第18話 洗い洗われ、開き直り 2
「さて、次はシアとリーリアよ」
「わーい」
「あー……お願いします」
セシリアは強制終了させられたから交代。まずはリーリアから。
子供を2人で洗うならさっきよりずっと早そうだ。
「くすぐったーい」
なんか嬉しそう。私もあれくらい無邪気な子供らしくした方が良いのかな。
そしてセシリアはやっぱりだらしない顔で洗ってる。大丈夫かなこの子……
ルナもいい加減飽きたのか上がってきて、お湯を張った桶の中で泡まみれになって髪と体を洗い始めた。
「ルナ、楽しかった?」
「そりゃもう! 温かいお湯の中を自由に泳ぐのって、湖とかで遊ぶのとは全然違うね」
待っている間はルナとお喋り。
分かってはいたけど、随分楽しんでたみたい。
「水中で動くのは魔法?」
「うん、水の流れを作ったりね。一応魔法で空気も少し確保してるんだけど……難しいんだよね」
「そんな事出来るんだ」
なんだその謎の技術。
ルナが難しいと言う程なら私には無理そうだ。
「シアだったら、自分を障壁で包んで魔法で水で動かせば出来るんじゃない?」
「おぉ、そんな手が」
確かにあれは物理的に密閉されるから、中の空気が尽きるまで居られる。
それを動かせば――いや、ならボールみたいに浮くかな……?
障壁のそういう細かい事も検証してみたいな。
「シアちゃん、交代だよ」
「あ、うん」
やっぱりあっという間に終わったらしい。
体を洗われるのはお母さんにもされてたし、恥ずかしいけど問題は無い。
「お願いします」
私はリーリアより更に小柄だし、もっと早く終わるだろう。
「さて、シアはしっかり洗うからね」
「とりあえずで拭いただけだし、ちゃんと洗わないとね」
あれ、そうでもないっぽいな。
まぁ今まで山で遭難してましたってなると、念入りに洗おうとするのは分かるけど……1日経って今更?
「そんなに汚れてないと思うけど……」
「まぁ確かに、拭いただけでお風呂を後回しに出来るくらいだったけども」
「それとこれとは話が別だよ。今までは魔法で洗ってたの?」
気分で川で洗う事もあったけど、基本的には魔法の練習がてらだったな。
「うん、沢山は無理だけどお湯作って浴びてた」
というか頻繁に体調崩してルナのお世話になる事が圧倒的に多かった。
そんな無理をしてまで鍛錬を続けてたのも、今思えば馬鹿だったね。
結局その頃から私はズレていたのかも。
「ホントよく無事に生きていられたねぇ」
「痩せちゃってはいるけど、傷とかも残って無いし……障壁もそうだけど魔法も相当上手くなきゃ無理だもんね」
何年も彷徨っていた子供にしては健康的過ぎるって事にはそのまま気付かないでいてほしい。
逆になんで誰も疑問に思わないのか不思議なくらいだ。
こっちとしては設定考えなくて済むから助かるけどさ。
「あー、うん。適性は無いけど上手く使える様に頑張ったから……」
「その適性が無いっていうのも気になるけど、それはまた今度聞こうかな」
「皆色々聞きたいだろうしねー。はい、流すよー」
優しく念入りにゴシゴシされたからくすぐったかったけど、とりあえず何事も無く終わり。
「んふー……」
髪と同じく、身体も凄くスッキリした。なんだか気分も良い。
でもなんとなく今後が不安だ。
凄く子供扱いされてるから、一緒にお風呂って今回だけじゃなさそうな気がするんだよね……主にセシリア。
「じゃあお湯に浸かろっか」
「あぁ、ズルイ……私が抱えようと思ったのに……」
リリーナが何故か私を脇から抱き上げて運ぶ。やめてー。
本当に小さな子供扱いだ。暴れて落ちたら危ないし大人しくするけどさ。
「ふぃ~……」
お湯に浸かると自然と声が漏れる。
お風呂ってこんなに気持ちよかったっけ?
