第46話 夢見る願い 3
また落ち着くまで少し時間が経って、食事の前に皆で写真を撮る事になった。
小型化させる優先度が低いのか一般には普及してないけど、写真を撮る仕事があるから撮影自体は割と一般的。昔も家族で撮ったし。
そしてリアーネさんは技師らしく持ってるらしい。
「写真……てのはよく分かんないけど、とりあえず集まればいいんだ?」
当然ルナは写真なんて分かってない。それでも周りに合わせて集まってくる。
「よし、じゃあこれで……」
写真機を弄ってたリアーネさんも皆に混ざって、数秒後にバチンと軽い音がした。タイマーあるんだ……
私はルナを抱いて、両隣にセシリアとリリーナ。
そして私を中心に集まった皆。
きっとこれは一生の想い出になる大切な1枚。今度こそ無くさない。
ちゃんと……笑えたかな。
なんて、あっさり撮影が終わった直後にお腹から音が鳴った。
全員が黙っていた所に響いた恥ずかしさは凄い。一瞬で顔が熱くなるのが分かった。
「ふふっ、シアちゃんお腹空いちゃった?」
「お昼食べてないもんね」
そういえばご飯も食べずに寝ちゃったんだった。
という事で皆でワイワイと食事が始まる。
全員好きな様に動いてるけど、テーブルに着ける人数じゃないから仕方ない。
相変わらず傍にはセシリアとリリーナが居て、ルナはちょこちょこと色んな所で色んな物を摘んでる。
特別な場のお陰もあるけど、どれも美味しい。
お腹が満たされていくのと同時に……心に何か、温かいものが満ち溢れていく。
「シア、ちょっといいか? 挨拶が遅れてしまったが、紹介したい」
「あ、うん。というか私も挨拶しなきゃって思ってて……」
そうしているとフェリクスさんが知らない人と一緒に近づいてきた。多分奥さん。
「私のお母さんだよ。今まで機会が無くて紹介出来なかったけど」
「どうも~、シアちゃんで良いかな? 私はシャーリィ。今言った通り、セシリアの母よ」
やっぱり予想通り。まぁ良く似てるもんね。凄く柔らかい雰囲気の人だ。
「はじめまして。えっと、セシリアには……いや、フェリクスさんとセシルさんにも、いつもお世話に――」
「もー、硬い硬い。そんなに畏まらなくていいってば。……ね?」
とりあえずしっかり挨拶を、と思ったのに頭を撫でて遮られた。
ふわりと優しく、昔お母さんにされたのと同じ様に――むしろ同じ母親だからか、それだけで何も言えなくなった。
「話は聞いてたけど、これなら最初から関わっておくべきだったかな……本当に良い子ね」
「環境に慣れたらって考えてたのに、色々あったからな」
優しく何度も撫でながらシャーリィさんが微笑む。
確かに色々あったし、今日は良い機会だったんだろうね。
「なんとか無理してでもウチで引き取っちゃえば良かったのに……いっそ今からでもウチに来ない?」
「ぅえっ?」
気持ちよく撫でられてたら、とんでもない事を言い出した。
軽い口調だから冗談って分かるけど……ていうか逆に何でそっちの家じゃなかったんだろう。
「気軽に言うな。部屋も無いし、家事を全部してもらっているのに負担を増やせんだろう」
「稼ぐのはあなた達に任せてるし、子供達も充分成長したし、大した負担じゃないわよ。こんなに良い子なら余計に」
「本気で言ってる? 揃って浪費癖があるのにそんな余裕無いでしょ」
夫婦の会話にセシリアが辛辣な言葉を挟んだ。
ハンター3人なら合計でかなりの収入になるだろうに。
それで余裕が無いのはちょっと、改めた方が良いんじゃ……
「ひたすら貯め込んだって仕方ないから使うだけで、必要な分は残してるだろう」
「そうそう、お金は使う物だもの。ちゃんと考えた上で使ってるのよ?」
という事らしい。意外と豪胆な一家だった。
「ならちょっとくらい私にも回してくれれば……シアちゃんの事で色々使えるのに」
「あら、リアーネにはそれなりの額を渡してるわよ? 親としては放って置ける筈が無いでしょう。というか団長さんもダリルさんも――」
「えっ、そうなの!?」
「知らない知らない。姉さんもそういう話はしないから……」
シャーリィさんの言葉を遮って、セシリアが驚きながらリリーナを見る……けど、同じく知らなかったみたい。
やっぱりお金に関しては大人達だけでやり取りしてたんだね。有難い話だ。
