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愛されクソ雑魚TSエルフが紡ぐ異世界シンフォニー  作者: 桜寝子
第1部 第1章 新しい居場所
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第19話 幸せの祈り

「シアちゃん、眠っちゃったみたい」


 お風呂の時とは交代で、リビングではセシリアがシアを抱いて髪を乾かし梳いていた。

 そうして気付けば腕の中で眠ってしまった彼女を見て小声で伝える。


「本当だ……安心してるみたいで良かった」


 聞いてリリーナもその寝顔に思わず言葉を漏らす。

 まるで母親に抱かれて眠る子の様で……きっとそんな安心を与えられたのだろうと喜んだ。


「昨日も今日も、やっぱりシアちゃんは……」


「まぁ、想像しか出来ないけど。かなり心の傷が……ね」


 保護した時の泣き叫ぶ姿を思い出す。


 あの時のシアはまさに子供。

 制御しきれない感情を涙と声とで溢れさせた幼い少女。


 直に見ていた2人にはとても心に来る光景だった。


「私は団長さん達から聞いてたけど……無理も無いだろうな」


 離れた位置から眺めていたリアーネも会話に混ざる。

 彼女は大人達で集まって話しており、情報は全て聞いて知っている。


「でもこんな顔して寝られるくらいには、私達を受け入れてくれてるみたいだし……本当に良かった」


「そうだね。今日1日だけでも凄く距離が縮まったかも」


 朝からずっと一緒だった彼女達は、シアにとって既に家族だった。

 たった1日。たったそれだけの時間であっという間に絆された。


 彼女の単純さもあるが、それだけ愛情に飢えていたのだ。

 本人は自覚していなかったが……全て彼女が求めていたからこそだった。



「いいなー。あたしもシアちゃんと仲良くなりたい」


「私も姉として距離を縮めたいものだ」


 リーリアはまだ幼い故に、シアの悲惨な過去を聞かされていない。

 だからこそ複雑な事は考えずに、同じ子供として一緒に居てくれたらそれで良いのだ。


 流石に5人でお風呂は無理だったからか、1人残ったリアーネは若干残念そう。

 お姉ちゃんなんて呼ばせていた事もちょっとだけ羨ましかったりする。


「ふふっ……」


 揃って前向きに迎え入れようとしている皆を見て、ずっと無言だったルナが笑みを溢した。


「どうしたの?」


「そういえばさっきから大人しいね」


「……色々とあたしも考えちゃうんだよ」


 しかしセシリアとリリーナに訊ねられると、ルナは微笑みを引っ込めた。


 そして少しだけ影を見せる様な表情に変わり――眠るシアの頬を優しく撫でる。


「シアがこんなに安心して可愛い寝顔してるなんて……嬉しいけど複雑なんだ」


 ルナは胸中を吐露する。喜びに交じる何かを。


「複雑って?」


 なにかしら負の感情を吐き出そうとしているのを見て、セシリアは促す様に尋ねた。



「あたしが出会った時のシアは、本当に死にかけのボロボロだった。どうにかお世話を続けて、なんとか心と体を癒せた……と思ってた」


 その時の事を思い出しているのか――それとも小さな胸の中で燻るモノの所為なのか。

 語るルナの表情は暗い。


「でもやっぱり、あたしはこんなに小さな精霊で……人じゃないからさ。抱きしめてあげる事も出来ないし、人として、家族として癒してあげられるのが……羨ましいなって」


 シアが泣き叫んだあの時、ルナの心に芽生えた感情は――嫉妬。


「ルナ……」


「あなた、そんな事を考えてたの?」


「だってさ……そりゃあ、お互いに大切な存在だって自信を持って言えるよ。でも、あたしじゃなくてもって……」


 絶望から立ち上がる姿を見た。

 そうして一緒に居て、近過ぎたからこそ……シアが心の奥底に仕舞い込んだモノに気付けなかった。


 そんな心を、彼女達はあっという間に解きほぐしてしまったのだ。



「そんなに卑下しちゃダメだ。人と精霊がそれ程の関係になるなんて、素晴らしい事だろう」


「そうだよ。シアちゃんにとってルナは……代わりなんて居ない、かけがえのない人だよ」


「あなた達は親友って言葉でも足りない様な、凄く深い絆があるって……そんな風に見えるよ」


 悲しげに思い悩むルナに思わずリアーネは口を出した。

 それに続いて、近くでシアとルナを見ていた2人も感じた事を伝える。


「全部分かってるよ……ただの嫉妬だもん。それでも一緒に居るし、あたしだから出来る事だってある」


 大人なのに迷子の子供の様になっているシアとは違って、ルナは少しだけ大人だった。

 ただ親友としてシアと共に居るんだ、と自分を理解して答えを出せた。



「でも、あたしにまでそんな事を言ってくれるなんて……ホント、良い人達に拾われて良かった」


 悲劇の少女だろうと、よく分からない精霊だろうと、自然体で受け入れようとする。

 そんな人達に出逢えたのは本当に運が良かっただろう。


「その前に君と出逢えた事こそが、シアにとって一番大きいと思うよ」


 そしてリアーネの言う通り。

 ルナとの出逢いこそ、シアにとって本当に幸せな事だ。


 絶望の中から救い上げてくれて――人と精霊の垣根を越えて、何物にも代え難い絆を得る。

 それを幸せと言わずになんと言えばいいのか。


「……そうだね」


 同意する彼女の顔は優し気だ。

 ルナにとっても、それはやはり幸せだったのだから。




「あたしも! 細かい事はよくわかんないけど……シアちゃんと友達になって、いっぱい遊んで勉強して、それで……えっと……」


 しんみりした空気が嫌だったのか、リーリアが元気な声を上げた。


