第31話 戦いの後で
グリフォンが討伐された翌日。
既に諸々の後処理は終わり、いつも通りの日常へと戻っていた。
シアを中心とした者達以外は――
今は昼。彼女はまだ目を覚まさない。
体の弱い彼女なら仕方のない事だが、安静にしていれば問題は無い。
同じく疲れ果てて眠ったルナは既に元気だ。
ただしシアを大層心配して、ずっと寄り添っている。
問題はセシリアとリリーナとリアーネの3人だった。
護りたい大切な者を目の前で失う所だった、何も出来なかった。
その大きすぎるショックと無力感で、精神的に酷く追い詰められてしまった。
そもそもが未熟で実力不足、リアーネに至っては戦闘なんてしない。
どうしようもなく仕方なかった……しかしそんな事は彼女達だって分かっているのだ。
「で、お前らはいつまでそうしてグズグズしているつもりだ?」
団長達もどうにかしたいと考え、シアに付きっきりの彼女達をリビングへ集めて話を始めた。
大人しく受け入れるにはショックが大き過ぎただけで、時間さえ経てば自力で立ち直るだろう。
それでも放って置く訳にはいかなかった。
なによりシアが目覚めた時の事を考えたら、さっさと立ち直っていた方がいい。
彼女の性格なら、自分の所為で追い詰めてしまった……なんて考えかねない。
「セシリアもリリーナもまだ子供だ。素直に受け入れて糧にするのは難しいだろう。しかしリアーネ、お前は別だ」
まだ未熟な子供である2人には諭すように言ったダリルだが、リアーネに対しては違った。
「普段大人振っているくらいなら、こういう時こそ大人として助けになるべきだろう。お前は彼女達を支え見守る立場じゃないのか?」
彼女はいつも大人としてどうあるべきかを考えている。
両親が街を出て、幼い妹2人を見てきた事から来る責任感。
本当はそこまで大人ではないのに、大人であろうとする。
そんな彼女にあえて大人としてキツい言葉を伝える。
リアーネは唇を噛み締めた。
彼女自身、全て理解しているから。
そもそも戦えないのだから無力感に苛まれてもどうしようもない。最初から畑が違うのだ。
しかし、それならどうすればいいのか……それが分からない。
落ち着いて考えるだけの余裕も無かった。
「どうしてそこまで自分を責める? 未熟な事は仕方ない、力及ばない事なんて誰だってある。なら強くなればいいだろう」
フェリクスはセシリアとリリーナに向かって一層強く伝える。
ハンターとは誰しもがそうして成長していく。力だけじゃなく、心も。
彼女達にも成長する時が来ただけの話だ。
「今の自分をあの子に見せたいか? ごちゃごちゃ考えてねぇで、まずは前を見ろ。そして歩け。強くなりてぇならいくらでも鍛えてやる!」
団長が言葉を引き継いだ。
余計な事は考えずに前を向けばいい。結局はただそれだけの話だが、それが難しい。
それでもシアの為なら意地を張れるだろう。
そして前を向いて強くなろうとするなら、その為の協力は惜しまない。
そんな言葉で彼女達もいい加減立ち直らねばと、ようやく口を開こうとした時……小さな声が聞こえた。
「ねぇ……」
皆が来た時にシアが目を覚ましたのは偶然、むしろすぐにまた意識を落としかけていた。
しかしなにやら穏やかでは無い様子に気付き、フラフラの体を起こして歩いて来たのだろう。なんともいじらしい事だ。
ルナが心配そうに小さな体で支えようとしてあげている。こっちもこっちでいじらしい。
「シ、シア……!?」
「起きて……いや、無理しちゃダメだよ!」
全員が驚き、ベッドに戻さなければと慌てた。
しかし話を聞かれていて何か伝えたい事があるのだと察し、彼女の言葉を待った。
「あのね、私も……全然ダメだなって思ったよ。ううん、ずっと前から思い知ってた。なんにも出来ないし、護られてばっかりだし……」
シアこそ自分の無力さを酷く痛感していた。
そもそもコンプレックスの塊で、命を賭して母に護られたという過去に苛まれていた。
その精神的苦痛は今回の彼女達の比ではないだろう。
だけどどうにかこうにか前を向いて歩く事が出来ている。
