第24話 秘める少女
一方その頃、シア達はと言うと……ようやくお目覚めである。
ルナはちゃんと朝に起きていたが、やる事も無く二度寝していた。
グリフォンの件が気になってはいるものの、結局どうしようも無いからのんびりしているのだろう。
リアーネがお昼ご飯を作っており、のそのそとリビングに入ってきたシアを見て顔を綻ばせる。
「おや、おはよう」
「ん……おはよ」
この家で暮らし始めてもう一週間になる。
既にシアがどういう子なのか分かっており、寝ぼけたシアへ特に何か言う事は無い。
シアも子供らしく砕けた態度に変わっている。本当にあっという間に馴染んでいっているようだ。
「そろそろ出来るから、ちょっとだけ待っててくれ」
「うん、ありがと」
大人しく座って待つらしい。お世話になっているし料理の手伝いくらいは、なんて考えていたのにこれだ。
しかしシアだって真面目に手伝いたいと考えている。
彼女が何かしようとしても、気を遣おうとしているのが分かるのか皆遠慮して手伝わせないのだ。
同い年のリーリアは手伝っているというのに甘々な事だ。
なのでシアは、今は甘える事が皆の望んでいる事なのだろう、と受け入れているだけである。
「今日はどうする?」
「んー……皆大変なのに呑気に遊んでるのもなぁ」
ルナが問いかけるが、シアはなんだか気乗りしないようだ。
「気にし過ぎだよ。今日も朝から討伐隊が出てるんだし、きっとそろそろ片が付く頃だろうさ」
また子供らしくなく余計な事を考えていると思ったリアーネは口を出す。
子供を安心させるのが大人だと考えるからこそだろう。
しかしそんな彼女だが、両親が家を出ているから大人らしくあろうとしているだけ……根っこは未だ未熟だった。
「だといいんだけど……」
原因が自分達にある以上はどうしても罪悪感がある。
それこそどうしようもないのだと分かってはいても……
「ん? ……なんだ?」
料理が出来て皿へ盛り付けていたリアーネが声を上げる。
シア達も何だろうと思い、窓を開ける彼女を見る。その手には鳥型の魔道具があった。
「何それ?」
「連絡を取り合う魔道具だよ。私もあんまり知らないけど……」
見た事が無いらしいルナへとりあえずシアが教えるが、具体的な説明は出来なかった。
前世のスマホを知っているシアからすれば、映像どころか声すら届けられないこれはあまり興味が湧かないのかもしれない。
ちなみに写真は存在しているが、一般人の手元まではあまり普及していない。
「おぉー……そんな物があるんだ」
「大した物は運べないけどね。でも速いから色んな所で使われているんだ」
普通の手紙を送り合うよりもずっと便利だが、問題もいくつかある。
距離が遠過ぎる場合は使えず、送れるのは小さな物のみ。しかも場所を特定する為に専用の魔道具が必要になる。
魔法があっても地球の電子メールの様にはいかないらしい。
意外とままならないモノなのだ。
「何かお仕事?」
「うーん……仕事と言えば仕事だねぇ」
シアに聞かれたリアーネは曖昧な答えを返した。
よく分からないので、シアとルナは揃って首を傾げる。
「どうやら討伐隊がグリフォンと遭遇したけど、場所が悪くてマーキングして帰ってきたらしいんだ。準備したらもう一度討伐に出るんだとさ」
届いたのは団長からの手紙で、どうやら先の件を伝えたようだが……彼女にわざわざ連絡する理由とはなんだろうか。
「マーキング?」
「それは私も知らない」
マーキングという言葉が気になったルナがシアを見るが、残念ながら知らなかった。
「まぁとにかく……色々と魔道具が要るから、私に手伝ってくれって話だ」
話の途中だったのでリアーネはルナの質問を流して続ける。
何を隠そうリアーネの仕事とは、魔道具の製作、点検、修理を行う技師と呼ばれる物なのだ。
「これでもそれなりに優秀な技師のつもりだからね。この街でならギリギリ5本の指に入る自信はある」
