第21話 新しい日常、変化の兆し 2
「なんか……勢いのある人だね?」
「どうもお前さんに興味があるらしいな。まぁ誰だって気になるんだろうが……もういっそ公言しちまうか?」
こうしてギルドにも顔を出している以上、誰もが気にするのは確かだ。
しかし壮絶な過去をむやみやたらに詳しく説明して回るのも憚れる。
「あー……うん、良いよ。色んな人に聞かれても大変だし……」
「まぁそうなれば遊びに来やすいし良いんじゃない?」
シアは気遣われたり同情されるよりも、聞かれる事の方が嫌なのだろう。
逆にルナは軽い返事だ。どうせ好奇の目で見られるのだから、シアが困らなければそれで良いらしい。
「んじゃ、今度説明しておくか。――ああ、一応言っとくが、常に嬢ちゃんの知り合いが居る訳じゃないからな」
「分かってる。そんな頻繁に来たりしないつもりだけど…」
未だに遊びに来るつもりでいる事へ、一応の忠告だけはしておく。それだけでいいのだろうか?
頻繁には来ないとか言っているが、ギルドの人達に受け入れられたら全く気にしなくなりそうだ。
そんな話をしていればノックも無しに扉が開き、スミアが元気良く戻ってきた。
「はーいエリンシアちゃん、お待たせ!」
随分しっかりとしたお茶とお菓子にケーキまであるが……何故仕事場にこんなにお菓子があったのかは謎である。スミア以外には分からない。
「お前……ノックくらいしろ。というかなんでそんなもんがここに――」
「ごめんなさーい。じゃあエリンシアちゃん、お茶しながら色々お話しよっか」
団長の苦言をサラリと流して、シアの座るソファへ向かった。
「あ、うん。ありがと……お話って何?」
スミアの飄々とした態度にシアはまたもや困惑中。
「ちょっと待て。嬢ちゃんの事情については改めて俺から説明するから、今は聞くな」
「分かってます、無理に聞き出す真似はしません。街に来てからの事だけでお話しましょ」
「う、うん。何から話せば……?」
元よりそのつもりだったのか、スミアは街に来てからの話を聞きたいらしい。
数日しか経っていないのにどう話せばいいやら、シアは困惑したままだ。
「あたしはちょっとその辺見て遊んでくるよ。迷惑は掛けないからさ」
「あ、ルナ! ――もうっ」
一連を見ていたルナは窓から逃げた。察しが良く積極的過ぎるスミアが少し苦手なのだろうか。
残されたシアは仕方なく1人で彼女の相手をする事になった。
別に嫌だとか苦手とかではないが、どうにも対応しづらい。
団長はひとまず様子を見つつ、ある程度で切り上げさせる事にした。
そもそも仕事を放り出して来ている時点で問題なのだが……
結局……ほんの数日間では話す事も少なかったが、スミアは上手く話を進めてサボり続けていた所いい加減怒られた。
そうして団長がスミアを追い出し、シアは一息つく。
とにかく積極的で勢いのある彼女の相手は難しいが、同時に嬉しさもある。
分かりやすく好意的なら邪険にもしたくないし、美味しいお菓子をくれたので懐いたようだ。シアもシアで分かりやすい。
それはそれとして、逃げたルナには文句も言いたくなる。
一気に静かになった部屋で少しまったりとしていると、そのルナが戻ってきた。
「あ、やっと帰ってきた」
「えへへ、ごめんて」
シアは不満そうに迎える。対してルナはちょっとだけ申し訳なさそうにしているが、笑っているので反省はしていないと見える。
「ねぇねぇ、今凄い集団が来たよ」
「何それ、凄いってどういう事?」
不満気なシアの気を逸らそうと面白そうに言えば、シアはまんまと興味を移した。
「なんか、ムキムキのデカい男達が見せつける様に半裸で歩いてて、凄いとしか言えなかった」
「変態?」
変態としか言えない。
筋骨隆々でデカい男ならそこに居るが……半裸でしかも集団で見せつけるとなると普通ではない。
シアも流石に変態に近づきたくはないだろう。
「いや、そいつらは多分俺に用があって来たんだろうな」
「団長……変態の知り合いいたんだ。ムキムキだしそういう……」
「違う!」
すると横から団長が口を挟む。どうやら知り合いらしいが、ルナはなにやら酷い想像をしたようだ。
これには団長も慌ててきっぱりと断言した。
「そいつらはこの街で一番有名なハンターギルドの連中だ」
「一番有名……?」
半裸の集団でうろつくなんて行動をするから有名なのでは?
