第43話 エルフと言えば弓?
シア達はギルドへと到着し、早くも日常と感じつつある鍛錬が始まる。
「お前達はちょっと待っててくれ。――ほれ、嬢ちゃんは今日はこれだ」
一旦セシリア達は後回しにして、団長はシアに弓を手渡した。
「弓? 私には引けなかったけど……」
「一応だいぶ弱い弓を用意した。多分使えると思うが、とりあえず試してみろ」
今日は弓を使ってみるらしい。リアーネが製作中の魔道具で矢を作れる様になるからだろう。
どうやら製作自体は進んでいて大人達で話し合っていたようだ。
問題があるとすれば、これで弓が全く扱えないなら魔道具も意味を成さないという事。
根本的な所に問題があるのはどうなのだろうか。
「ん。――ふぬうぅ……っ!」
言われた通り弦を引いてみる。
身体強化は無しで素の状態だが、ちゃんと引けたのでひとまずは安心か。
「……ギリギリか?」
「なんとか……」
ただし、そういう事らしい。なんとも非力過ぎる。
「とりあえず素で引けたなら、少しだけ強化すれば楽だろう」
楽になるのは間違い無いが、その強化さえ彼女には負担が大きい。
教える側からすればとにかく面倒な子だ。
「体が弱いなら身体強化は成長するまで控えた方が良いのか、少しずつでも慣らしていった方が良いのか……どっちだろうな」
「分からん。調べれば何かしら前例は出てくるだろうが……」
しかしそんな事は誰も思わず、むしろ真剣に考えてくれる。
どうするべきかをフェリクスが悩み呟くが、流石のダリルも知らなかった。
「強化した方が効率は良いんだし、少しずつ慣らすか」
「そうするか。流石に逆効果なんて事は有り得ないだろう」
強化をすればより負担が増えるので体は強くなる。
筋肉の成長ではなく、ほんの少しずつでも負担に耐えられる体になっていくのだ。
その分キツイ事になるが、そこはもう耐えてもらうしかない。
「うぇー……筋肉痛がぁ……」
シアは心底嫌そうな顔で嘆いている。
走り込んだり体の動かし方を学ぶだけでまともに動けなくなるくらいだ。
本人以外には分からないが、かなり痛いのだろう。
「文句言うな。むしろ痛いって事は強くなってるって事だ、我慢しろ」
しかしそこはなんだかんだ厳しい団長。
決して無理をさせるつもりは無いが、体を強くするには多少の無理をしなければならない二律背反に悩む――素振りも見せずにキッパリと言い切った。
「はーい……」
言われたシアも、受け入れるしかないと早々に諦めて気の無い返事を返した。
強くなる為のやる気は有れど、体を虐めたい訳ではないらしい。
しかしそんな甘っちょろい考えでは彼女の望む成長は見込め無いだろう。
「頑張ってねー、シアちゃん。私は苦手だから弓は教えてあげられないけど」
「私も。なんかしっくり来ないのよね」
横で会話を聞いていたセシリアが応援を飛ばす。
残念ながらリリーナも揃って弓は不得手らしい。
まぁ使えたとしてもシアに教えてあげる余裕も無いのだけれど。
「ていうか弓なんて誰も教えられないんじゃ……?」
と、ここでセシルが気付く。この場に弓をそれなりのレベルで扱える者が居ないのだ。
一応男達は多少使えるが、それでは教えるというには少し厳しいかもしれない。
「問題無い。当たればいいんだから、自分なりに慣れて貰うだけだ」
しかし団長としては別に構わないらしい。
なかなかに割り切っているがそれでいいのだろうか。
「えぇ……そんなんでいいの……?」
教えてもらう立場で図々しいかもしれないが、シアもそれは流石にどうなのかと微妙そうな顔で反応する。
「地域によっちゃ流派だってあるが……何を学んだ所で、結局は当たらなきゃ意味無いしな。やり易い形を自分で見つけりゃそれでいい」
一応ちゃんと考えた上での話なのだと、フェリクスがフォローを入れる。
やはり武器という物は使い方――流派が存在するが、シアの知るそれとは若干違うようだ。
あくまで考え方の1つであり、我流や身近な者に教わるのが殆どらしい。
というかそういった物を纏めた物が流派だろう。
暴論が過ぎるが、基本を除き自分なりに考えて身に付けろという流派だと言えなくもないかもしれない。
「ほんとにそういうものなの……?」
前世の感覚的にはどうしても違和感があるのか、未だシアは懐疑的だ。
「実戦はあらゆる状況に臨機応変に対応しなきゃならん。その為に色んな型を学ぶってのは確かにあるが、結局自分のやり易い様にやるのが一番だ」
どうやらこの世界は弓に限らず、武器全般がそういう考えの元で使われているらしい。
なにせ地球とは違い、戦いの対象が多い。
魔物や獣、亜人に魔法生物……そして人同士でも種族で大きく違う。
攻撃手段どころか、姿形もとにかく多種多様。戦う環境だって要素の1つ。
考えるべき状況が多すぎる故に、体を動かすまま感覚のままに……それが軸なのだ。