「おい、それはわざわざ言う事じゃないって話しただろう」
「あれ、そうだっけ?」
お金なんて生々しい話に子供達を巻き込みたくないってのは想像出来る。
ほんわかした雰囲気の通り、口を滑らせたんだろうな。
「あの、ありがとうございます。知らない所でそんなお世話になってたなんて――」
「ほら、この子は妙に聡いんだ。金を出していたなんて知ったら遠慮しちまう」
とにかくお礼を言おうとしたらまた遮られた。しっかり私の分析がされてる……
「あぁ、そっか……でも、重く捉えないでね。大人が子供の為に、なんて当たり前の事。関係無いなんて思わないで受け入れてほしいかな」
見ず知らずの子供にそう言えるのは当たり前じゃないと思うけど。
やっぱりセシリアのお母さんなんだな。
「うん、大丈夫。それが皆幸せだって分かってるよ。ありがとう」
やたらと遠慮したって誰も喜ばないのはもう分かってる。
そんなのは誰も望んでないんだから素直に受け取るべきなんだろう。
いや、直接お金を受け取ってるのは私じゃないけど。
ていうかなんか、自然と砕けた口調になってしまう。これがお母さんパワーか?
「もー、可愛いなぁ! やっぱりウチに来ない?」
「むぎゅ」
この包容力は抗えそうにない……セシリア達と何が違うんだろう。母親って不思議だ。
「ちょっ、ダメですよ!? もうシアはウチの子なんですから!」
リリーナが慌ててる。気持ちを疑った事なんて全く無いけど、ハッキリ言われるとやっぱり嬉しい。
「分かってるって、半分冗談だから」
そう言ってシャーリィさんは離れた。半分は本気で言ってたんだね……
「さて、挨拶は出来たし……初対面の大人が傍に居たって気が休まらないだろうから戻ろうかな。精霊ちゃんにも挨拶しなきゃだし」
「ま、お前達はそのまま楽しんでろ」
そのまま料理をちまちま摘まんで楽しんでるルナに向かう。フェリクスさんも笑いながら一緒に歩いて行った。
「もう、お母さんったら……」
「ふふっ、良いお母さんとお父さんだね……」
なんとも微妙そうな表情。親子ってやっぱりそんな感じだよね。
羨ましいなんて気持ちは無い――とは言い切れないけど、そんな事は考えちゃダメだ。
「うん……そうだね」
私の考えてる事を察したのか、セシリアはそれだけ言って私に寄って頭を撫でてくる。
もう何回も撫でられまくって、いい加減恥ずかしくなってきた。
「あー、話は終わったか? 一応俺も挨拶くらいはしておこうと思ったんだけど……」
と、そこにユーリスが声を掛けてくる。
そういえば居たな……もうちょっとタイミング考えてよ。
まだ知り合ったばかりなのに来てくれた事は嬉しいけどさ。
「誰?」
でもまぁ、とりあえず揶揄うのが挨拶みたいなもんだろう。コイツには。
「祝いに来てやったのに一言目がそれかよっ」
「えへへ……素直にお礼言うのも違うかなって」
やっぱり怒るでもなく合わせてくれた。良い奴だ。
「ったく、あっちでも精霊に色々言われたし、お前らはホント……」
「プレゼントとか無いの?」
どうやら既にルナから揶揄われていたらしい。
じゃあついでにもう一回揶揄ってやろう。
「ある訳無いだろ! あ、いや……言われたのが今朝だったから、ちょっと無理だったんだ。親父め、こんな大事な事を急に言いやがって……」
ガーって言い返してきたと思ったら、急にシュンとして理由を説明しだした。不安定な奴だ。
「へぇ~、大事な事って思ってくれてたんだ?」
「うるせぇ、誕生日って意味だけじゃない事くらい分かってるっての」
ちょっと予想外の言葉が聞こえたからニヤニヤ揶揄ってやれば、ちょっと顔を赤くして反応する。
そういえば私の事情も聞いたんだっけか。コイツなりに色々考えてくれたんだね。
なんか、やっぱり本当に良い奴なんだな。
「そかそか。やっぱ嬉しいね、こんなに沢山の人に祝われるのって。ほんとありがとね」
揶揄うのは一旦止めて、改めて真面目にお礼を言う。
皆がそうして私の事を想ってくれたのが分かるから、自然と笑顔になれた。
「ふん……」
そしたらもっと顔を赤くして何も言わなくなった。
そういえば昨日もこんな感じだった気がする。なるほど、コイツ女の子に免疫無いな?
