第13話 保護猫エリンシア 3
「あー……嬢ちゃん。今後の事は色々と選択肢があるんだが――」
「俺の元で魔法について学ばないか?」
なにやら食い気味にダリルさんからお誘い。
話を遮られた団長さんと、何故かセシリアとリリーナが文句を言ってる。
まぁしかし……魔法か。うーん……
「私は適性無いですよ? 出来る限り上手く使える様にはしましたけど……」
「無くともだ。あの障壁が作れるなら魔力の使い方も上手いって事だろう。それに強化とか……」
「強化は無理です……体が弱くて、凄く負担になっちゃうので……」
確かに魔力の扱いは上手いって自信はあるけども。
痛くて疲れるから強化はあんまり使いたくない。
ついでに体が弱いって伝えとこう。
いや、ルナが言ってたような……まぁいいや、これ以上嘘言いたくないし。
「「「…………」」」
「そ、そうか……体が弱いから……それは、遭難していたからなのか?」
何故かダリルさんを見る皆の目が怖い。
「えっと、私は生まれてすぐ……1年くらい死にかけてたみたいなんです。その所為か昔から虚弱で……」
「「「………………」」」
皆の目がさらにキツくなった。
「あ゛っ……えっ、と……そうだ、障壁! あれは一体どういう物で、いつから使えたんだ?」
「最初は普通の魔力障壁しか出来なかったんです。でも……街が襲われて、庇ってくれたお母さんが……危なくて、護りたくて、その時に……」
思い出すのは嫌だけど語る意味はありそうだ。
もっと進化出来るきっかけが得られるかもしれない。
初めて使った時の状況も、そのきっかけの1つだろうし。
何か私じゃ分からない事を知ってるかも――
「馬鹿かお前はっ! どんどん嬢ちゃんが気落ちしてってんだろがっ!」
「ぐふぉぁっ!」
とか思った瞬間、団長がダリルさんを殴り飛ばした。えぇ……?
「全然ダメじゃないですか!」
「こんなのが師匠だなんて恥ずかしい!」
「話遮ったと思ったら何してんだてめぇ!」
「普通途中で止めますよ!?」
しかも何故か全員でタコ殴り。
何をしたっていうんだ……
私のつらい過去を無理矢理聞き出したみたいに思われてるのかな。
それで責める気なんて全く無いんだけど。
「すまなかったな。嫌な事を思い出させちまっただろうに」
何事も無かったかの様に向き直ってきた。
いいのかな、あの後ろで倒れてる人。
「あの……後ろの……」
「あんなのはいいの、気にしないでね。ほっといて話の続きよ」
「なんでよりにもよって、庇って亡くなったっていうお母さんの事を……」
あんなのって、君の師匠でしょ?
あとセシリア……さっきから小声が全部聞こえてるんだよ。
しかもあの時の事じゃないし。
「違うよ、お母さんが私を庇って死んじゃったのはその後。大勢集まって逃げようとしてる時に……皆、纏めて吹き飛んじゃった」
もしあんな途轍もない魔物がまた現れたら……今度は護れるだろうか。
ん、あれ……誰を? ルナは当然護りたいし、私は……この人達を……
「――っ!?」
ちょっと考え込んでる間にセシリアが崩れ落ちた。
「セシリア……」
「違っ、違うのっ……そんなつもりじゃ…」
さっきから何を勘違いしてるんだか知らないけど、そんなに気を遣わなくても大丈夫だ。
あれだけ泣いたし、もう気持ちは切り替わってる筈。多分。
「えーっと……?」
なんかもうどうしたらいいか分かんないから触れなくていいかな。
「はぁ……嬢ちゃん、学校に行く気はあるか?」
あ、そっちももう触れないのね、じゃあいいか。
ていうかやっと話が戻ってきた。
しかしまぁ、結局そういう意見になるよね。
でも卒業まで5年はちょっと長いかも……?