いや、まさかね……と、シアは考える事を止めた。聞いた方が早いだろう。
「そうだ。奴らは基本半裸だし、やたらと鬱陶しい絡みをしてくるからな。誰でも知ってる」
だがしかし、そのまさかだったようだ。
「やっぱりただの変態だよそれ……」
「いやいや、そんな奴らでも実力はとんでもないぞ」
思わずシアは呟くが、それを聞いた団長は少しだけ彼らの擁護をする。ただし変態という事は否定しない。
「そうなの?」
団長がどれ程の実力なのかは知らないが、この街のハンターギルドの実質的なトップはここだと聞いている。
彼がそこまで評価するとなると、本当に凄いのかもしれない。
「ああ、揃ってかなりの実力者だ。とにかく、悪い奴らじゃねぇし鬱陶しいだけだから、ひとまず皆受け入れてる」
という事らしい。変態で強いとは厄介だ。
実力があり悪人でもなく、むしろ護っている。仕方ないから受け入れざるを得ないと言った方がいい。
「変なの……まぁ傍から見れば面白そうだけど」
ルナは微妙な顔をしているが、関わらなければ面白そうのは確かだ。
そう思うのはシアも同様。面白ければ別にいい、それが彼女達だ。
「しかしあいつらがなんでここに……」
他ギルドがわざわざ訪ねて来た事は疑問だ。もし緊急事態だったならとっくに伝わっているし、連絡手段だってあるのだ。
そしてシアは気になるのか、1人で勝手に部屋を出ようと歩き出した。
「おい、ヴィクター!」
「ぴゃっ!?」
瞬間、ドカンと勢いよくドアが開く。
内開き故、危うく吹き飛ばされかけたシアは悲鳴を上げて尻餅をついた。
「お? なんだこの子は?」
上半身裸でムキムキムチムチなスキンヘッドの色黒大男が入ってくる。とんでもない存在感だ。
「お前、その子が吹っ飛ぶ所だったぞ。気をつけろ」
そもそも普通に開けて入って来れないのか。
シアは毒づきたくもなったが、見上げた半裸の大男に恐怖した。
2メートルは有るかという筋肉モリモリな体。なるほど素晴らしい程に鍛え上げられている。
そんなマッチョマンを至近距離で下から見上げたシアの視界は筋肉で埋まった。
「ひゃぁああ……あわわわわ……」
怖がってはいるが、鍛え上げられた筋肉に若干見惚れている節もある。
やはり筋肉は男の憧れなのだ。
これほど鍛えるには並大抵の鍛錬では無理だろう。
脂肪を落とし体を絞るのもまた途轍もない覚悟と自己管理と努力の成果だ。
この肉体を作り上げ維持しているだけで驚嘆に値する。
しかもそんな筋肉だけでスタミナの無さそうな体であって尚、ハンターとしての実力も素晴らしいとまでなると……
そんな尊敬と恐怖がごちゃ混ぜになってシアは混乱している。
「これはすまんかったなお嬢ちゃん、大丈夫か?」
そんなシアを抱き上げる大男。団長が連れ去った時より遥かに危険な絵面だ。
デカい両手で脇からひょいと持ち上げられたシアは更に混乱した。
彼としては、転がった小さな子供を見下ろさず目線を合わせただけなのだが……やり方がズレている。
「ひゃわわわ……」
「やめろ。怖がってるじゃねぇか馬鹿が」
流石に団長が止めに入りシアを受け取りソファへ向かい降ろす。
ルナが慰めながら頭をぺちぺちしているが、顔がニヤけているのは相変わらずだ。
「自分の見た目を考えろ」
「なんだと? この素晴らしい肉体を怖がるなど――」
真面目に忠告するが全く意味が無い。なにやらポーズをとっているくらいだ。
己の肉体に誇りを持っているのは良いが、性格も合わさって子供相手は絶望的に向いていない。
「あぁ、もういい……で、マーカス。一体何の用で来たんだ? 珍しいじゃないか」
そういう奴だったなと即諦めて要件を聞く。
わざわざ出向くなら何か事情がある筈だ。