「せっかくお礼言ってるんだからなんか反応してよー」
なんにせよ良いネタ発見だ。これからも揶揄ってやろう。
とりあえずもっと面白い反応が見たいから、頬を膨らませて様子を見てみる。
「祝う以外に言う事なんてねーよ。もう親父んとこに戻るから、じゃあな」
「ありゃ……行っちゃった」
なのに勝手に言いたい事だけ言ってさっさと戻ってしまった。ほんとに挨拶だけかい。
「ふふっ、シアちゃんも結構女の子してるねぇ」
「んぇ?」
「何? そういう事なの?」
横からニヤニヤと2人がつっついてきた。
なるほど、私の態度はそう見える訳か……ちょっと気を付けよう。
「そういう勘違いは面白くないからヤダ。2人が思ってる様な事じゃないよ」
なんか期待してるけど、残念ながら私にそんな気は一切無い。
やっぱり精神的には男の部分が大きいし、体が幼過ぎる所為か考える気にもならない。
「あらら……そうなんだ」
「ごめんごめん。照れもせずにそんなにハッキリ言うんじゃ、そうなんだろうね」
まぁお陰で要らない勘違いをされるのは嫌だって改めて分かったけども。
でもなんかユーリスに悪い気がするから、フォローくらいはしておこうかな。
「面白いし、本当に良い奴だってちゃんと分かってるよ。きっと将来はモテモテだね、周りの女の人は放っておかないと思うよ」
団長さんの息子なりに逞しい男になるだろう。あそこまで筋肉モリモリになるかは分からないけども。
直向きに強くなろうとしているし、あの性格の良さだ。
元男の目線で見てもそう思える。
「全く、お子ちゃまが何を分かった風に言ってるんだか」
「ひゃぁ~っ」
偉そうな事を言った私の頭をリリーナがわしゃわしゃしてくる。
それ気に入ったのかな……なんとなく今までより距離が縮まったような感覚だ。
一緒になって笑っていればルナも戻ってきて、尚更賑やかになった。
ひたすら楽しい時間。こんなにも沢山の人達が、私の為に集まってくれた。
あれだけ泣いた事には誰も触れない。
変に気を遣ったりもしないで、いつも通りに笑ってくれる。
それがただただ嬉しくて、楽しくて、幸せだと感じた。
だけどそんな時間だって終わりが来る。というよりも、私の体力の限界。
疲れ切った体で馬鹿みたいに大泣きしたからか、お腹が満たされて眠くなる。
沢山の人達に囲まれて、温かい人達の傍で、柔らかいソファの上で。
抗えない眠気に流されるままゆっくりと、最高に気持ちいい幸せな眠りに落ちた。
夢を見る。
すごくすごく幸せな夢。
切なくも悲しくもない、温かくて楽しい夢。
大好きな人達と一緒に居る、なんてことないただの日常。
ずっと先まで、ずっと望んでいたい物。
新しい、最高の……私の世界。
そして夢に思う。
この私の世界をいつか、いつの日か。
不思議と危険に溢れた外の世界へと――大きく広げるんだ。




