第12話 保護猫エリンシア 2
「けぷっ」
もう食べられないってくらい詰め込まれた。
好意と善意なのが分かってるからつい受け入れちゃってるけど、流石にあーんってされ続けるのはちょっと……
「シアちゃん、もうお腹一杯?」
とっくに満腹だよ……
というか、仮にも遭難して弱った子供に急な沢山の食事は無理だよ。
「シア、口元汚れてる」
リリーナにむぎゅむぎゅ口元を拭われた。
なんかもう保護してきた子猫のお世話をしてるみたいな……
「お子ちゃまのシアにはもう入らないってさ。無理に食べさせても戻しちゃうよ?」
ルナはニヤニヤ笑ってる。
私が甘やかされて恥ずかしがってるのを見て楽しんでるんだろうな。
だからわざと悲壮感を煽って2人を焚きつけたのか。
「そ、そうだね……」
「ごめん、つい……いっぱい食べてほしくって」
悪気無いのは分かってるから謝られても困る。
それに彼女達を拒絶は出来ない――したくない。
「ところで……これからどうするの?」
食後、お腹を休めつつ聞いてみる。
引き取ってもらえたのは良いとして、何かするべきなんだろうか。
「特にシアちゃんにしてもらう事はないかなぁ……精々、詳しいお話くらい? 後は買い物とか」
特にやる事無し……まぁそれもそうか。
逆に私自身はどうしたいんだろう。
「んー……」
目を瞑って考える。
私がやりたいのはルナと旅に出る事だ。
色んな事を見て聞いて体験して、目一杯楽しみたい。
そうして幸せになりたい。
だけど保護されたからこそ、そう簡単に旅には出れない。
わざわざ善意で保護してくれた人達が、いってらっしゃいなんて言う筈が無い。
「んー?」
ルナが頭に乗ってじゃれてる所為で頭がグルグル。
重くないけど鬱陶しい。
で、旅が許可されるまでここで生活して……じゃあその間は何をするか。
鍛錬を続けたいけど、保護者の目がある以上は今までの様な無茶は出来ない。
「むー……」
「シアちゃん? どうしたの、唸っちゃって」
「お腹痛くなっちゃった? 違うか……なにか考え事?」
「ん……私がしたい事ってなんだろって。助けてもらったのは良いけど、どうしたらいいか分かんなくて……」
「あたしはシアと居られたらいいけどねー。それだけで楽しいし」
ルナが頭に乗ったまま言う。
私もルナと居れば楽しいけど、旅が……
ていうかなんでさっきから頭に乗るんだ。
「そっか……まぁ、その辺りの事も相談して決めていきましょ」
「ゆっくり休んで、遊んでさ。それで考えていけば良いんじゃないかな。シアちゃんの歳で悩む事じゃないよ」
セシリアも諭す様に言うけど……なんか含みがありそうな感じ。
まぁそうだよね、どっちにしろ旅や鍛錬はどうしようもないんだから。
その後しばらくまったりしていると昨日の人達が来た。
改めて話をするってさっき言ってたけど、最初からその予定だったのかな。
「やっと来た……遅いですよ! シアちゃん、もうウトウトしちゃってるのに!」
いや、確かに満腹でまったりして眠くなってるけど大丈夫だからね。
「すまんすまん……というか色々と仕事の調整してやってんだから文句言うな」
団長さん、だったっけ。赤髪でムッキムキのデカくて渋いおっさん……かっこいい。
「セシリア、全部投げ出して行くんじゃない。心配なのは分かるけどな」
「まぁまぁ、僕らじゃ彼女の世話なんて出来ないんだからいいんじゃない?」
続いて茶髪のおっさん。
団長さん程じゃないけど、やっぱり鍛えていて逞しい。
並んだ金髪のお兄さんはまだまだ鍛えてる途中って感じかな。
「調整する為にもやってもらいたい仕事はあったんだけどな」
そしてエルフのおっさん。
一回り若く見えるけどエルフだからか。
「だってリリーナだけズルイもん。私だってシアちゃんと居たいし」
「え、私ズルイって思われてたの?」
そんなに私の面倒を見たいのかな。
私の周りはお世話好きが多いな……
「まぁ、んな事は置いといて……とりあえず自己紹介といこうか。俺はハンターギルド『赤竜の牙』団長、ヴィクターだ」
手を叩いて半ば無理矢理に場を整えて自己紹介。
「俺は副団長のフェリクス。で、こっちは俺の息子の――」
「セシルだ。副団長の息子って言っても、普通の団員だよ。セシリアは僕の妹だね」
団長と副団長なんて立場の人が来るなんて、面倒掛けちゃったな。
目線で促がされて名乗ったセシリアのお兄さんは……ぱっと見20歳くらい?
