第45話 夢見る願い 2
どれくらい泣いたのか全然分かんないけど、少し落ち着いてきた。
あんな夢を見たから、直前で気付いて期待したから。
期待以上の沢山の人と声の衝撃は受け止めきれない程に大きかった。
いつの間にかソファに移動して、セシリアとリリーナに挟まれてる。
ルナなんて座ってる私の上に乗ってお腹に抱き着いてるし。
「ぶぇ……」
もうお約束みたいにタオルで優しく拭かれた。
まだ少し溢れてくるから変な声が……もうこの程度じゃ恥ずかしいとも思わないや。
「うぅ……シアぁ……」
ルナが泣いてる。そんなの見た事無い。
「……なんでルナが泣いてるの?」
「だって……シアが泣いたら……あたしも、つらいんだ。なんか……痛いんだ。胸が……ギュッってなる」
そっか……自意識過剰みたいになりそうだけど、それくらい私を想ってくれてるって事かな。それは……嬉しいな。
「ん……ほら、ルナも」
「うぶぁ……」
タオルを受け取って小っちゃいルナの顔をゴシゴシしてあげる。
そしたらやっぱりルナも変な声が漏れて、思わず2人で笑った。
周りの皆は黙って見守ってる……ていうか、せっかく私の為に用意してくれたのに凄く待たせてるじゃん!?
「あの、ごめんなさいっ。色々用意してくれてたのに、こんなに待たせちゃって……」
だからつい、また謝ってしまった。そんなの皆は望んでないって分かってるのに。
「俺らがそんな事を気にするとでも思ってるんなら、ちょっと悲しいなぁ? ん?」
団長が笑いながら近づいてきて、大きな手で頭を撫でられた。
皆も口々に気にするなって言ってくれる。
「ぅ、ごめっ……ありがとぉ……」
お礼を言ったらまた溢れた。一体どれだけ出てくるんだろう、干乾びるんじゃないかな。
もう一度落ち着くまで、隣の2人が優しく撫でてくれた。
「とりあえず、まだシアもぐずってるし先にこっちにしよう」
フェリクスさんがいくつかの箱を指差す。それってプレゼント……だよね。
「そうしよっか。ほら、シアちゃんこっちこっち」
そしたらセシリアが手を引いてテーブルの方へ歩いていく。
ルナはお腹にくっついたまま。セミ?
「思い出したのが昨日だから1人1つは無理だったけど、皆で考えて皆で用意したからね」
「気持ちはちゃんと皆の分あるからさ。さて、最初はこれ!」
いやいや、1人1つなんてそれこそどうしていいか分からなくなっちゃう。
セシリアとリリーナが1つ目の箱を開けると中には……服。
「普段着のワンピース、運動用の上下、それから上着。ちょっと大きめだけどね」
「結構良い服だよ。丈夫だし汚れにも強いから、鍛錬の時とかにね」
「すごい、軽くて柔らかいのにすっごいしっかりしてる。――ありがとう、すっごく嬉しい」
これってハンターとかが着るお高いやつだ。感動して語彙が消えてる気がする。
全体的にシンプルだけど、フリルが付いてたり少し可愛い感じだ。
「ただ、これから寒くなるのに冬用じゃないんだよねぇ……そこのお馬鹿の所為で」
「いやぁ……その、似合うのを考えてたら……うん、ごめん」
なるほど、デザインはセシリアが……小さな子供用なんて売ってないもんね。
確かに袖が無いから随分と涼しい格好だ。完全に夏用。
「まぁでも大丈夫だよ、寒くても魔法でどうにかなるから」
山じゃ雪の積もる中でもボロきれで過ごしてたんだから、薄着なんてどうにでもなる。
むしろそうやって魔法で調整して過ごす人も珍しく無いし。
「あぁもう、本当に良い子だなぁ」
「ちゃんと冬服は買ってあげるからね!」
リリーナに抱きしめられて激しめにわしゃわしゃ頭を撫でられた。そんな性格だったっけ?
