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愛されクソ雑魚TSエルフが紡ぐ異世界シンフォニー  作者: 桜寝子
第1部 第2章 秘めるモノ
34/73

第33話 大きな気持ちと小さな1歩

 そして更に翌日、朝。

 シアは違和感を覚えて、ぼんやりと薄目を開けた。


 あまり考えたくない箇所に、解放感と共になにやら温かいものが広がる感触。

 思い至った瞬間、一瞬で冷や汗を吹き出し、今までに無い程に素早く覚醒して勢い良く体を起こした。


 そして『それ』を見て青褪める。


 寝てばかりでトイレには殆ど行かなかった……というかそもそも自力で行く気力も無かったのだ。


 赤ん坊や幼児の頃は仕方ないと受け入れてはいたが、流石にもうそんな歳じゃない。

 もう10歳になる子供としてもショックだし、中身は35歳だ。

 やってしまった事の羞恥と絶望で思考が停止している。


 勢い良く体を起こした所為で転がって起こされたルナが、呆然としているシアに気付いた。


「なんだよもう……急に――」


 目を擦りながら起き上がり、惨状に気付いて数秒目を瞬かせた後に跳び上がった。


「うわぁ!? お前っ……ついにやったなぁ!?」


 隣でおねしょをされては大声で驚いて焦るのも無理はない。その声でシアも復活した。

 というか()()()とは……やらかしそうだと思っていたのだろうか。


「違っ……! 違くないけど、待って! そんな大声出さないで!」


 とりあえずやってしまったのはどうしようもないが、魔法で綺麗にすれば済む話だ。


 だからわざわざ騒いで家族に気付かれたくなかったのだが、シア自身も焦って大きな声を出してしまった。


「ど、どうしたの!? 急に大声出して――」


「元気そうなのは良かったけど、一体何が――」


 やはり今日も来ていた……のではなく、シアが心配で泊まっていたセシリア。

 そしてリリーナが部屋に入って来るなり、案の定事態に気付いて止まった。


「あー……やっちゃったかぁ……」


「まぁ、うん。トイレ行ってなかったもんね。仕方ないよ……」


「いやっ……その、これは水でっ……魔法をちょっと、あの……ね?」


 気まずいからか、2人は目を逸らしながら呟く。

 誤魔化せる筈も無いのに何か言っているが当然無意味だ。


「はいはい……仕方ないんだから気にしないの。ほら、綺麗にして着替えるよー」


「これくらいすぐ終わるから、とりあえず脱いでベッドから降りてね」


 しかしいつまでも見ないフリは出来ない。

 温かい惨状へ温かい目をしながら近づいて来る2人に対し、ルナは逆に隣で冷たい目をしている。


「わーっ! 自分で脱ぐから! 自分で綺麗にするから!」


 完全に幼児扱いでお世話されかけて必死に抵抗。流石に恥ずかし過ぎるらしい。


「じゃあ着替えてきなさいな。ベッドはこっちでやっとくから」


 お世話をされるのは回避できたが、現場の始末はされてしまうようだ。


「~~っ……ぅあー!」


 どっちがより恥ずかしいかと秤に掛け、一瞬悩んだ結果ベッドはお任せする事に。

 真っ赤な顔で涙目になりながら、着替えを持ってお風呂へ急いだ。


「……あたしも一応洗ってこよ。隣でくっついてたし……」


 すぐ傍でやらかしてくれたので若干心配になったルナも、同じくお風呂へとふよふよ飛んで行った。


「まぁ、元気そうで良かった……かな?」


 リリーナは嬉しいやらなんやら、苦笑しながらシーツを剥がしていく。

 予想もしていなかった事態だが、予想以上に元気になっている様で安心は出来たらしい。


「あはは……そうだね。こっちは私がパパっとやっちゃうよ」


「うん、お願い。シーツは私がやるよ」


 そのまま2人で庭へ出て一気に洗い水気を飛ばしていく。

 流石は魔法と言った所か。惨状はあっという間に綺麗さっぱり消えていた。



 一方……お風呂場で服を脱いで体と一緒に洗い始めた、泣きそうなシアの元へルナが到着。


