第28話 回復依存症……?
シアが眠りについてしばらく経った頃、続々と隊が戻ってきていた。
「え? シアちゃん来てるの?」
「姉さんが連れてきたみたい」
姉とシアが来ている事を知ったリリーナがセシリアに伝える。
そう説明する彼女の後ろにリアーネとダリルとセシルも歩いてきた。
リアーネの仕事は既に片付いている様だが、彼らはまだ暇なのだろうか。
「昨日も来てたんだよね? 会えるのは嬉しいけど良いのかな……」
「いいんじゃない? 団長も許可してるみたいだし、迷惑掛ける子じゃないしさ」
ここは仕事場だ。小さな子供が頻繁に来るのは正直あまり良いとは思えない。
しかし団長が受け入れているし、騒いだり邪魔をする事も無いので周りも別に怒ったりもしない。
何らかの事情で団長に保護された子、という情報だけは広まっているのもあるだろう。
「シアはちゃんと良い子にしてたさ、迷惑掛けたのはこっち」
話に加わったリアーネは疲れた様に言った。
結局ダリル達は上手い言い訳が出来なかったらしい。後ろで苦い顔をしている。
「……何したんですか?」
どうやら彼らが何かやらかした、と察したリリーナは厳しい顔で彼らを見る。
「いや、何というか……その」
「あー……」
シアが制止を振り切って無茶しただけだが、そんな事を言い訳がましく言うつもりもない。
注意が足らなかった自分達の責任だと受け入れている。
それでも彼女達に何を言われるか、と言葉が出てこない様子だ。
「お陰でシアは寝込んでるよ」
ハッキリしない彼らを無視して、シアが寝込んでしまったと伝える。
それだけで下手な事をしでかしてくれたと充分伝わった。
「兄さん! 何したの!?」
「うっ……その、障壁を……ねっ、ダリルさん」
「おい俺に振るなっ……あー、えっと……あの子の障壁について調べていたんだ」
「それがなんでシアが寝込む事になるの?」
兄がシアを寝込ませたなんて、セシリアからすれば我慢ならないのだろう。
セシルは妹に責められて無理矢理ダリルに話を振った。若干情けない。
リリーナも相当お怒りらしく、追及する目が怖い。
「私が仕事の間、シアの面倒をお願いしたんだけどねぇ……」
リアーネはそこまで怒らず、ただ呆れるばかりだ。
自分もシアに銃を撃たせるなんて事をさせた手前、あまり強く言えないらしい。
「シアちゃん体弱いって言ってたのに……」
「それもすっかり忘れてしまってたんだ。全然そんな感じも無く元気な子だから……いや、言い訳はもういいか」
体が弱くとも元気に動き回る彼女を見ていたら、つい忘れてしまっても仕方ない。
セシリア達でさえ気付くのは遅れるだろう。
それくらいシアは体が弱いという事を気にしない。
「とりあえず……団長室で寝てるから様子を見に行こうじゃないの」
ここで彼らを責めていても意味はないので、シアの所へ行こうとリアーネが言って歩いていく。
「僕たちは様子だけ見て戻るよ。流石にそろそろ集合しないと……」
「ああ、悪いが遅れる訳にはいかないからな」
彼らは気まずそうに伝える。勿論、理由が理由だけに文句を言う者は居ない。
団長室の扉をそっと押し開け、柔らかな日が差す静かな部屋に入る。
すると奥のソファに、ルナを抱いて安らかな寝息を立てている眠るシアを見つけた。
「ぐっすりだね」
「ルナまで寝てる」
「2人とも可愛らしい寝顔だ。見ての通り、寝込んだと言ってもつらそうではないから安心しなよ」
そんなシアを見てお姉ちゃん3人は顔を綻ばせている。
まるで子猫を眺めているかの様だ。
既に様子を見ていたリアーネには分かっていたが、深刻な状態ではない。
「減った魔力はともかく、疲労とかはルナが癒してたからね」
魔力は回復するまで待つしかないが、ルナのお陰もあって寝込んだにしてはかなり状態が良い。
そう言うセシルもダリルと共になけなしの治癒魔法を使っていたが、癒したのはルナだとしか言わなかった。
「とりあえず……薄情かもしれないが、俺達はもう行くぞ。気分は切り替えなければ」
やはり引け目を感じるのか、申し訳なさそうにダリルが言う。
「分かった。シアは私達で見ているから、存分に戦ってくるといい」
「見送りには来てくれないのか」
「お前達を見送るよりシアの方が大事だ」
「酷い……とも言えないか。じゃあ行ってくるよ」
同い年で気安い関係であるセシルとリアーネは軽口を叩き合う。
しかし、仮に酷く緊張でもしていたのなら励まして見送っていただろう。
彼女は意外と憎まれ口を言う性格らしい。
「はいはい、いってらっしゃい」
セシリアも先の怒りは収めて、ぶっきらぼうに見送った。
別に誰も心配していない訳ではない。当たり前だがハンターなんて基本的に心配されるものだ。