「ほら、じゃあ次だ。シアの力で作った魔道具だぞ」
「え? あ、じゃあ色々調べたり作ってたのは……」
次はリアーネさんが小さな箱を2つ持ってきた。
昨日やたらと細かく調べてたのも、最初からそういう事だったんだ。
「名付けてアルカナ魔道具だ。アクセサリーとして作れたから常に持ち歩けるぞ」
名付けてっていうかそのまま……誰も突っ込まないけど。
どんな魔道具だろう、ワクワクする。
「2つあるけど、まずはこっちだ」
これは……ブローチ?
数センチ程の赤い魔石と、その周りを金で装飾した綺麗な物。
こんなに凄い物を貰っちゃっていいんだろうか?
「既存の物を少し加工しただけの装飾だけどね」
いやむしろ少しでも加工して特別に作ってくれたなんて、本当に嬉しい。
「あとは魔石の色も考えたんだけど、あえて目立つ赤にした。勿論合金だから、普段使っていても耐久は気にしなくていいよ」
うん、綺麗な赤だし好きかも。
ていうか気にしなくていい程の耐久って、何との合金だろう。
やっぱ金属も地球とは違うんだろうな。
「魔力を流してごらん。どうもシア以外には使えないみたいでね……実際に確認が出来なかったから不備があるかもしれないんだ」
「ん、分かった」
魔道具でも私にしか使えないのか……確認出来ないのは大変だったろうな。
とりあえず言われた通りに魔力を流したら、勝手にいつもの球状の障壁――アルカナの盾が作られた。
全く意識してないのに維持してくれるから負担が全然違う。
調整や操作は意思次第みたいだけど、とにかく全てが楽になった。
「凄い! なんかもうなんて言っていいか分かんないくらい凄いよ!」
「問題無さそうなら良かった。気になった事があれば遠慮なく言ってね」
「分かった、今度色々試してみる!」
とりあえず一旦障壁……じゃない、アルカナの盾は消しておく。
ダリルさんが興味深そうに見てたけど、うん、また今度にしよ。
「じゃあ次はこっちだ」
そういえば2つ作ったって言ってたっけ。今のが凄くて一瞬で忘れてた。
「これは……なんだろう?」
小さな赤い魔石が2つ、金の鎖みたいなので輪っかになってる。
何かは全然分かんないや。ネックレスにしては小さい。
「ブレスレットだよ。少し邪魔かもしれないけど、用途としては手に付けた方が良いと思ってね」
「あ、そうなんだ……こうかな?」
よく見れば付け外しが出来る様になってた。
とりあえず右手にグルリ……悪くない。
「それは剣と矢を作る魔道具だ。作った後の維持もしてくれるよ」
剣の形とか無理って思ってたけど……魔道具にしちゃえば良いのか。
弓を持ってきた理由はこれだったんだね。
「わっ」
気になるから魔力を流したら半透明の剣が出てきて、思わずびっくりして声が出た。ていうか落としちゃった。
「私は詳しくないからリリーナの剣を参考にしたんだけど……こんな感じでどうかな?」
「良いと思うぞ。嬢ちゃんには少し大きいが、成長すれば大丈夫だろう。護拳もあるし、片刃で扱い易いんじゃないか?」
落とした剣を団長が拾って、なにやら2人で話してる。確かにリリーナの剣に似てる、かも?
でも剣なんて使える気がしない。弓と合わせて要練習かな……
「でもまぁ、これらはまた今度にしようか」
確かに、お祝いの場で剣やらを出すのも良くないか。
「じゃあ次あたし!」
リーリアも用意してくれたらしい。キラキラした笑顔で箱を持ってきた。
「シアちゃんは頭良いから、ちょっと難しそうな本とかにしたよ」
「うわー、面白そうな本ばっかり。ありがとう!」
特別専門的という程では無いけれど、少なくとも私達の歳では学ばない物ばかり。
学校に行かないならこういう物が必要だったのに、色々あって考える事も忘れてた。
ちゃんと私を見て考えてくれたんだ……
「ほら、ルナ。最後だよ」
「うー……」
そのままリーリアが、ずっとお腹にくっついたままのルナを呼んだ。
「なにその顔。あたしが用意するのがそんなにおかしい?」
やっと離れたルナをじっと見てたら文句を言われた。
「だって、ルナが? 全然想像出来ない……」
「そりゃ、お祝いとか贈り物とか全然分かんないし、誕生日だって忘れてたけどさ。頑張って考えて買ってきたんだから!」
「買ったの? 精霊がお店で買い物って、もう事件じゃない?」
更に驚く事に買ってきたらしい。
精霊が買い物なんて、お店の人はひっくり返るんじゃないかな……
「うるさい、もういいから受け取れ!」
赤い顔で箱を開けて、怒りながら中身を握って突き出してきた。
私の眼と同じ色をした宝石のペンダント……え、宝石?