「少なくとも俺の知ってるのはそういう奴ばかりだよ」
団長はそう言って話を切り上げた。
とにかくそういう物なんだと納得させて、さっさと次の話へ移りたいようだ。
「まぁ、とりあえず分かったけど……つまり好きにやれって事?」
「そういう事だ。最低限の基本は教えるがその後は……申し訳ないが嬢ちゃん次第だ」
なんにせよ彼らの言いたい事はシアも分かった。
それに彼らに余計な負担を掛けずに済む。
どうにか時間を作って、セシリア達を見て自分を見て仕事まで、というのが少しでも軽減されるならそれで良い。
鍛えてもらう、教えてもらう、それに甘えてばかりではダメだと改めて考え直したらしい。
正直色んな面で甘えてばかりだけれど……やはり何度も言う様に中身は大人のつもりなのだ。
しかし話が逸れて時間を食ってしまった。
とっとと基本を教えようと団長達はシアを連れ、隅にある弓の練習場に向かった。
勿論、弓の使い方くらいはシアも前世の知識で多少は知っている。
詳しくは無くともなんとなくこういう感じ……というイメージは持っているのだが、ここは魔法の世界。
腕や指を保護する防具は存在せず、魔力障壁で護る事になる。
弓自体も身体強化に物を言わせて制御する面があるだろう。
弓の左右どちらに矢を番えるのか、弦の引き方や指の形も個人の好みでしかない。
これはスポーツや武道では無く、命を懸けて敵を殺し生き残る為の武器と技術だ。
シアの曖昧な知識にある細かいルールや作法なんて誰も考えない。
基本的な事を教わる中で、彼女も改めて理解した。
自分が今持っている物が何の為の物なのか――それを持つ意味を。
「とりあえず試してみろ」
説明が終わり、言われた通りシアは矢を番え構える。
ほんの少しだけ強化をしてしっかりと引き、集中して狙い……放つ。
初めて故に的までの距離は数メートル程度、ド真ん中でもないがちゃんと的に矢が突き刺さる。
「お、当たったじゃないか。いいぞ」
団長に褒められて気を良くしたのか、2射、3射……と続け、どれもしっかりと命中していく。
毎度大人達が口々に褒めてくれるのでそのまま繰り返し、かなりバラけてはいても1度も外す事が無かった。
「子供が初めて使ったと考えたら充分だな。結構向いてるんじゃないか?」
「えへへ……そうかな」
更に調子に乗って距離を離して続けていく。
遊びなんかでは無い事は理解しながらも、的当てを楽しんでいるようだ。
距離を離した事で外す事もあったが……毎回集中しつつもテンポよく放ち、殆どをしっかり当てていく。どうやら才能があったらしい。
「ふむ……予想以上に使えてるな。これは続けていけばかなり期待出来そうだ」
「成長して強い弓が扱える様になれば化けるかもな」
「……ただ、既に疲れてるのが勿体ないな」
せっかく褒めちぎられていたけれど、当のシアは早くも疲れてしまっている。
「うへぇ……思ったよりキツイよぉ……」
多少なりとも強化を使っている所為だろうけれど……才能があってもそれを活かす体が無ければどうしようもない。残念な子である。
「まぁまぁ、今はそれも仕方ない。初めてなんだから誇っていいぞ」
団長がシアの頭を撫でて励ます。
まるで娘の様に可愛がっていてなんだか微笑ましい。
おっさんに可愛がられても喜んでいるので純粋に嬉しいと感じているのだろう。
そうして純粋なのが分かるからこそ、皆に可愛がられるのかもしれない。
「休憩しながらでいいから、そのまま好きに続けていてくれ。くれぐれも怪我は無いようにな」
「はーい」
丁度区切りもついたので、向こうで待たせている3人の所に行かなければと団長は撫でていたシアの頭をポンポン叩いて歩いていく。
フェリクスとダリルも続いていき、1人残された彼女はとりあえず一旦休憩にする事にした。
その後もある程度数を撃てば休憩を挟み、ひたすら同じ事を繰り返す。
どうやら彼女自身、ようやく自分に出来る事を見つけられた事が嬉しくて楽しくて仕方ないらしい。
休憩を挟んでも尚、どんどん疲労していくが……無意識に身体強化を続けて誤魔化した。
それはもう、昼食だと言われてようやく疲労に気付いたくらいだ。
一旦気付いてしまえば怠くて眠くて仕方ないので、正直に理由を話しいつぞやの様に団長室で眠りについた。
正直、周囲の皆は気が気じゃないだろう。
せっかくのお祝いを控え、まさかの本人が疲れ切ってクタクタになってはどうしようもない。
本当につくづく周りを悩ませてくれる人騒がせな子だ。
鍛錬が終わるとセシリアとリリーナはシアの元へ向かった。
シアが寝ている以外は予定通りで、きっと今頃は準備も進んでいるだろう。
寝ている間に運んでもいいが、完全に寝起きでお祝いの場に突き出すのもよろしくはない。
という訳で、可哀想だけど起こさないとね……なんて気を遣われて、優しく起こされるのだった。