それにお金だって馬鹿に出来ない筈。
「学校は……お金かかるし、5年もなんて……その……」
やんわり拒否するってのはどうしたらいいのやら。
「それくらいの金はどうにでもなる。そんな事を気にするんじゃない……!」
「そうそう! それに私の妹も学校通ってるからさ! 一緒に生活して一緒に学校行ってさ……良いと思うんだけど」
「今年で卒業だが息子も通ってるしな。とりあえず通っていれば友達も出来るだろうし、色々学ぶのは大事だし……」
団長さんとリリーナはなんだか必死だ。
そりゃあ、どう考えてもそれが妥当な道だって分かるよ。
ルナを待たせてしまう事は仕方ない。
どうせ実力も準備も無いんだ。
でも、ただでさえ騙して保護してもらったのに余計なお金を……かと言って好意を無下にするのも……
あぁもう、どうすれば……
「うぅ……でもっ……」
「まぁまぁ、強制は違うって言っただろう」
尚も悩む私と慌ててる2人を見て、フェリクスさんが口を挟んだ。
「子供らしい普通の生活をさせてやりたいが、言われた通りにしなくていいんだ。ゆっくり休んで暮らしていく中で、何か見つかるかもしれないしな」
保留する事も、また1つの答えなのかもしれない。
それでいいんだろうか。
「ゴチャゴチャ考えねぇでいくらでも甘えりゃいい。ともかく……嬢ちゃんには幸せになってもらいたいんだ」
落ち着いたのか団長さんが言葉を引き継ぐ。
その言葉を聞いた途端、私はハッとした。
甘える、幸せになってほしい。
この人達は本気で私を想ってくれてるって分かる。
たった1日どころか殆ど寝てたのに、会話も全然してないのに。
どうして……
「あ……私……なんで……」
なのに私は一体何を考えてた?
心が大人だから。目的があるから。
だからあなた達が思っている様な子供じゃないんだ、なんて。
上から見下ろして分かった気になってた。
保護してもらっておいて『旅に出られる様になるまで拘束される』と心の何処かで考えてしまっていたんだ。
何様なんだ、私は。
情け無くて涙が出てくる。
ああ……しかも急に泣き出した所為で、また皆を困らせてる。
私はどこまで……
「ねぇ、言った筈だよ? あたしはさ、シアと居るだけで楽しいよ」
見かねたのかルナが飛んできて、ちっちゃい手で頬を挟んで言う。
「手段と目的を間違えないで。いつか……そのうちでいいんだよ」
そうだった……旅は手段なんだ。
私の目的は楽しむ事――幸せになる事だったじゃないか。
そんな事まで分からなくなってたんだ。
なんでこんなに混乱してたんだろう……ルナはとっくに分かってたのに。
なんで私は、こんな……っ
「ごめんっ……ごめんなさいっ……私、分かんなくなっちゃってっ……」
思わず目の前のルナを抱きしめる。
ごめんね、私は馬鹿だね……
でも私が伝えるべき相手はルナだけじゃない。
「ゆっくり考えてみるからっ……だから…………甘えて……いいですか……?」
私を助けてくれた人達に。
幸せを祈ってくれる……とても優しくて温かい人達に。
「っ……! 当たり前だよ……!」
「なにも遠慮なんかしなくていいの」
「わざわざ聞くもんじゃねぇよ」
「謝る事でもないな」
「ここに至ってダメとは言わんだろう」
「複雑に考えないで、思うままでいいんだよ」
セシリアも、リリーナも、団長さんも、フェリクスさんも、ボロボロのダリルさんも、セシルさんも。
皆笑顔で、当然だって。
受け入れてなかったのは私だけで。
通過点なんかじゃない。
今居るここが、目的の1つだったんだ。
「ごめん、なさいっ…………ありがとうっ……ありがとう……ございます……!」
本当に、私は馬鹿だ。
心はぐちゃぐちゃで、手段も目的もめちゃくちゃで。
何も分かってないのに分かったつもりで。
温かく迎えてくれる新しい居場所を見逃すなんて。
余計な事を考えないで、助けてもらった事に感謝する。
それだけで良かったんだ。
旅をしたい……それは確かな望みだけど。
この居場所だって望んでたんだ。
ルナは気付いてた。
私が自分で気付けなかった――見ないフリをしていた願いに。
もう誤魔化さない。見ないフリはしない。
この温かい人達と、幸せに暮らしたい。
そしていつか旅に出る。
その時まで、いっぱい笑っていっぱい楽しむ。
傍に居てくれる、理解してくれる親友と一緒に。
そしてその時に、皆も一緒だったら……
――なんて。
そんな事を思いながら、ずっとルナを抱いてたら怒られた。
「いつまで抱いてるのさ、暑苦しいよ! べちゃべちゃじゃないかぁっ!」
真っ赤な顔で怒ってるけど、照れてるだけって分かってる。
「えへへ……ごめんね……」
「へへっ……ほんと馬鹿だよね、シアは」
そんなルナと顔を見合わせて笑う。
そして私達を微笑ましく見守ってる皆が居る事が、なんだか嬉しくて。
本当に……良い人達と出逢えて良かった。