「綺麗……だけど宝石って、高かったんじゃ?」
この世界じゃ貴金属や宝石は前世程の高価な取引はされないけど、それでも安くは無い。
加工されたアクセサリーはなんだかんだ多少は高い買い物になる筈。
「なんかお店の人が安くしてくれた」
「なにそれ……て、そっちは?」
精霊が買い物に来た珍しさで値引き的な?
そしてルナが持ってる箱に同じ物がもう1つ見えた。
「これは、その……あたしの分……」
「自分のも買うなんて、そんなに気に入ったの?」
ルナは割とお洒落な気はするけど、自分のアクセサリーを買うなんて意外過ぎる。
「違うよー。シアちゃんとお揃いのを付けてたいんだってさ」
「えっ? ……そっか、ふ~ん?」
「や~め~ろ~っ」
と思ったらリーリアから理由を教えられた。随分可愛らしい事するじゃん。
照れてるルナのほっぺたをツンツンプニプニしてやる。
私もなんか照れちゃうけど。
そんな風に想ってくれてるのが嬉しい。本当に嬉しいとしか言ってないなぁ。
「ちなみに、元はもっと簡素なデザインだったのを私が追加で加工してるんだ。2人で特別だぞ」
リアーネさん、これも加工したんだ……時間なんて無かった筈なのに。
もしかして寝てないんじゃない?
「邪魔にもならないし、もうずっと付けてようかな。ね、ルナ」
「す、好きにすればいいじゃん」
なんか魔道具含め、急にゴテゴテしだした。どんな子供?
そもそも、こんなちんまい子供に綺麗なアクセサリーをいくつもって似合わないんじゃ……いや、貰っておいて考えちゃダメか。
「ほら、ルナも付けなよ!」
「分かった、分かったから自分でやるよ!」
無理矢理付けてやろうとしたら、恥ずかしがりながら自分で付けてくれた。
「「えへへ……」」
顔を見合わせて笑う。お揃いってなんだか凄く照れくさいけど、それ以上に幸せだ。
でも気分は切り替えて、改めてしっかり皆にお礼を言わなきゃ。
こんなにしてもらったら、私には返せる物が無いけど……それを気にするのは誰も望んでない。
ちゃんと皆の顔を見て、感謝を伝えようと深呼吸。
「あの……こんなに沢山の物、本当にありがとう。すっごく嬉しい……」
こうして沢山の物を貰うのが、どうしようもなく嬉しい。
その理由はもう分かってる。
「私には何も無いから……想い出の物なんて何も残ってないから……」
嬉しいだけじゃないあの涙の理由。今朝と同じだ。
新しい物と同時に、もう戻らない失った物を突き付けられた気がした。
「だから新しい想い出が、嬉しくて悲しくて……」
理解して思い返してしまえば、勝手にまた溢れてくる。
だけど今度は違う。嬉しさの方がずっと大きい。
「ごめんなさい……ぐちゃぐちゃで分かんないから……」
私の事でそんなにつらそうな顔をしないで欲しい。
そうさせる様な事を言っているのも自覚してるけど。
「でも、本当に、嬉しいんだ……ありがとう。ありがとぉ……」
溢れる涙と一緒に気持ちも全部、伝わってほしい。
誰も何も言わない。だけど傍に居てくれる。温かく触れてくれる。
これが、幸せ。