「でも、大丈夫なんだ。1人じゃないから、立ち上がって歩いてこれたんだよ」
それは隣にルナが居てくれたから。
そして新しい家族と出逢えたから。
心を吐き出し、聞いてくれる人が傍に居れば大丈夫なのだとよく知っている。
「護れなかったなんて責めないで。自分達だけで悩まないで。そんなの私は嫌だよ……一緒に居るんだから、一緒に歩こうよ。私も強くなりたい! 一緒に強くなろうよ!」
なら同じ様に、彼女達と共に歩めば良いのだと……何より自分がそうしたいのだと精一杯に伝えた。
強くなりたいのは皆同じなのだ。
そんなシアの姿は、彼女達を無理矢理でも前に向かせるには充分だった。
むしろ団長達の激励でひとまず立ち直りかけていたのだから、効果覿面どころではないだろう。
「うん……そうだね……」
「分かってる……分かってるよ、シア。ただちょっと、気にし過ぎただけ。……ありがとね」
大人達に厳しく言われ、シアからもここまで言われては……もう立ち止まってなんていられなかった。
息の荒れたシアを2人は抱きしめ礼を伝えた後、寝室へ。
そしてベッドに入るとすぐに寝息を立てて寝始める。
彼女達の為に、気持ちを伝える為に、やはり無理矢理起きてきたのだと分かる。
申し訳なさを感じると共に、そんな風に想ってくれた事を嬉しく感じたセシリアとリリーナの表情は――先程までとは確実に変わっていた。
「結局、嬢ちゃんの言葉が一番効くよな」
寝室へ向かった彼女達を眺めながら、団長がしみじみと呟いた。
彼らがどれだけ言おうが、シアの言葉の方がよっぽど効果がある。
「流石にこれで解決だろ。俺達が話す必要無かったかもな」
「シアにあんな姿見せられないっての話だったのに。なんだかなぁ」
彼女が目を覚ますまでにどうにかしようと思っての事だったのだが、結局シアの言葉でどうにかなってしまった。
それどころか、彼らの想像以上にシアの心は強かった。
ただしそれはそれとして、自分達で上手く終わらせられなかった事はなんとも微妙らしい。
「はぁ……私はどうすれば良かったんだ。何も出来ずに怒られて、子供に諭されて、結局答えも出せない。頭では分かっている筈なのに……」
リアーネは未だ……いや、むしろ余計に落ち込んだ。
強くなるという単純な答えを出せる2人とは違う。
皆と違って戦えない彼女は、まるで自分だけ取り残された様に感じてしまった。
戦えないのなら家族として支えていくしかない。それは分かっているけれど……
「俺達だって明確な答えなんか出せやしない。それでも堪えて受け入れて、前向いて歩くのが大人だ」
団長は根っからの武闘派であり、残念ながらリアーネの悩みに答えを出せない。
それでもただ大人としての言葉を贈った。
後ろを付いてくる者の為に、どうにかこうにか前に進むのが大人なんだ、と。
「まぁなんにせよ、お前もまだまだ子供って事だな。大人振るばかりじゃなく、本当に大人として成長する機会だと思え」
ダリルも先程は厳しく言ったが、想定とは違う流れになったからか今度は親身になっている。
彼なりに色々考えてくれていたのだろう。
「分かってる……情けない姿は見せなくないからね。頑張ってみるよ」
大人でありたいリアーネからすれば、そんな彼らの言葉が一番効いたようだ。
答えが出せなくても、強がりにしかならなくても、悩みながらでも前を向こうと立ち止まるのは止めた。
「その辺りは僕も同じだ。目の前に3人もお手本が居るからなんとかなってるだけで、自力じゃどうしようもなかったかも。実際何も言えなかったからね……」
彼女の様子に安心しながらセシルが打ち明けた。
団長達に並んで説教が出来る程大人ではないし、語る言葉も無くて黙っていたらしい。
戦いの道を選び、目の前の男達を目標に進んでいたから悩まずに済んだだけなのだ。
「それでも、お互い頑張ってみようじゃないか。大人になったつもりじゃなくて、ちゃんとした大人になれるように」
「そうだね……本当に」
もういつまでも子供でいられない。
大人として歩いていかなければいけない。
そう改めて強く実感した2人は、顔を見合わせて少しだけ笑った。




