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愛されクソ雑魚TSエルフが紡ぐ異世界シンフォニー  作者: 桜寝子
第1部 第2章 秘めるモノ
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第27話 たった1人の違うモノ

 団長室にシアを運び、改めて体調の確認をしている所でシアが訊ねた。


「そういえば……ダリルさん、結局何か分かった?」


 彼が散々調べて考えていた事。このままでは聞きそびれてしまいそうだと思ったらしい。


「ああ、けど……今か? まぁ聞きたいならいいか」


 ダリルとしてはわざわざこんな状態で聞かせるよりも、今は寝て休んでもらって次の機会にと思っていた。

 まぁ本人が聞きたいと言っているのだから構わないだろう。


「そうだな……まず、君の障壁は魔力障壁ではない。そもそも魔力じゃなく、属性エネルギーだ」


 そうして真面目な顔になり、ゆっくりと口を開いた。


「だから意思のままに動かし形作れる。水や氷、地属性の魔法だってそうだろう? つまり、君のそれは属性魔法だ」


 魔力障壁の進化だと思っていたが、それは間違い。属性魔法なのだと言う。


「え? でも私は適性が……」


 魔法を学んだあの日に何回も調べたのだ。それにどの属性にも合わない。

 流石に理解が出来ず、思わず否定の言葉を洩らす。


「違う。適性が無かったのは既存の7つだ。君の適性は――新しい8つ目の属性だったんだ。そうとしか考えられない」


 それは本来この世界に無かった属性。気付かなかったのも無理はない。


「嘘!? あたしそんなとんでもない事に気付かなかったの!?」


 むしろ精霊がずっと見てきて気付かなかったのが不思議なものだ。


 しかしルナは異世界から生まれ変わった事を先に聞き、後から適性と障壁の説明をされた。

 そしてそもそも魂に違和感があったから興味を持ったのだ。

 シアは普通ではない。その先入観故の思い込みだった。


 まぁつまり、あまり深く考えないお馬鹿だったという事だ。


「きっと俺以外が調べても同じ結論を出すだろうよ。前例が無い以上、確証は無いが……確信はある」


 恐らくルナの様な先入観を持たずにじっくりと調べたなら、ある程度知識があれば辿り着く結論であった。


「これは凄い発見だ。まさか新たな属性が見つかるなんてな。誰とも違う特別な存在だ」


 ダリルは語りながら興奮が戻ってきてしまったらしいが、それも仕方ないだろう。

 彼の様な研究者気質な者がとんでもない発見をすれば、落ち着けと言う方が無理だ。


「新しい属性……私だけ……?」


 シアは全く予想もしていなかった答えを示されて困惑している。


 誰とも違う――自分だけが違う。

 それはきっと、違う世界から生まれ変わったから。

 本来この世界に存在するべきモノではなかったから。


「ただまぁ、途轍もない発見ではあるが……この事は公にするべきでは無いな」


 ダリルは興奮しつつも、それを公開したらどうなるのかを冷静に考えていた。

 新たな発見なんて、良い事にも悪い事にもなるのだから。


「それでシアに注目が集まったり、調査だ研究だと面倒な事に巻き込まれるのも可哀想だ。世界でただ1人違う属性を持つ特別な子なんて……どんな扱いになるか」


「まともな生活には戻れないでしょうね……周囲の信頼の置ける間でだけ共有して隠すべきかと」


 たった1人の新たな属性。たった1人の研究対象。たった1人の特別な存在。

 あまり良い想像は出来ないだろう。

 驚いていたセシルも再起動して賛同している。


 秘密にした所で変わらず世界は今まで通り動くのだ。

 悪い想像ばかりなら、隠すという選択肢は無難だろう。


「今度皆を集めて話すか。シア、その力……あまり人前で使わない方が良いかもしれないな」


「えっ……? そう、なんだ……」


 呆けていた所に声を掛けられて、シアは意識を戻した。

 別に聞いていなかった訳ではないが余計な事を考えてしまっている。


「流石に大丈夫じゃないですかね? ダリルさんでもじっくり調べなきゃ分からなかったんですし、今まで通り魔力障壁と言い張った方がよっぽど信じられます」


「それもそうか。まぁとにかく、そういう意識でいるようにな」


 言われてダリル自身、調べるまでは魔力障壁なのだと受け入れていた事を思い出した。

 むやみやたらに使わず、気にする人が居れば調べさせずに嘘の説明をすればいい。


「う、うん。分かった……」


 シアはぼーっとしているが、一応聞いて理解は出来ているらしい。


「ともかく今はゆっくり休んだ方が良いよ」


「ああ、流石に混乱するだろうが……今は寝てしまえ」


 シアが単純に驚いて混乱していると思っている2人は気遣う。