「リアーネさんってそんなに凄い人だったんだ…」
そして実はかなり評価されているらしい。
技師は知識と技術が問われる難しい職だ。まだまだ若いのだから誇って当然かもしれない。
「ふふっ、見直したかい?」
「うん、魔道具はあんまり分からないけど尊敬する」
ちゃっかり自分をアピールしている辺り、まだ姉としての立場というのを狙っているらしい。
専門的な知識と技術を有する事をシアは素直に尊敬した。
そんな眼差しを受けてリアーネは満足気だ。
「じゃあ分からない魔道具はリアーネに聞けば良いんだね」
いまいち凄さが分かっていないルナだが、魔道具の専門家が目の前に居るという事だけは理解した。
「そうだね、大抵の質問には答えられると思うよ。マーキングも魔道具だから、後で教えてあげよう」
まだまだポイント稼ぎかの様に自慢気に答える。
立派な大人然としているが、なんだかんだ彼女も子供らしい面があるらしい。
「え? でもお仕事なんじゃ……」
「ギルドへ行って必要な魔道具の調整ってだけさ。ご飯を食べたら一緒に行こうか」
「いいの……?」
予想外のお誘いに流石の2人も及び腰。
お世話になっているのに仕事の邪魔なんて絶対にしてはいけない、と意識しているのだ。
リアーネが技師だという事さえ知らなかった程には、きっちり距離を取っていたらしい。
「良い機会だしね。それにリリーナとセシリアも一旦戻ってくるよ」
姉としては先の自慢やら尊敬された事で、もっと見て知ってほしいと思ったのだろう。
ついでに2人も戻ってくると伝えてあげる。
「えっ、なんで……?」
「討伐隊以外がグリフォンと接触したら面倒だから、殆どの人を戻すんだってさ」
「そ、そっか。良かった……」
まさか討伐隊に入っていたのかと一瞬考えたが、すぐに納得した。
紛らわしい言い方をしたとリアーネは謝り、もう一度確認で訊ねる。
「まぁそんな訳だけど……どうする?」
「行く」
即答だ。聞くまでも無かったかもしれない。
「決まりだ。じゃあ、ご飯食べて出かけようか」
「うん!」
素直に嬉しそうに返事を返すシアは年相応の子供にしか見えない。
そしてご飯を食べ始めるが……何を慌てているのやら、ガツガツとはしたないがやたら元気だ。
勢いは良いが一口が小さいので、なんとも言えない小動物さが漂う。
「ゆっくり食べなさい」
リアーネは優しい目で眺めていたが食べ方には注意をした。
口元も一気に汚れてしまったので拭いてあげる。
「んぐっ……ん。あい」
「子供だなぁ……」
注意をされシアは恥ずかしそうに返事をして大人しくなった。
本当に中身はどうなってしまったのやら……と、ルナは呆れると同時に心配もしている。
この幼い言動を、本人は演技に慣れて自然になったと考えているが、それはただの思い込み。
彼女がそうしたいと望んだからだ。
見た目通りの言動をする事で可愛がられ、愛される事を望んだ結果だ。
それを幸せと感じたからだ。
それは過去、両親に可愛がられていた頃からそうだった。
しかしルナが知るシアはそんな姿ではない。
全てを失って曝け出された彼女の本質、【彼】だったのだ。
きっと中身を打ち明けた事も大きく影響していただろう。
そして今は【彼】を含めての【エリンシア】へと、改めて変化していく途中……と言えばいいか。
こうしてまた愛される様になった今、彼女には新たな願いがある。
今度こそ幸せになりたい、もう失いたくない、もっと愛されたい。
そんな心を無意識に表に出している故の子供らしさ――幼い言動だ。
そしてそんな心の更に奥……まだ誰も、やはり本人さえも気付かない暗い感情が眠っている。
秘めるモノがやたらと多い子だが、それだけ複雑な存在という事。
大人か子供か、男か女か。
複雑だが全て含めての、シアという少女なのだ。
なんにせよハッキリしない奴である。




