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愛されクソ雑魚TSエルフが紡ぐ異世界シンフォニー  作者: 桜寝子
第1部 第2章 秘めるモノ
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第22話 新しい日常、変化の兆し 3

「おお、そうだった。ここ数ヶ月で亜人が増えてるってのは知ってるよな?」


「当然だ。それがどうした? 別に珍しくも無いだろう」


 マーカスと呼ばれた大男はようやく話を始めた。


 亜人とは魔法が使えない人型に近い生物だ。

 お約束のゴブリンやオーク等多数の種族に別れ、どれも野生的で好戦的。

 しかも結界で阻めないので、ハンターは魔物同様によく戦っている。


「そりゃそうだが、原因が分かったんだ。今日ウチの若い奴らが東でグリフォンを見たらしい。大して離れてない場所だ」


「……なるほど、それで追われて亜人が流れてきたのか」


 グリフォン――主に山深くに生息する、上半身が鷲で下半身がライオンの魔法生物だ。


 魔法生物とは魔法を使い、魔物とも戦っている存在。代表的なものとしてはドラゴンが上げられる。

 種族によって属性は限定的だが、その殆どがとにかく強大だ。


 魔法と魔物。人と共通する物を持つからか、手を出さなければ人を襲わない傾向にある……が、絶対ではない。


「実はミスラでも目撃情報は聞いてたんだ。あそこはもっと山に近いから気にして無かったが……」


「同時期に複数なんて考え難いし、同じ個体か……随分広範囲で動いてるな」


 団長は先日ミスラに行った時に仕事の話もちゃんとしていたらしい。

 山の近くに位置する街では珍しくも無いが、離れたこちらでは話が別だ。

 

