第25話 魔法の世界で銃は……微妙
準備を済ませたシア達はギルドへと向かった。
どちらからか、自然とリアーネと手を繋いで歩く姿は最早何も言うまい。
「やあ団長さん、来たよ」
「おう、すまんな、急に呼んだりして……ん? 嬢ちゃん達も来たのか」
ギルドへ着くと入口に団長が立っていた。暇そうだ。
今は待つだけで何もする事が無いのだろう。
「こんにちは。色々見せてくれるって言うから……来ちゃった。邪魔だったら帰るから」
「まぁ……うん、良いか」
部外者なのに昨日の今日でまたギルドに来た事に、今更ながら気まずくなったらしい。
それでも団長は許可してくれた。やはり甘い。
「さて、早速だけど……具体的な予定は決まってるの?」
当然中は昨日よりも騒がしい。邪魔にならない様に隅の方へ行きリアーネが口を開いた。
まずはどれくらい時間があるのか知らなければ仕事もしづらい。
「まだ俺らも帰ってきたばかりだから……まぁ結構余裕はある感じだ」
聞かれた団長は軽く答えた。
ほぼ未定らしいが、追跡が出来て戦力もあるのだから終わりは見えている。数時間は準備と休息に使える筈だ。
「そっちの部屋に物は集めてあるし、大掛かりな物は庭だ。何をどうしたか後で報告してくれれば、その分報酬を払う」
信頼があるからか、仕事なのに随分軽いやり取りだ。
リアーネを呼んだのは頼み易いからだが、シアを見る為に仕事を減らしている彼女への援助でもある。
仕事としてお金を渡すなら後腐れも無いからだろう。
ちなみに大掛かりな物、というのは鎖を射出して絡め捕る魔道具だ。
大きく重い故に、調査の時点では邪魔なので置いて行った。
引き摺り降ろせずとも捕縛出来れば有利になる。戦いづらい場所でも連携すればそれが可能なので各隊で用意するのだ。
「了解、予定は決まったら教えてくれ。さ、じゃあ行こうか」
「はーい」
「一体どんな面白い物があるかな~」
リアーネは言われた部屋へ向かい、素直に付いて行く2人は何が見れるかとワクワクしている。
団長は暇らしいが、人の仕事に同行はしないようだ。
「さーて……何から見ていこうか。とりあえずさっき話してたマーキングからかな」
いくつもの魔道具が並ぶ中から、先の話題にあったマーキングとやらを手に取り話し始める。
時間に余裕があると聞いて、仕事を後回しにして紹介するつもりらしい。
「わお」
それはまるで中折れ式のリボルバーの様な、まさに拳銃といった形だったのでシアは驚いた。
しかし火薬は使わない。火と風の魔法を使って飛ばす物だ。
「これは小さな魔石を撃ち出すんだ。で、魔力で追跡用の紋を刻む……そうすると対象の位置を大雑把に把握出来る。半日くらいで魔力が霧散してしまうけどね」
「へぇ~……このコンパスが追跡するやつ?」
「そう、針の先の魔石が対象の方向を指してくれる。ただ、上下は指せないから分かりづらい時もあるらしい」
反応出来る距離に制限があり、針は上下に振れず、マーキングの方と決まったセットで使う必要があるのは不便な所だ。
それでも追跡が出来るのは充分効果的である。
ちなみに弾を撃てば以前の効果は切れるので、外して地面をマーキングしてしまっても問題は無い。
「ねぇねぇ、これは? 同じ様な形してるけど別だよね?」
ルナが近くにあった似た形の物を指差しながら聞く。
「それは銃だね。単純に攻撃用だ。中に作られる石を弾にして強烈に飛ばすんだ」
今度こそ銃が出てきた。装飾こそあれど形は単純で、地球の物で言うと中世の頃の形に近いか。
弾はただの硬い石だが、魔石に組み込んだ魔法で作られ装填する手間が無い。なので余計な機構も無い形になっている。
ただし地球の銃と比べれば威力と射程に劣るだろう。
金属を作る事も可能だが、そのレベルの魔法は複雑故に大きな魔道具になってしまうのだ。
「はぇー……これで攻撃するのか。え、でも魔法で良くない?」
ルナは面白そうに眺めていたが、存在意義を疑う質問をする。
魔法は威力も範囲も使い方も意思次第なのだから、その感想は至極当然だった。
「それはそうなんだけど……魔法が苦手な人は居るし、使えない場面もある。そもそも魔力は節約するのが基本らしいからね」
人により向き不向きがあるし、敵や周囲の環境が攻撃手段と相性が悪いなんて良くある事だ。
例えば森の中で火の魔法は極力使いたくないが、そうなると適性が火の場合は手段が減る。
ならば武器が重要という事で、選択肢として銃があるだけだ。
そして魔力は常に余力を残さなければならない。
日にどれくらい戦うかなんて分からないし、使い過ぎは命に係わる。
素早い回復手段なんて、残念ながらゲームの様にお手軽では無いのだ。
「まぁ、弓の方がよっぽど多く使われてるんだけどね」
しかしそれでも銃を使う人は少ない。
身体強化で相当強い弓が引けるし、嵩張る代わりに魔石を鏃にした特殊な矢も使える……と、結果的に弓の方が利点が多いからだ。
魔石とは存外脆い物であり、銃の弾としては使えない。マーキングの方は威力が必要無いからどうにか出来ているだけである。
まぁつまり、この世界の銃はなかなか可哀想な立場という事だ。
「なるほどねー……面白いなぁ」
そんな微妙に立場の無い武器も、今まで魔道具に触れてこなかったルナには興味深い物らしい。
「……私って銃持てば良いんじゃない?」
「おおっ、確かに!」
唐突にシアがなにやら言い出した。
これなら貴重な攻撃手段が得られると考えたのだろう。適性が無く武器も振り回せない貧弱な彼女にとっては是非とも欲しい所……か?