「ぅう……ぐすっ……あれ、ルナも来たんだ?」


 風呂場までは早かったが、真っ赤な顔でしょぼくれていて洗うのはゆっくりだ。


「だって隣でおねしょされたんだもん。一応洗っておきたいし」


 どうやらルナは怒ってまではいないが虐める気は満々な様子。


 シアがシャワーを使っているので、魔法で体を洗いながら文句を言う。相変わらず便利な服は消して新しく作るだけだ。


「ほんとごめんて……恥ずかしいからもう言わないで……」


「ちゃんとトイレ行けば良かったのに……馬鹿だなぁ」


「だって1人で行くの大変だし……わざわざ誰か呼ぶのも悪いし……」


 蹲っていたシアは顔を上げて、ばつが悪そうに目を逸らしながらボソボソと言い訳する。


 自力で歩く事が酷く億劫だったのと、人を呼ぶ事に遠慮をしてしまったらしい。

 いくら心配でも常に誰かが見ていた訳では無いのだ。

 殆ど寝ていたシアが目を覚ましたタイミングで居なければそうなるだろう。


「遠慮して余計に大変な事になってるじゃん……看病する為に居るんだから、誰も迷惑なんて思わないのに」


「うぅ……ごめんなさい……」


 寝込んでいるシアに頼られて迷惑と思う人はここには居ない。

 そんな事もわざわざ言わなきゃ分かってくれなかったのか、という不満がありありと伝わってくる。


「ま、これでシアはおもらししちゃう子って印象が追加された訳だ。自業自得だね」


「もうやめてぇ……」


 説教はしたくないのか、ルナは話を変える様にまた軽く揶揄う。

 事実故に言い返せないシアはもう泣きそうになりながら両手で顔を覆った。


「本気で恥ずかしがってるみたいだし、これ以上は言わないけど……ほんと気を付けてよね」


 揶揄う事であえてシアの気を紛らわせているのかもしれない。

 話しながらシアの服と全身を魔法で一気に綺麗にした。


「わぁっ!? あ、ありがと……」


 急に魔法で全身を洗われて驚いたものの、素直にお礼を言ったシアはお風呂場を出る。


「こんな事で時間使ったって仕方ないでしょ。さっさと着替えなよ」


「うん」


 さっさと気分を切り替えてしまえ、とシアの服を投げ渡していく。


 洗ったとは言え漏らした下着をまた穿くのも気分的に嫌だったのか、新しい下着に替えて服を着た。


「ひとまず元気になったみたいで良かったけどね」


「それはもう。ルナも魔法使ってくれてたし、いつも通りの体調だよ」


 そうして綺麗にした服をぐちゃっと畳んで脱衣所を出ていく。


 なんにせよ充分に元気になった事は喜ばしい。

 勿論ルナがひたすら魔法で癒していたお陰である。


 疲労回復と活力を与えるだけだったが、それは傷の治っていたシアに一番必要だった。

 こうして回復される事に慣れてしまっているから、いつまで経っても体が改善されないと言われてはいたのだが……今回は仕方ないだろう。


「良かった、本当に元気になったんだ」


「あ、セシリア……」


 話が聞こえていたのか、セシリアが笑顔で迎えた。

 あの惨状を見られた上に始末まで任せてしまったので、シアはまた顔を赤くしている。


「こっちも綺麗になったから、もう大丈夫だよ」


「あんまり気にし過ぎないようにね」


「リリーナも……2人共ありがと」


 とりあえずベッドの方は綺麗に戻したという事を伝え、横からリリーナも慰めの言葉を掛ける。

 恥ずかしいけれど俯きながら小声でお礼を言った。


「これからはちゃんとトイレ行くんだよ?」


「ぅ、はい……」


 多少仕方のない事でもあった気がしないでもないが、言う事は言わなければ……と、セシリアがおどけながら怒ったフリをした。

 恥ずかしいやら情けないやら、シアは縮こまって返事をする。


「さて、ごめんだけど……のんびりはしていられないんだよね」


「もう仕事?」


 自分まで小言を言う事ではないと思ったリリーナは、これで家を出るのだと伝える。

 仕事にしてはいつもより早い時間だと気付いたルナが訊ねた。