「そうだな……これは討伐隊を組んで早々に狩ってしまわないとか」


「グリフォン相手に立ち回れる奴なんて限られてる。少数精鋭でとっとと片付けたい」


 地上でも油断ならない空の強敵とやり合えるのは相応の実力者だけだ。

 しかもまずは調査と追跡が必要になる。


 そんな真面目な話に混ざれる訳も無く、シアとルナはソファで居心地悪そうにしていた。

 いや、むしろ顔色が悪く冷や汗をかいている。


「ねぇ、グリフォンってもしかして……」


「うん……多分アイツ、かも」


 それもその筈。件のグリフォンを彼女達は知っている。

 山で偶然にも遭遇し、それはもう散々な思いをさせられたのだ。


「だよねぇ……時期も合ってるし」


 何があったのかと言うと……初めて見るグリフォンに騒いだシアが襲われた。

 咄嗟に護ったが、攻撃を受けた事でルナが思わず反撃して戦闘開始。


 その場は逃げたものの、シアは急いで大きく移動なんて出来なかった。

 つまり、敵対して縄張りに居座ってしまったのだ。


 そうして何回も襲われ……ようやく痛手を食らわせると山から居なくなった。

 動物的に言えば縄張りを奪われ追い出された様なものだ。


 それが数ヶ月前の事。時期的にも合っているし、同じタイミングで他に山を降りたグリフォンが居るとも思えない。


「私達が山から追い出したから周りの亜人とかを襲ってたんじゃ……」


 重傷を負ったまま他の縄張りを侵す事は出来ず、麓へと追いやられた。

 それが亜人達を追い立てる事に繋がったのだろう。


「……つまり、あたし達の所為?」


「こんなの仕方ない、って言うのも……無責任なのかな」


 こればかりは誰も責められない。それなりの実力者が数人で戦う相手であり、無事だっただけマシだ。


 いくらなんでもルナ1人で倒しきるのは――不可能では無いかもしれないが無謀過ぎる。

 ちなみにシアは攻撃手段が無いので戦力として数えない。


「保護された身で首突っ込むのも違うし……どうしよう」


「あたしだけでも戦いに――」


「そんなのヤダ、何かするなら私も一緒だよ」


 自分達に原因があると考えた2人の罪悪感は大きい。

 この街は既に大切な居場所であり、それを護りたいと思うのは当然だ。


 しかし護られる側が自ら首を突っ込むなんてあり得ないだろう。

 そして大切な人が戦うという不安はこれ以上抱えきれない。彼女の心は未だに不安定だ。


「それ結局何も出来ないじゃん。まぁ、あたし達が何かするまでも無く終わると思うけど」


 なんにせよ街を護る為にハンターが居るのだから問題は無い。

 彼女達の罪悪感は解消されないが、それこそ仕方ない事と諦めるしかない。



 彼女達が小声で話している間に、団長達は話を纏め終わったようだ。


「じゃあ俺は議会とギルドに情報を回す。討伐隊はあまり数が居ても仕方ないし、すぐ決まるだろう」


「おう。なら俺は……そうだな、何人かで調査に行っておこう」


 団長は情報を回して実力者を集め、マーカスは捜索に出るらしい。


 言うが早いか、筋肉は部屋を出て走っていった。

 やはり恰好がおかしいだけで、真面目に街を護ろうとしているのだろう。


「とりあえず、ここに居ても邪魔になるし……帰る?」


「そうだね。色々話したり決める事があるだろうし」


 流石のルナも状況は分かっている。

 最初こそ遊びに来たけれど、好んで迷惑を掛けたい訳ではないのだ。


「まぁ、確かにこれから色々としなきゃならんからな。悪いがそうした方がいいかもしれん」


 団長は彼女達の話が聞こえたのか、申し訳無さそうにシア達に向き直った。

 勝手に職場に来たのはそこの幼女なので謝る必要は無いのだが……


「うん、じゃあ……あ、グリフォンの討伐隊って誰が――」


「心配するな、セシリアとリリーナにはまだ早い。セシルは良い機会だから連れて行きたいがな」


 大人しく帰ろうとしたシアだったが、1つだけ聞いておきたかった。

 彼女の不安そうな表情を見て察したのか、言い切る前に団長は答える。


「良かった……あ、いや。良いのか悪いのかは分からないけど……」


 彼女達はまだまだ未熟という事なのだろう。

 しかし実力不足を喜んだ訳では無いし、他にも危険を冒す者が居るのに安心するのは違うかもと言い淀んだ。


「気にすんな。誰だってそういうもんさ」


 しかし団長はそんな考えも分かっているらしく、気にしないように慰める。


 なにせそれは、身近にハンターが居る者の多くが1度は考える事だ。

 待つ側は無事を祈るしか無いのだから。


「だがまぁ……こっちにある程度人を回す関係で、普段以上に頑張ってもらわなきゃならないだろう」


「なら……何かしてあげたいな」


 慰めつつ誤魔化しようの無い事も伝えた。

 それならとシアは呟く。特に具体的な考えは無いが、原因が自分達と思い込んでいるだけに行動したいのだろう。


「嬢ちゃんが家で迎えてくれるだけでも、充分効果はあると思うがな」


「でも……」


「そうやって『何かしたい』って思うのは良いが、『何かしなきゃ』に変わっちまったら……ダメとは言わんが、何か違うと俺は思うぞ」


 護りたい大切な人が迎えてくれるというのは、その為に戦う者達にとって何よりも意味がある。

 家族に対して何かしなきゃと駆られるのは――きっと彼女達は望まないだろう。


「っ……うん」


 シアは一瞬だけ暗い表情をしたが、すぐに意識を切り替える。

 しんみりした空気を振り切って、もう帰る事を伝えた。話を伸ばして時間を取らせるのも嫌だったのだろう。


「じゃあ……えっと、今度こそ帰るね。――無理しないくらいに頑張って」


 帰るにあたり何か言いたかったが、大した言葉は出てこなかったらしい。なんだそれは。


「ふっ、何年ハンターやってると思ってんだ。なんて事ねぇよ」


 そんなの彼女らは知らない。

 しかしシアを安心させようと笑いながら頭をわしわしと撫でる彼は、団長という名に恥じない頼もしさを感じる。


「ん。ばいばい」


 大人しく撫でられていたシアはお別れを言い団長室を出る。

 そのまま、少しだけ騒がしくなったギルドを出て帰路に就いた。




 そして帰宅後、気を紛らわせる為かルナと慣れ親しんだ鍛錬を始め……疲れて寝た。何故そうなるのか。


 体の改善がどうとか言っていたが、どうやら今は頭からすっぽり抜けているらしい。

 緩い頭だ。ちゃんと締め直した方が良いだろう。


 更にその後、帰宅したリーリアはソファで眠っているシアを見て少しだけ呆れた。


 学校に行く必要が無いとしても、寝てばかりなのは同じ子供の目線から見たらどうなのだろうか。

 もしかしたら一番早くシアの本質に気付くのは彼女かもしれない。


 放置されたシアがお昼寝から目を覚ましたのはリリーナが帰ってくる頃だった。


「あんた……なんで当たり前の様に付いて来てんのよ」


「当たり前だからだよ」


「はぁ……分かるけど意味分かんない」


 まるでセシリアもこの家で暮らしているかの様に並んでいる。

 よく分からない事を言い合う2人をシアが迎えた。


「おかえりなさい!」


「シアちゃん、ただいまー!」


「……ねぇ、あんたの家じゃないんだけど。――シア、ただいま」


 笑顔で迎えてもらえた2人は嬉しそうに挨拶をして着替えに行った。

 セシリアの着替えが常備されている事は気にしなくていいだろう。


 彼女達の反応を見るに、やはり護りたい大切な人が迎えてくれるという事はそれだけで大きな意味があるのは間違い無いだろう。



 その後しばらくしてリアーネも帰ってきた。

 そうしてこの数日で当たり前になっている大勢での食事をして、ちゃんと1人でお風呂に入り、1日が終わる。


 とりあえず家事を手伝える様にならないとなぁ……なんて考えながら、ゆっくりと眠りについたのだった。

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