「俺はダリル。ギルド内じゃ3番手って感じで上2人の補佐だ。一応そこのリリーナの魔法の師でもある。君とは是非魔法やあの障壁について――」
エルフのおっさんが名乗りながら私に迫ってくる。なになに?
「止まれ阿呆。幼女に手を出す変態になってるぞお前」
団長さんがダリルさんを引き戻した。いや、そこまでは思わないけど……幼女?
「……私、幼女じゃないけど」
「シアちゃんはもうすぐ10歳だってさ。――きっとちゃんと成長出来なかったから」
「お、おぉ……そうか。つらかったろうなぁ……これからいっぱい食って大きくなれよ!」
セシリアは小声で何言ってんの。
これ以上無駄に悲壮感を煽らなくていいってば。
お陰ですっごい気遣ってくる。
頭をわしゃわしゃされてるというか、団長さんの手がデカくて鷲掴みにされてる。
「私はエリンシアっていいます。あの……助けてくれて、ありがとうございました」
「一応あたしもかな? ルナだよー。あたしまで面倒見てもらってありがと」
乱れた髪を直しながら私も名乗り、改めて頭を下げてお礼を言う。
いや本当に、良い人達に拾ってもらえて良かったよ。
そしてまた下げた頭にルナが乗ってくる。
今までそんな事してこなかったのに、随分くっついてくるなぁ……
「人と街を護るのがハンターだ。助けなかったら誇りも失くしちまう」
「当たり前の事をしただけだからな、そんなに重く受け止めなくていいぞ」
「大人として子供を護るのは当然だ。俺に子は居ないが、コイツらは親としても放っておけないだろうしな」
大人3人がカッコいい事言ってるけど、流石にちょっと罪悪感が……
話が殆ど嘘で呑気にとんでもない鍛錬してましたとか言えない。
「あのっ、そんなに深刻じゃなくて大丈夫だから! えーっと、そうだ! 私これからどうしたらいいか分かんなくてっ……何か出来る事とか……」
無理矢理でも話を変えよう。
頭をブンブン振って打ち切って、何かする事があるか聞く。
これ以上は居た堪れない。
騙したのは私なのに、何をやってるんだろうか。
「っ……そうか、どうするって言ってもなぁ……」
団長がなんだかハッとした後に困った様に呟く。
うん、まぁ唐突にそんな事聞かれても困るよね。
そしたら皆が1歩離れて小声で話し始めた。
別に聞こえない様に話さなくても……普通に話せばいいのに。
『ちょっと! 気を遣わせてどうすんですか!』
『いや、そういうつもりじゃなかったんだが……』
『僕たちが重く考えているのを察しているのかも……気丈な子だ』
『さっきも随分悩んでたんだよ』
『急に当たり前の生活に戻って戸惑っているのか?』
『それよりも何かしなきゃって感じじゃないか?』
『まさか、助けた僕らに何か報いろうと?』
わざわざ無理に聞きに行くのも良くないだろうし、大人しく待とう。
『そんなの……こっちがつらくなっちゃうよ』
『ああ、しかし……普通に生活してもらう以外無いよな』
『その普通が分からないのかも』
『10歳なら学校に通う事も出来るぞ』
『まぁ本人の意思を確認しなきゃな。強制するってのも違うだろう』
『じゃあとりあえず学校について聞いてみようよ』
『そうだな。個人的にはあの障壁や適性が無いって話も気になるが――』
『それは後にしとけ』
長いな……まだかな。
ルナと遊んでようかな。
ていうか相談って、何をそんなに話す事があるんだろう。
と思ったら、そこから少し話しただけで相談は終わったらしい。
皆揃って私に向き直って、団長さんが1つ咳払いをして口を開いた。