ルナも嬉しそうに賛同している。シアが悩んできたのはよくよく知っているのだ。
なので……と言っていいのか、庭で銃の試射をする事になった。我儘放題である。
勿論、何を馬鹿な事を言っているのかとリアーネは説教と共に反対した。
しかしなんだか必死な2人に押し負けて、1発だけと許可してしまったのだ。
大人としては絶対に止めなければいけないのに、甘やかしが悪く出たらしい。
とは言え、身体強化をすればシアでも撃つ事は出来る。
強化の負担も極短時間なら大丈夫だろうし、壁で囲んだ場所に向ければ事故も無い。
つまり最悪の事態はほぼ起こらないと言えてしまった。
その結果――
「くぅぅ……ぬぅぁああ……」
予想以上に強い反動で無様に転がった。
地面にぶつけたのか頭を抱え膝を丸めて悶えているが自業自得だ。
勝手を言って我儘を通し、勝手に分からされている辺り本当に馬鹿なのだろう。
「1回撃っただけでひっくり返るなんて……全然ダメじゃん」
賛同していたルナさえも呆れている。
「言った通りだったろう? いくら強化したって、小さくて軽いシアじゃ無理だ。身の程を知りなさい」
リアーネは少なくとも事故は無いと判断して、無理だと体に教える事にしたようだ。
危険で馬鹿な真似をさせてしまった……と内心で自分を責めつつも、それは一旦棚に上げて改めてお説教をしている。
「はい……ごめんなさい……」
何も言い返せず転がったまま謝る。痛みとお説教、どっちの所為か分からないが涙目だ。
「分かったならいい。あと……とりあえず下着は隠しなさい」
なんにせよ事故も無く理解してくれたのなら良かった。
打った頭はまぁ、問題無いだろう。中身は問題かもしれないが。
ついでにひっくり返って丸見えになっている下着も注意しておく。
やたら無防備で自覚の薄いシアにはそこも教えなければならないのだ。別の意味でリアーネも頭を抱えている。
「あぅ……」
シアは自分がどう見られるかをさっぱり分かっていない。
注意されて今更気付いたらしく、サッと隠して顔を赤くした。自覚は薄くても羞恥心はしっかりあるらしい。
リアーネは落ちている銃を拾いながら、ついでに囲った土壁も崩して平らな地面へ戻していく。安全の為の壁は彼女が魔法で作ってくれたのだ。
「はぁ……危ない事してごめんなさい」
ようやく体を起こしたシアは、改めてしっかりと謝った。
「もう良いよ。私も批難されて当然の事をさせたんだ。万が一を考えたら怒ってでも止めなきゃならないのに――ごめんね」
するとリアーネも真面目な顔で謝る。
批難で済めば良いくらいで、事故の可能性を考えれば絶対にやってはいけない事。
大人失格だ、なんてかなりの自責になってしまっている。
シアもルナもそんな彼女を見て言葉を詰まらせた。
我儘を言った自分達の所為だと、申し訳なさそうに俯いている。
どうにもしょんぼりした空気になってしまったが、そこへ声が掛かる。
「よう、リアーネ。シア達も来てるって聞いたから気になって来たけど、何してたんだ?」
「こんにちは、リアーネ。シアちゃん達も数日振りだね」
ダリルとセシルだ。彼らもやはり暇だったのだろう。
良い所に来てくれたものだ。この微妙な空気を変えてくれるだろう。
「うへぇあ!? あ、いやっ……せっかくだから2人に色々と魔道具を見せてやろうと思ってね……今はその……銃を試しに撃った所だ」
リアーネは驚き慌てた。まさかシアに銃を撃たせた所を見られてやしないかと、しどろもどろに説明する。
幸いにも彼らは何も見ていなかったらしく、よく分からない反応をされて不思議そうに首を傾げるだけだった。
「こんにちは、ダリルさん、セシルさん」
「おー、2人は休憩って感じ? 準備が出来るまで待つんだもんね」
シアは礼儀正しく、ルナは気安く挨拶。
彼らも軽く挨拶を返して、もう一度様子のおかしいリアーネに向き直った。
「で、魔道具を見せるのは良いが……仕事は?」
そしてダリルの鋭い言葉が突き刺さる。
何をしていたかはともかく、仕事を後回しにしている事は見抜かれているらしい。
「いや、その……これで一旦仕事に戻ろうかと……ちょうど良いし、この子達を任せて良いかな?」
「ああ、じゃあそうするか。俺らも後でやいやい言いたくないしな」
時間があると言っても仕事を放置しているのはマズイと思い直したようだ。
彼らもそういう事ならと快く受け入れた。親しいだけに仕事で不備なんてお互い嫌なのは確かだ。
「という訳で、急で悪いけど……私は先に仕事を終わらせてしまうから、しばらくはこの2人と一緒に居てくれ」
「全然良いよ。邪魔したくなんか無いし」
「そうそう、むしろ時間使わせちゃった側だしさ」
慌てっぱなしのリアーネは申し訳なさそうに伝える。
シア達も流石に理解しているので、仕事を優先するのは当然だと返して見送った。
そもそも先に仕事を終わらせてからにすれば良かった。
しかしそれはリアーネが気取らずに素で接しているからこその過ちだった。
大人としてなんて無理な振舞をせず、自然とシアと向き合おうとしているからこそ、彼女本来の未熟な部分が出てきたのだろう。
今この瞬間だけを見なければ、むしろ良い事かもしれない。