 幼い彼女には少し難しい話だったかもしれない。

 それでも、上手く言葉に出来なくても口を開いた。


「私も出来るだけシアちゃんと居るつもり。だからちょくちょくここに遊びに来るよ」


「毎日の間違いでしょ。どうせそうなる前提で考えてたし」


 セシリアはシアと会う為に頻繁に来るだろう。

 どうやらそんな事は筒抜けだったらしい。


 リアーネもリーリアも喜んで歓迎している。

 親友の家族とは言えあまり関わってこなかったが、シアのお陰で仲良くなったようだ。


「あはは……一応食費とか、ある程度はお金出すから……」


 読まれていて尚迎えてくれる気まずさか、苦笑い。


「無理はしなくていいよ。ウチはそれなりに余裕あるしさ」


「そうだね。私も仕事を少し減らすつもりだけど、それでもお金に困る程にはならないよ」


 正直助かるのは事実だが、セシリアは働きだしたばかり。

 それに彼女の家はハンター3人で稼いでいるが特別裕福ではない。

 一家揃って、意外とお金を使ってしまう性格なのだ。


 逆にリアーネとリリーナは揃って倹約的だったのもあって余裕がある。

 しかも中央――所謂首都で働く両親が仕送りをしてくれているのだ。


 シアは勘違いしているが逝去なんてしていない。

 説明しない方も悪いのだけど。


 ついでに言うと、大人達で話し合った時にお金に関してもしっかりやり取りされている。


「ありがとうございます……」


 その好意に甘えさせてもらう恥ずかしさか、申し訳なさか。

 少し顔を赤くしてお礼を言った。




「話が纏まったならシアを寝かせてやろうよ。あたしじゃ丁寧に運ぶのは無理だから、運んであげて」


 とりあえず会話もキリが良さそうだったのでルナが口を挟む。

 すぴすぴと安らかに眠ってはいるが、ずっとセシリアに寄りかかって座った状態だ。


「うん、そうだね。ほら、シアちゃん……ベッド行くよ」


「んぅ……」


 抱き上げられるとセシリアの服の胸元をきゅっと握った。


 これで中身が大人の男とか言っているのは滑稽だ。

 本人的には切実な問題らしいが、傍から見ればただの幼女である。


「1人で平気?」


「全然。軽いなぁ……シアちゃん」


「そのうち重くなるさ」


「なってくれるように沢山食べてほしいけど、小食みたいだし時間は掛かるかもね」


 子供の成長というのはあっという間だと、リアーネは妹達で見て知っている。

 しかし頑張って食べてはいたが、それでもリーリアより少なかった。


「こいつの貧弱さは甘く見ない方がいいぞ」


 そしてシアの貧弱さと言ったら筋金入りだ。

 散々お世話してきたルナはよく知っている。


「そうか……なら医薬品も揃えておこうか」


「お願い。ある程度はあたしがなんとか出来るけどね」


「あぁ、ルナなら充分な治癒魔法があるのか」


「殆ど毎日、シアが寝てる間に癒してあげてるんだ。――このままあたしも寝るよ」


 ルナが魔法で毎日の様に癒しても、すぐに体調を崩し寝込んでしまう。

 野生的な生活の中で異常な鍛錬を続けていた所為だが、それすらもシアが望んだ事だった。


 目的の為なら自分の体も顧みないのがシアの性格なのだ。

 それでもなんとかなってきたのは、偏にルナの魔法のお陰である。




「あー、そういえばあたしは言ってなかったな」


 ベッドに寝かされたシアの元にふわりと降り立つ。

 そしてちょっとだけ赤い顔で向き直った。


「その、ありがとう。あたしとシアを迎えてくれて。――これからよろしくね」


 迎え入れてくれた事と、この先への気持ち。

 家族の1人として、伝えるべき事を伝えた。


「特別な事なんて何も……当たり前の事だよ。こちらこそよろしく!」


「そうね。ただそれが出来る環境があっただけだもの」


「その通り。だから遠慮なんてしなくていいからね」


「あたしも! あんまり難しい事は分からないけど、友達が増えれば楽しいって分かるもん」


 特別でもなんでもなく、当たり前だとハッキリ言える事がどれだけ素晴らしいか。


 あくまで迎え入れられる環境があっただけなのは確かだ。

 しかしそれでも当然だと言える人は多くは無い。


「ほんと、あったかいなぁ……ありがと、おやすみ」


 ルナは俯いて……少しだけ声を震わせて言う。


 シアが絆される訳だ。

 ルナもまた、彼女達と居る事を幸せと感じる。


「「うん、おやすみなさい」」


 やはりと言うべきか。

 揃って優しい声で返す言葉は笑顔と共に。




 そうして皆が部屋を出ると、暗闇の中モゾモゾと布団に潜る。

 いつもの様に優しく触れて、魔法を使い疲れを癒してあげる。


「これがシアの求めてた幸せでしょ……」


 眠るシアに届かないと分かっていても――いや、届かないからこそ。

 普段なら照れ臭くて伝えられない言葉を。


「シアに自覚なんて無くても……こんな居場所を探してたんだ。あたしじゃ絶対に与えてやれないモノ。でも……あたしも一緒に居られるモノ」


 呟きながらシアの胸元に頭を押し付ける。

 届かないからこそ言える……だけど想いよ届けと言わんばかりに。


「これからもきっと……ずっと楽しいよ。シア……」


 それはシアの願いでもあって――ルナの願いでもあった。

 温かいベッドの中で、安らかな寝顔の少女の懐に小さな少女が同じ表情で並ぶ。


「私は隣に居るからね。いつも……いつまでも、幸せな夢が見られるように……祈ってるよ」


 これからも毎日が楽しくありますように……

 そんな幸せの祈りの中で、少女達は眠る。

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