第23話 狩人、平野を行く
東のアドラー山脈、その麓をとある集団が進む。
ヴィクター、フェリクス、セシル、ダリルと……先日のマーカス、その筋肉仲間のアインとグエンの7人だ。
ヒュムが4人、エルフが1人、筋肉仲間の2人はアニムという種族。
ヒュムは最も数が多く、あらゆる面で平均的と基準にされる――地球で言う人間だ。
エルフは魔法に優れ、分かりやすい特徴としては耳が尖っている。
華奢だが生命力は強く、そのお陰かちょっとだけ長生きだ。
アニムとは『化身』という能力を持つ種族を纏めて指す名前だ。
肉体を動物的な物へ変え、身体能力を大きく高める事が出来る。
特徴で細かく分かれ、アインは獣人族、グエンは有角族という分類になる。
獣人族は獣の耳と尾を持ち、ヒュムより身体的に優れているが魔法は劣ってしまう。
有角族は頭に角を生やし屈強な体だ。身体的な強さでは頭抜けているが、魔法はだいぶ不得手である。
どちらも変態筋肉ギルドだけあって、やはり物凄い体で半裸だ。
戦いすら半裸で臨む彼らはどうかしているが、元より回避か魔力障壁で護るので問題は無い。ある意味問題ではあるのだが。
一応それらしい理由を語るなら、アニムは化身で体格が変わる為に軽装である事が多い。ヒュムであるマーカスには当てはまらないけれど。
さて、紹介はともかく今はグリフォンの捜索中である。
昨日あの後すぐに調査がされたが上手く進まなかった。
なにせグリフォンは空を飛ぶのだから、分かりやすい痕跡なんて殆ど無い。
そして今日も朝早くから捜索に出ているが、現状見つかった痕跡はたった1つだ。
「おっと、見ろ。ゴブリンの住処が襲われたようだな」
先頭を進む団長が声を上げる。
見つけたのはゴブリンの住処跡だ。乾いた血や肉片、いくつか死体も転がっている。
酷い光景だが見慣れたものだ。自分達でもこういった惨状を作り出すのだから。
ただしそういう時はちゃんと後始末をする。
ハンターは当たり前に命を奪うが、それを軽く捉えてはいないのだ。
「ふむ……間違いなくグリフォンだな」
「ようやく痕跡を見つけられたか。晴れが続いていて良かったな」
争った跡や地面を調べていたダリルが答えを出すと、フェリクスもひとまずは多少の安心を見せた。
「とりあえず報告を……っと、なんだ? 他の隊も何か見つけたのか?」
すると団長の元へ鳥の様な物が飛んできた。
小型且つ魔法で素早く飛ぶ便利な魔道具で、主に連絡用に使われている。
「南で真新しい痕跡を発見、だとよ」
とりあえず受け取った情報を共有する為、団長は皆に伝えた。
「これで西以外で見つかった訳か。やはり広範囲だな」
先立って北の隊からも報告が届いている。どうやら街の北東から南東にかけて動いているらしい。
「南が真新しいってなら、俺達も向かうか?」
「そうした方が良さそうだ。おい、移動するぞ」
マーカスの意見に団長も賛同して声を上げた。
結局は更なる情報を集めるか、偶然出会う事を期待して動くだけだ。
広範囲で空を移動する者を追うのは簡単ではない。
アニムの中には翼を持つ有翼族が居るが……残念ながら実力不足で討伐隊には居ない。
飛べるという利点の代償か、身体能力は低く風属性にしか適性を持たないのだ。
同じく飛べて風を操るグリフォンに引き合わせるのは厳しいだろうという判断だった。
ひとまず連絡を回し、東を探索していた彼らはそのまま南下する事にした。
道中、筋肉ギルドの3人は歩きながら意気込む。
決して敵を侮っている訳では無いが、自分達ならやれるという自信があるのだ。
そんな全く臆する事の無い筋肉達に、グリフォンとの戦闘経験が無いセシルは軽く引きながらも尊敬の目を向けた。
「グリフォンだって特別珍しくねぇからな。頻繁に戦う事は無いけども」
「お前を連れてきたのはその経験をさせる為だ。無茶する必要は無いが、よく見て覚えろよ」
団長とフェリクスはそんなセシルに語る。
実力が足りなくて脚を引っ張ろうが、それすらも貴重な経験となるだろう。
「当然。自分の実力は分かってるよ。今回はしっかり学ばせて貰うさ」
「それでいい」
返事を聞いたフェリクスは満足そうに頷く。この様子なら戦闘になったとしても大丈夫だろう。
セシルに足りないのは経験だ。そればかりは実戦でしか得られない。
どうしても機会に左右される以上、こういう時こそ糧にしたいものだ。
そうしてしばらく、ムサイ男達が適当な事を語り合いながら……時には魔物と戦いながら南へ進んでいると、大きな影が地面に落ちるのを見た。