それでも無事を祈って見送るのが常である。
そうして彼らは入ってきた時同様、静かに部屋を出て行った。
「ん……なんだ、皆来てたんだ」
そんな一連の会話が聞こえたからか、ルナが目を覚ました。
「あ、ルナ。おはよ」
「おはよ。起こしちゃったかな」
「んにゃ、あたしは別に疲れてないし」
起こしてしまったかとセシリアとリリーナは少し申し訳なさそうだが、ただお昼寝していただけのルナは軽く答える。
「シアちゃんは大丈夫そう? 見た感じは問題無さそうだけど……」
「あたしだって分かんないけど、多分大丈夫じゃないかな。頑張って癒したし」
普段以上に強く長く治癒魔法を使ったのもあるが、状態が良くなければそもそもルナは寝ていられないだろう。
「相変わらずなんだね。ルナが居てくれて良かったよ」
以前自分で言っていた様に、常日頃からシアの体調を意識して癒しているルナは流石だ。
そんな彼女にリリーナは感心している。
治癒魔法に適性のある人は比較的少ない。
無償且つ頻繁に癒してくれる人なんて、それこそ殆ど居ないだろう。
なにせ病院に行き仕事として診てもらうのが普通なのだ。
つまりシアは相当な贅沢をしている訳である。
「それなんだけどさ。シアに治癒魔法を使いまくるのは止めた方が良いかもしれない」
「え、なんで?」
しかしそんな話にリアーネは口を挟んだ。
ずっと当たり前にやっていた事を止めろと言われ、ルナは驚いて聞き返す。
「あいつらも言ってただろう? この子は体が弱いって事を忘れるくらい元気だ。普通、体が弱ければあんなに元気に振舞えない」
体が弱いなら弱いなりの生活をするだろうに、そんな気が全く無い。
何故ならルナがその都度癒してくれるからだ。
そもそも昔から限界まで活動して寝てを繰り返していたのだ。
ある意味、体と乖離した心からなる性格の所為とも言える。
「ルナが助けてくれるからって、それに甘えて元気一杯ってこと?」
リリーナはあえてきっぱりと言い直した言葉で確認するが、まさにその通りだ。
疲れ果てても、体調を崩しても、常にルナが助けてくれる事に甘え慣れ切っている。
もっと悪い言い方をするなら、シアはルナに依存している。
精神的にもそういった面が無いとは言えないが、身体的な意味では確実だろう。
「ああ。なにせ私達だって、この子がどれくらい体が弱いのか知らないじゃないか。気にせず過ごしてきたけど……ルナの魔法がある事を当たり前に考えちゃダメだ」
ルナ以外に誰もシアの体の弱さを詳しく知らない。
目に見えてそういった事が無かったから気にせずに済んでいたが、それがそもそもおかしかったのだ。
ちょっと疲れを癒すだとか、軽い怪我を治すだとか、その程度は適性が無くとも誰でも出来る。
しかし高いレベルの治癒魔法を常に、なんてまずあり得ない話だ。
「……そっか、あたし過保護だったのかな」
誰も反論する余地が無い。ルナは自分のしてきた事を振り返ってしょんぼり呟く。
「勘違いしないでね。ルナのその気持ちは何も間違ってないし、事実シアは助けられてきた筈だ。ただそれを少し……本当に必要な時以外は控えた方が良いかも、って話だ」
勿論ルナを責める気なんて無く、リアーネはしっかりフォローしてあげる。
「うん……確かにずっとそんな事してたら、シアの体にも良くないかも」
魔法に依存した体と言われると良い想像は出来ない。
改善しようとシア本人が意識し始めたのだし、合わせて魔法を抑えて体を本来の有り方に戻すべきだろう。
「回復してくれるのが当たり前だったら、体は勝手にそういうものだと認識してるかもね。体は強くならなくて、いつまでも弱いまま変わらないかも……」
外部の力ですぐ回復される事に慣れた体は、シアの意識と関係無くそれが当たり前だと覚えてしまう。
筋肉だって負担を受けて成長するし、使わなければ衰える。必要無ければ強くはならない……それと同じ事だ。
常に回復される体は『改善する必要性』を感じてくれない。
「まぁ、調べたり聞いた事は無いから分からないけどね。ただ、恐らく正しいんじゃないかと思うよ」
リアーネの話は推測だったが、まさしくそれは正しかった。
多少専門的な知識なのでこの場では誰も知らないだけである。
そしてシアが頻繁に魔法で癒される事を知っているのもまた、この場に居る彼女達だけだった。
恐らく団長達が聞いたならすぐに止めさせていただろう。
「分かった。ちょっと気を付けてみる」
そう言って話を纏めたリアーネに、ルナは素直に頷く。
貧弱なシアにはつらいだろうが、これからは控えめにする事に決めた。
それが彼女の為になるなら……と。