リリーナに後ろから抱かれる形になってるけど、そんな事も気にならないや。
「気持ちよさそうだね」
「お湯に浸かるなんて久しぶりだから……溶けそう……」
よく考えたら障壁で囲んで中にお湯を溜めたらお風呂になったんじゃ……なんで今まで思いつかなかったんだ。
「のぼせない程度にゆっくりリラックスしようね」
なんか小振りで柔らかいモノを枕にしてる気がするけど、リラックスだ。
「こうやって少しでも体を休めなきゃ。シアちゃんはすぐ疲れちゃうみたいだし」
「それは元々……」
「山じゃ尚更栄養も足りなかっただろうし……これから少しずつ改善していこうか」
その山で改善どころか体を虐めてました、なんて言えない。
今後は真面目に改善するつもりだけどね。
あー……しかし本当に気持ちいい。
なんかもう眠くて意識が沈んでいきそう。あれ、お風呂でそういうのって気を失ってるんだっけ?
でも気持ちいいなぁ……温かい……
「ぬくぬく……ぽかぽか……」
「お風呂気に入ったみたい」
「ホントに溶けそうになってるね」
声がなんだか遠く聞こえる。
まずいな早く上がらなきゃ……疲れと眠気と興奮でのぼせてるかも。
「シアちゃん、寝ちゃいそうだよー?」
「あー……これ早く上がった方が良いかもよ?」
そうだね、上がらなきゃ……でも昔を思い出して切なくって。
よくお母さんも私を抱いてお風呂に……もうちょっとだけ……
「あれ!? こんなすぐにのぼせちゃった!?」
「ちょっとリリーナ、上がらなきゃ!」
「シア、上がるから持ち上げるよ?」
「んぅ……お母さん……もうちょっと……」
あれ……私今なんて言った?
「シア?」
「シアちゃん……」
「ふぁっ!? 違っ、今のはその……」
やっちゃった……これは恥ずかしい。
いくら思い出してたからってこれは無い。やっぱり幼児退行してる気がする。
「――っ」
リリーナが無言で抱く腕を強くした。
「……上がろっか」
そうしよう。
立ち上がればポタポタとお湯が垂れる。
私の顔から落ちた1滴も、きっとただのお湯だ。
「シア、目瞑って」
「ん……? わぷっ」
ルナに言われて何かと思えば、少し冷たい水が優しく私の顔を拭った。
のぼせたり恥ずかしかったりで熱い顔がちょっとだけスッキリ。
「……ありがと」
「さっさと水気飛ばすなり拭くなりしなよ」
お礼を言ったらぶっきらぼうになんか言ってる。
照れる事じゃないと思うんだけどな。
「シア、ほら……」
リリーナがタオルでまた優しく体を拭いてくれる。
自分は魔法で水気飛ばしてるのに私は拭くのか。
と思ったら拭かれてるうちに体の熱がマシになった。魔法で冷ましてくれたのかな……
「シアちゃん、着替えられる? まだのぼせてたり眠かったりする?」
「眠いけど大丈夫……」
「そう? じゃあ、はい」
今日私が選んだ下着……それから柔らかいショートパンツとシャツ。
せめて服を着るくらいは自分でやろう。
そしたら脱衣所を出て、皆でリビングへ。
「髪は私がやってあげる」
髪はセシリアが乾かしてくれるらしい。
やっぱりあえて魔法でやらないみたいだ。
使うのは温風が出る魔道具、つまりドライヤー。
これもお母さんがいつもしてくれた。
優しい手つきで髪と頭を触られているうちに、眠気が限界だったのか――他にも理由はある気がするけど、段々と意識が沈んでいく。
なんだかずっと寝てるような……でもまぁ、いいか。
だって……こんなにも……
今日はずっと温かかった。これが家族だった。
これから家族になって――いや、なったんだ。
新しい家族に囲まれて、きっと良い夢を見て、きっと良い明日になって……
多分こんな日が当たり前と思える様になるまで、時間は掛からないだろうな……