「っ!?」
「静かに……」
慌てて空を仰ぐと、視線の先には探していたグリフォン。
そのまま飛んで行き、麓から少し山に入った所へ降下していく。
この機会は逃せない。急ぎつつも慎重に追いかけ森を進み、少し開けた所にグリフォンが見えた。
「あの傷跡……やはり縄張りを奪われたか」
どこかの誰かさん達にそんな気は無かったらしい。
「一体何にやられたのやら」
犯人は見知った小さな少女達だ。
「そんな事より、場所が悪いぞ……どうする?」
ダリルとフェリクスの呟きを流し、マーカスが悔し気に問い掛ける。
開けていても傍には崖、下がれば狭い間隔で乱立する樹木と岩。グリフォン相手ではかなり不利になるだろう。
「戦力的にはイケるんだがな……仕方無い、マーキングだけして全力で逃げるか。街で準備してから確実に獲る」
数秒の逡巡の後、団長は諸々の準備をして再度討伐という考えを示した。
マーキングとは魔道具の1つ――魔力で紋を刻み、半日程の追跡を可能にする物だ。
「それが良さそうだ。奴が追ってきて、状況が良さそうなら迎え撃つ形でいくか?」
「ああ、平地まで追ってくるならな」
その案を受け入れたフェリクスは確認を入れる。
手を出されたなら攻撃してくるのは確実。戦える場所まで釣り出せるなら狩ってしまった方が良い。
しかし強大な魔法生物は知能も高く、馬鹿正直に追ってくるとは思えない。
かなり怒らせれば釣り出せるかもしれないが、それはこの場で戦うのと変わらない。
素直に退却して準備を整えてからの方が確実だ。
ともかく行動開始。他の隊へのんびり連絡している時間も無い。
マーカスを先頭にフェリクスとダリルが退路の確保に行く。
全員が一斉に逃げるのも動き難いし、他の敵の警戒も必要だからだ。
「セシル、撃ってみるか?」
「……そうですね、やってみます」
団長はマーキング用の魔道具を差し出した。
どう見ても銃だ。どうやらこの世界にもそういった物があるらしい。
「外しても焦るなよ。よく狙え……」
深呼吸をして落ち着き、狙いを定める。
それを見てアインとグエンは化身をして構えた。
彼らはその身体能力を活かしての妨害役だ。化身した彼らなら、妨害しつつも無事に逃げ切れるだろう。
「――っ!」
気付かれてしまったが、魔法生物は気配の察知も鋭いので予想の範疇。
セシルは焦燥をなんとか抑え、意外と軽い音と共に魔石を撃ち出しその体に紋を刻んだ。
「よしっ! 逃げるぞ!」
同時に団長が叫ぶ。そして雄叫びを上げ突進してきたグリフォンの妨害へと2人が走った。
「おらぁっ!!」
グエンの化身は二足歩行の牛の様な姿――水牛あたりだろうか。
大斧を下から大きく振るい上げて、地面を抉り石混じりの大量の土を勢い良く飛ばす。
グリフォンは一瞬怯んだものの、翼を羽ばたかせ魔法まで使って突風を起こし土砂を返した。
アインも同様に風を起こして防ぎつつ、虎の様な姿に違わぬ力強く素早い動きで翻弄していく。
「無理はするなよ! セシル、行くぞ!」
「はいっ!」
団長とセシルは2人を後目に駆け出す。当然身体強化をしているのでかなりの速度だ。
しかしグリフォンは手を出したセシルを追おうと、妨害を無視して飛び上がった。
「させるか!」
アインは複数の小石を風を使って弾丸の様に飛ばす。
しかも強化された剛腕で直接投げつけ、更に加速させた物だ。
彼が得意とする風魔法は相手も使うので対抗され易い。
しかし石を飛ばすというのは、ただの風ではなく物理的な攻撃。
そういった利点から風魔法を扱う者によく使われている手法だ。
よく使われるという事は効果も高いという事である。
咄嗟に風で防がれたが、数発被弾し怯んで上空へと距離を取った。
「おしっ!退くぞ!」
「おう!」
それを見て2人は一気に駆け出し皆を追う。化身して更に強化されているだけあって、あっという間に団長達へ追いついた。
このまま逃げられれば良し、追って降りてくるならまた妨害するだけだ。
その後、結果的にもう一度襲ってきたものの逃げ切った。
やはり大人しく平地まで釣られてはくれなかったが、それでも良い。
これで一旦街へ集合し、準備をして再度臨むのだ。
討伐隊以外も戻す事に決めた。
既に刺激している状態で経験の浅い者達が遭遇したら危険だ。面倒を掛けてしまうが、強大な敵の討伐の際はよくある事でもある。
今は昼前。ひとまず街に戻って準備を進めつつ、隊が集合するまで休息を挟む事にした。




