『多分、お前と同じだ。自分に出来る事ならって、精一杯やろうとしてるだけなんだろう』
『そう言われると何も言えないよ……いや言うわ。それをどうにか制御して支えてやるのが大人だろうに』
『それこそ、そう言われると何も言えねぇわ……』
あぁ、そっか。やっと自分に出来る事を新しく見つけたんだ。
ずっと悩んできたもんね……そんなのシアなら必死にのめり込むよね。
良かったね、シア。
準備してるこっちからしたら良くないけどね。
そして準備は進んでしばらく経った頃、シア達が帰ってきた。
最初にリリーナが来て、出迎えよろしくって言って戻っていった。
出迎えって何?
どうすればいいのか分かんないけど、とりあえず皆のやる事を見てからでいいか。
「ただいまー!」
「「「「「誕生日おめでとう!!」」」」」
勢いよく家に入ってきたと思ったら、皆で一斉におめでとう。
なるほど出迎えってこういう事か。あたし言えてないんだけど……
「「10歳の誕生日、おめでとう」」
セシリアとリリーナが遅れて、シアの隣で同じ様におめでとう。
あ、あたしも言わなきゃ。なんか恥ずかしい……
「シア、おめでとう」
ボケっとしてるシアの前まで飛んでいって、とりあえずおめでとう。
おめでとうって何なのか分かんなくなってきた。
ていうか反応が無い。
せっかくあたしが謎に恥ずかしい思いで言ったのに、聞こえてなかったら怒るぞ。
そのまま反応どころか、動こうともしないから抱いて運ばれて行った。
大丈夫かな……機能停止してるけど。疲れて意識飛んでるんじゃないかな。
なんて思ってたけど、シアの様子を見たらすぐ分かるべきだった。
シアが泣いた。
真っ赤な顔で鼻水を垂らして、大声で馬鹿みたいに泣きじゃくった。
こんなの見た事無い。想像もしなかった。
保護された時にも泣いてたけど、あの時とは全然違う。
胸が痛い。眼が熱い。なんだこれ。
なんで……あたしまで泣いてるんだろう。
苦しい。切ない。こんなの知らない。
遣る瀬無くて、めちゃくちゃで、堪らなくなってシアに抱き着いて泣いた。
大切な人を想って泣くって、こういう事なんだろうな……
そんな衝撃的な日が終わって、次の日。
主役の癖に早々に寝た奴が起きたらしい。
「ぬぁぁああ~っ……」
なんか情けない声が聞こえる。
「ぬぉぉおお~っ……」
人が隣で寝てるのに何を呻いてるんだ。
「んぅ……うるさいな……」
まだ朝になったばっかりじゃん……こんな時間に起こさないでよ。
「体痛い……たすけてぇ……」
「頑張れー。あたしはまだ寝る……」
知るか馬鹿、自業自得だ馬鹿。
全く、昨日あんなに色々あったのに……全部吹き飛んでいつも通りじゃないか。
それはそれでいいけど、なんかなぁ……
昨日、泣き止んだ後も色々あった。プレゼントとかね。
あのペンダントはもう離さない。ずっと一緒だ。
なんだかニヤニヤしちゃう。嬉しい。
自分で買った(?)物なのに、なんでだろう。不思議だ。
起こされたけど二度寝しよう。今はまだもうちょっとだけ、夢に戻させて。
後でまた、いつも通りに戻るから。
いつも起きるくらいの時間になって二度寝から目が覚めた。
呻いて人を起こした癖に、くーすか気持ち良さそうに寝てるシアを叩き起こしてリビングへ向かう。
「いたっ痛いってば、ルナぁ……」
「また無茶した罰、自業自得だよ」
シアの気持ちを考えれば仕方ないとは思うけどさ。
それはそれとしてまた無茶したお仕置きでたっぷり弄ってやる。
「うぅ……だってぇ……」
シアもペンダントを付けてる。それがなんだか嬉しい。
あたしと同じ様に想ってくれてるなら、それもやっぱり幸せかな。
そうして朝食の準備。なんか珍しくシアに手伝いをさせるって話になってた。
皆も何かしら気持ちが切り替わったみたいだし、そういう事なんだろうな。
あたしが言うのもおかしいけど……皆過保護だったと言うか、あまりにも特別扱いだったと言うか。
普通の家族なんてあたしは知らないけど……街に来て、人を知ろうとずっと意識してきたあたしには分かる。
なんだかんだ、良い感じに収まったみたいで良かった。
なんて、そのまま終われば良かったんだけどなぁ……
せっかく2人で手伝いしようと思ったのに、まともに動けてないじゃん。
だったらあたしも手伝いは止め。
ごめんね皆、あたしもちゃんと家族だって思ってるからさ。
家族として1歩踏み出す時は、シアと一緒がいいんだ。
この街に来て何日だったか忘れたけど、なんだか色々な事があった。
人も多くて、山に居た時とは全然違う。
濃密過ぎるけど、何もかも分からない事ばかりだけど、凄く楽しい。
色々あって色々変わって、今日はまた一段と特別に感じる。
こんな日がずっと、ずっと続けばいいな。
ね、シア。
ちなみに……数日後に街をふらふらしてたら、あのお店を見かけたから改めてお礼を言いに行ったんだけど。
どうやら宣伝とやらが上手くいったみたい。
実際にあたしが宝石ぶら下げて街をふらついてるから、だってさ。
だから普通に儲かってるらしくて、逆にお礼を言われちゃった。
そんな馬鹿な。