 混乱しているのは確かだが、それは彼らが思っている様な物ではなかった。


「……うん」


 シアはソファに座ったまま、寝ようとはしない。俯いたまま何かをずっと考えている。


「じゃあ……すまないが俺達は行くぞ。ここで休んでる事と、それっぽい理由を伝えなきゃならん」


「あたしが居るし大丈夫。シアは任せて」


 シアの事をリアーネにどうにかこうにか上手く説明しなければならない。

 ついでに団長にも部屋を使っている理由を伝えなければならないだろう。


 心配と不安が大きいが、シアの事はルナに任せて2人は部屋を出た。


 彼らが出て行った後もシアは未だに呆けている。

 自分の力について理解が進んだ喜びなんて無い。


 グルグルと纏まらない思考の中で、暗い感情に飲み込まれつつあった。


「私だけ、誰とも違う。……私だけ、違う存在」


 自分がこの世界の人とは根本的に違う異分子だと、改めて理解した衝撃は大きかった。


「私はこの世界の人とは違う、紛れ込んだだけの……世界の、異物……」


 俯き、ブツブツと声を漏らす。混乱の中で嫌な考えが渦巻く。

 自分は一体なんなのか、それが分かっているから。


 自分がただ異常で、周りと違う存在だと思い知ってしまった。

 そんな飛躍した考えが滲み出てくる。


 それはきっと――ずっと、彼女がこの世界に生まれた時からあった心。

 異世界という記憶があるからこそ無意識に作ってしまっていた、彼女と世界を隔てる壁。

 心の奥、最も深い所に秘めたモノ。


「シア……違うよ」


 その呟きを聞いて何を考えているのか察したルナは、シアの正面に回り……細く小さな首元へ抱き着く。

 そして顔と顔が触れる程の距離で優しく声を掛けた。


「ね、シアはシアだよ。確かに、この世界からすればちょっと違うんだろうけど……今ここに居るシアはあたしの親友でしょ。それは変わらないよ」


 どんな言葉を伝えればいいのか分からない。けれど黙っていられる筈が無かった。


「違う世界だとか、前世がどうとか……そういうのも全部含めてのシアでしょ。自分を異物だなんて言わないで。そんな事思わないで。むしろ超特別な凄い女の子じゃん、誇りなよっ……」


 今シアの手を取って引き上げなければ、きっととても深い暗闇に落ちてしまう。大きな壁が出来てしまう。

 そんな予感がした。だから思いつくままに言葉を重ねていく。


「ルナ……」


 暗い感情の渦に飲み込まれかけたシアは、そんな必死な親友の言葉で立ち止まれた。


「あたしは別に頭良くないし、良い言葉なんて思いつかないけどさ。友達だもん。一緒に楽しんで幸せを見つけるんだもん。シアがシアだからあたしは親友になったの。だから一緒に居るのっ」


 どうにかしなくちゃ、何か言わなきゃ……と、ルナまで混乱してしまう。

 自分が何を言っているのかも分からないまま、心のままに伝える。


 だからこそ、そんなルナの気持ちはしっかりとシアへ届いていた。


「普通じゃないから何さっ。そんなの考えないでいいんだよ……ここに居るんだから、同じでいいんだよっ……」


「……うん」


 涙目になりながら言い切ったルナを抱きしめた。

 小さなシアよりずっと小さなルナだけど、何よりも大きな存在だ。


「ありがと……」


 シアが絞り出した言葉は感謝だった。何に対してかなんて語るまでもない。


 いつも、何度でも救ってくれるルナへの気持ちは言葉にするのは難しい。

 だけどそれで伝わってくれる。今度は泣かなかった。


 つい数日前にも同じ様な事をした。余計な事を考えた。

 内容も原因も違えど……あの時学んだ筈なのにまた繰り返した。


 諭されたらすぐ分かるのに、あっさり解決するのに。

 そんな事でしかないのにどうしても考えてしまう。


 何が心は大人だと言うのか。学ばない子供そのものじゃないか。

 そんな自分を戒める言葉を胸に刻む。


 だけど今度こそ、もう大丈夫。

 子供なら子供らしく、少しずつでも学んで成長していけば良いだけだ。


「やっぱり馬鹿だよ……もう寝よ。疲れたでしょ?」


「うん……疲れた」


「寝て起きたって、変わらず隣に居るから……安心しなよ」


「うん……」


 ごちゃごちゃで纏まらない心だったのに、釣られて同じくめちゃくちゃになった心で救われた。


 ルナを抱いたまま、シアはソファに寝転ぶ。

 お互い温かいのだろう、揃って柔らかい表情だ。



 やっぱりルナは『月』だ。いつもずっと傍に居る。

 時々ふらっと何処かに行くけど……いつも居てくれる。

 優しく隣で照らしてくれる。


 全部含めて自分で――今ここに居る自分を受け入れよう。

 傍にいる彼女が受け入れてくれているのだから。


 そんな事を思いながら、眠る彼女は安らかだった。

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