「仕事ではないかな。さっそく鍛えてくれるって言うから、早めに行こうかなって」


「えっ、じゃあ私も!」


 シアが順調に回復していたのもあり、今日はこれからギルドへ行く。

 昨日1日掛けて団長達が必死に調整をしてくれたお陰で、あっという間に鍛錬の始まりである。お疲れ様だ。


 そこまでして貰っておいて遅刻は申し訳なさ過ぎるし、やる気もあるのでさっさと向かうつもりなのだ。


「シアも? うーん……まぁとりあえず行って考えればいいか」


 彼女がそう言い出すのは予想外……ではなかったけれど、病み上がりだ。

 しかし元気なら団長達と話して決めればいいか、とリリーナは後回しにして受け入れた。


「ちょっと待ってて!」


 どうやら一緒に行っても良いと分かって慌てて部屋に戻った。せっかく着替えたが動きやすい服にまた替えるのだろう。


「姉さん、そういう訳でシアも連れてくけど……いいよね?」


 実はずっとリビングに居たリアーネに確認をすると、答えは既に決まっているのか準備を始めていた。

 今からゆっくり食べている時間は無いので、パンに肉や野菜を挟んでいる。


 どうやらおねしょの件は触れない方向で行くらしい。


「勿論。元気ならわざわざ止めないよ。ただし無理だけはさせないように」


 それでも念押しした。1度倒れているのだから当然だ。

 恐らく本音は彼女も一緒に行きたいのだろうけれど……戦う側ではないのだから意味が無い。


「それこそ勿論!」


 当たり前だと返すリリーナだが、鍛錬中にシアの事まで気を配る余裕があるかは分からない。

 多分無いけれど、責任感はあった。


「お待たせ!」


 そこへシアが駆け寄ってくる。

 上着を羽織ってはいるが、短パンで動きやすそうな恰好だ。


「ほら、ご飯も食べないで行く気? 歩きながらでも良いから、ちゃんと栄養は取りなさい」


「ん、ありがと」


 そのまま外用の靴へ履き替えるシアに、リアーネが皿を持って声を掛ける。

 食べ歩きなんて行儀が悪い……という事も無い。お礼を言うと1つを口に咥えた。


「じゃあ姉さん、行ってくるね」


「ああ、行ってらっしゃい」


 リリーナも姉へ挨拶して家を出て、ドアを開けたまま待ってくれている。


「ひっへひあふ」


「食べながら喋らない」


 靴を履き替えたシアは立ち上がり、同じく挨拶するが喋れていない。

 すかさず隣のセシリアから注意された。


「んぐっ……行ってきます!」


 一旦口の中の物を飲み込んでから……今度こそしっかりと元気良く挨拶。


「うん、行ってらっしゃい」


 それを見送るリアーネは穏やかな笑顔だ。


 彼女は未だ悩んでいるが、それを表に出す事はしない。

 しっかりと前を向いて、答えを見つける為に進むのだ。



 最初から最後まで簡単な話だったのに、気持ちの整理は難しかった。


 思い詰め立ち止まってしまったけれど……それでもこうして皆一緒に前を見て、明るく確かな1歩を踏み出したのだった。






 所変わってここは街の外れ。


 勝手な行動をした挙句、街に敵を誘導し襲撃させてしまった5人。

 彼らはハンターとしての立場を剥奪され厳しい処罰を受けた。


 話はあっという間に広まり、周囲からの評価はどん底。

 冷たい視線に晒されながら新しく仕事を探すのは難しいだろう。


 ハンターとは誇り高き人達だと誰もが信じてくれている。

 全てが善人とは言えないが、それでも生きる為に信じる。感謝して支え合う。


 それを裏切る失態への代償は大きかった。


 外壁に護られた、ある意味閉鎖的と言えなくもない街。

 その中で代償は重く圧し掛かり――立ち上がる事さえさせてくれなかった。


 他の街に居場所を見つけるよりも前に。

 そんな彼らを悪へと引き摺り込もうとする者が居た。


 道を失くし、踏み外した1歩を進んでしまったのは……仕方のない事だったのだろうか。

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